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聞き語り記録 | ||||
辻琢磨さんに聞き語る (SDL2018最も若い審査員) | |||||
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04 辻の思い共有されず 審査員長の選択 タバコ吸わせろ 辻の後悔 リアルティの有無 終焉でどう |
04 ■辻の思い共有されず 辻:そいう意味では、僕の発言っていうのは、ぐちゃぐちゃになってから、出来たみたいなところがあって。なんでターザンを推したかというと。6割ぐらいは、あの作品を推したんだけど。4割ぐらいは言っている内容と態度。スキがたくさん有って、色んな人を巻き込む力はあるのと、一つも打算的ではない。「突っ込んでいくぞー」みたいな感じが、仙台とか、デザインリーグ的な設計を巡る環境に対する批判になっているような感じがしたんです。 店員;失礼します。 佐藤:火を消してもらいますか 店員:かしこまりました。コースのデザートです 辻:はいはい 佐藤:辻さんが壇上で、スキに拘っていたのは前段の話だと思うんだけど。設計を巡る環境に対する批判、その理由でターザンを推した。 ところが、壇上でそこに気付いているのは、門脇審査員はちょっと語っていたけど、それを「きちんと作り込んだら、スキが生まれちゃうっていいよね」という筋書きにしたかった。辻さんは最初からスキを目標にして、そこに到達させようと「審査日まで続いていた、審査などのキツキツのSDLの仕組みを作りを変えていきたい」と表明し、ターザンを推していたんだけど、共有されなかったね。 辻:そうですね 佐藤:そこで暴れていれば、事態に気付いた審査員は居たかな。今までの建築を終焉させることが出来たかもしれないね。 ■審査員長の選択 辻;なるほどねー。そこまでの機転は利かなかったなー 佐藤:一回目の審査員だし、しょうがない。 辻:青木さんは同じようなことを最後に言ってたと思うんです。 佐藤:審査委員長は「自分では到達できなオモシロい発見をしている人」押したいと。建築を固定していない立場で語っていたね。近代の価値観みたいなものを、予め持ったない立場で生きているんだという姿勢でしょうから。持たないが故にあらゆるものを吸収する姿勢。あの時の言葉だけど「刺激的なものが僕には面白いです。つまり僕が知らない事っていうのかな、知らない世界を持っているなーと思うものがいいと思っています」 審査委員長は予め建築を終わらせてから、始めている人だということです。終わらせているが故に、後期キャピタリズムの現