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布野修司さんに聞き語る | |||
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04 ファイナル10選(2) おもしろい |
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佐藤:6番目の発表、253番作品です。霞が関ビルを土や植物などで崩壊させるような提案で滋賀県大の学生さんでした。 布野:へー。芦澤研じゃない 佐藤:各作品の研究室までは分かりませんです。自然の力を借りて、壊そうとしているのか文明を延命させようとしているのか分かりませんでした。私には無い被害妄想系とでもいうのか、独特な建築愛でして不思議な案でした。 (注:芦澤研ー現代の地球環境、社会問題などを治癒する建築を実現するための実践的設計方法論を研究しています。研究範囲を建築分野に限らず、生態学、植物社会学、音楽など他分野と連携しながら、建築の可能性を拡張していく研究を行っています) 布野:芦澤竜一が自分の家でやろうとして絵を描いてます。 佐藤:そうですか、先生の影響を受けているんですね 布野:滋賀県大だとしら、そうですよ。パワポか何かで発表したの、皆、準備してきているの。 佐藤:模型も、パワポも両方作ってました。10選に決まった後に学生は事務局にパワポのデータを渡す。発表時には会場の大きなスクリーンに投影され発表してました。時々PC画像が動かなくなって場がしらけることもあったです 布野:これシステムの提案があるんじゃないの 佐藤:システムの提案は全くなかったです 布野:絵だけ。もっともらしくエコ的な提案入れて置けばいいのに 佐藤:次は7番目の330番の作品です。沖縄の方言を元に、母親の家を計画し、裏のおばあちゃんの家とで外部空間をつくる、環境を演出するというのでしょうか。面白い案でした。が、方言と空間の対応について、やや解説量が多く、本土人には説明が明快でなく、審査員に理解されていないようでした。 布野:沖縄の学生が出してきたの 佐藤:沖縄生まれの母親のための住宅の提案で、母の実家が沖縄で、そこに母が新築。関西の学生のようでした。言葉や沖縄の戦後史をベースにして建築化する案でした 布野:この絵はおもしろいじゃない 佐藤:沖縄の方言と対応した空間手法、設え方のようです 布野:ちゃんと詰めてあったら面白い。女の子ですか 佐藤:男です、将来面白い建築に至る予感はありました。沖縄の歴史的悲劇も理解しようとしてましたし。 布野:沖縄は、本当に建築的にパワフルなやつをやるべきだよ。 佐藤:基地問題、本土との格差問題、多量にありますからね。ほとんど提案の本質は理解されていなかったですね。 布野:これを使ってこういう建築になるわけ、これはちょっと弱いね。もうちょっとやればいいのに。 佐藤:住宅じゃない方が強い建築になったかもですね、沖縄で育ってない、その弱みが出ましたかね。 佐藤:次が8番目の360番の作品です。日本一位になってます。 布野:これは何 佐藤:ズントーのブレゲンツ美術館を二次創作したというか、外壁全体が動く模型を提出し、審査員に高い評価を得て一位になりました 外壁が動くんです。 布野:10階建てのビルみたいに見えるけど 佐藤:5階建の美術館です 佐藤:外壁が動いている動画はYouTubeに公開してますので、動画を開きます 布野:これは床 佐藤:この絵は外壁の動きを高さで表現した図です 布野:「外壁を動かす」というのは色々あるけど。何時もは何呑むの、日本酒呑むの 佐藤:福島の地酒が多いです。美味い地酒少し呑みます。 布野:風か何かでひらひらするっていうこと 佐藤:風ではないです、周囲の音を感知して動く、光や周囲の環境要件を投影して動く、プログラムも作れるそうです。動力源は太陽光にしたいそうです 布野:メカはちゃんとしているの 佐藤:実物大では動かしてないですが、模型のメカがちゃんとしてて外壁は動き続けました。 布野:デティールを描くべきじゃないの、この模型じゃなくって。 佐藤:目指す建築は霧みたいな建築だそうで、現在はそこまで至らないので、とりあえず外壁を動かしているそうです。 佐藤:「自分が大好きなズントー建築に生命を与えたい」ということのようです 布野:いいんだけど、飛んでいっては困る。そのメカがちゃんとしているのか、デティールだよね、ジョイントとか、そういうの。 佐藤:そこには関心が無いようです、壁だけ動く模型を提出したんです 布野:でも、エンジニアはそれを考えないといけない。 佐藤:そこは飛ばしてます。模型を動かすことに集中して一位です。この提案は彼の最終建築ではない、蛹のような過程の形の提案ですね 布野:ファサードの話じゃないか。ファサードデザインって言うんだよ、こういうの。これにエコが絡んで来るんだな 佐藤:一位の渡辺さんは「建築をもう少しはみ出して、コンピューテーショナルなデザイン手法から、建築らしさを保ちながらも、生物的、動く、抽象的な生命を創りました」と語ってました。 佐藤:次は8番目の363番の作品です。富士山を建築と見立て、富士山の各所における環境に対応した小さな建築を数個、設えて、富士山を再可視化する建築の提案でした。 布野:山小屋みたいなの 佐藤:寝泊りじゃないんですけど、機能を分解し配置した小屋ですね。面白い提案でしたが、さほど評価されませんでした 布野:これが今のプロジェクトなの 佐藤:富士山に8か所ほど小さな建築を設計した案でした。絵は山の勾配と隙間から新たに見る景観の提案、その上に展望テラスが載ってます 布野:分かった分かった。8か所。そういうテーマね 佐藤:小さな建築を設置することで富士山の特徴をさらに発見、可視化するという提案 布野:それはあるよね。割とオーソドックスだ。富士山のリノベーションだって、ふふふふ。凄いね。噴火したでしょう。 ガヤガヤ賑やかになりだして聞こえない 布野:(店主の)とくちゃんは日曜日も来るの 店員:今日はこないです 布野:日曜日は来ないんだ、 店員:来るときもあるんですけど今日は来ないです 布野:日曜日も来ることあるんだ 店員:ありますよ 佐藤:これが10番目、115番の作品です。福井市の住宅団地に建っている住宅の一階を開いて全部パブリック空間にしてしまうという案 布野:戸建て団地だ。さっきのプレハブ団地みたいなセッティングだ 佐藤:三位になったプレハブ団地の敷地は仮想地したが、この提案は作者の故郷です。20年前に整備され水害に遭った戸建て住宅地を対象としてましたね。1階の外壁を全て取り払ってしまい他者と共有できる機能を入れニュータウン再生。 布野:基礎か 佐藤:基礎という愛称で呼ばれてました。 布野:お神楽にするのかな 佐藤:一気にお神楽仕様、そうですね 布野:なんで、そうしないといけないのかな 佐藤:田舎の住宅団地によそから来る人が集まる場がないからだと思います。駅前のパブリックじゃなく、身近な場所で他者・皆の居場所づくり、というか、パブリックというか。 布野:なんで開けないといえけない、2階建の1階を抜くってわけ 佐藤:1階の壁を取り払っちゃう 布野:危ないね、壁入れないと危ない 佐藤:基礎を高くしたりして、風呂やコインランドリーやギャラリーや店などを1階に入れる提案でした。住宅地に人的交流の場を設けたいようです。
布野:青木淳とか、いなかった。 佐藤:審査員長でした。第一回目投票では、委員長の大きな〇は動くとプレファブの工法2作品に投票してました。基礎は小さな〇でした。 布野:なんかレベル低いね、ぜんぜん低いよ、何が日本一なの。各大学に、そこら中にあるんじゃないの。 佐藤:各大学にレベルの高い作品があるなら、それならたいへんいいんですが。俺は大学に関係し暮らしてないので判断できないです。で、聞きまわってみました 布野:俺が観た限りで、えー、こんなのが日本一なの、酷いね。酷いね。 佐藤:所属している学生の大学の建築教育が酷いのか、評価されずここに来てしまった学生のレベルが酷いのか、日本一決定戦の審査方法が酷いのか、今年だけ審査委員が酷いのか、俺には分かりません。 布野:僕は観てないから分からないけど、ただ低調は低調かも知れない。時代なんだなやっぱり、建築にリアリティー感じれないですよ。これはそうだけど。ザハみたな建築は否定されそうだと思ってる訳でしょう。 佐藤:でしょうね、貴重な案だった国立競技場で日本人は没にしちゃいましたから、あの混濁は学生にも影響は出ちゃうでしょう、 布野:いやー面白い。 佐藤:それはよかったです。「学生が喋んない」って聞いてたんで、本戦プレゼン時の内容を文字起し、審査会場で誰が喋ているのか言葉を積み上げて棒グラフにしてみたんですよ。 布野:学生の質疑応答の内容をね 佐藤:そうです 8分間の持ち時間内にあった質疑応答の言葉数を可視化してみたんです。 そうしたら一位の学生が最も言葉数が少ないんです。右の棒グラフの左から3番目が一位になった彼の言葉数です。持ち時間は同じなので、審査員が多く語り合っているんですね。 布野:それはあるよ。だって喋りたくない作品は普通しゃべらない。気になる作品をしゃべるんだ。 佐藤:一位作品は審査員同士が盛り上がりました 布野:本人分かってなかったでしょう 佐藤:一位の学生は分かってました。 布野:自分の意図じゃないところで評価されたんじゃないの 佐藤:学生の意図が評価されたんです。一位の学生は「模型で受ける」と確信犯でした。一位になると思い込んでました、審査員同士が盛りあがってくれて、語らなくてすんで助かったしめしめって感じで、彼は審査員を観てましたね。 二番目の棒グラフですが、審査員の誰が学生に多く喋らせたのか、その棒グラフも作ってみました。 若い辻審査員と五十嵐審査員が主に学生に語らせていました。 学生の作品の質が例年と違って落ちてるのか高いのか、毎年観てないので判断できませんでした。 ですが敷地がない、具体的に人に寄与する建築じゃない提案が評価されて、1位、2位、3位でした。 布野:審査員がこの作品はここが良いっていう話なんじゃないの。その後、投票するんじゃないの。投票するための情報収集の質疑応答。 佐藤:質疑応答まではその段取りで進みます。審査が進むんですけど、投票になると票が割れるんです。また票の絵を出しますね 布野:だから、卒業設計なんかだと、個人賞で「俺はこれがいい」っていうのを与えて。 佐藤:無理に一位を決めず、審査員賞でまとめる、その方が審査員もすっきりするでしょうね。 布野:各大学にゲスト呼んで来たら個人賞を与える、全体の評価は常勤を入れて多数決で決めるんだけど。いや、いいもの見せてもらった。レベル分かった。低い!低調だよ低調 佐藤:仙台の作品よりも、各大学教育による卒業作品の質が高いなら、各大学教育効果が高いっていうことなので、いいのではないですか。 大学で評価を受けない、大学ではダメ・ダメ作品が日本一決定戦では高く評価される、それって健全ですよ。 布野:これ持ってこられたって、ゼネコンとか組織事務所は採用せいへんで。 会場ががやがやワイワイの大騒音 その05へ続く |
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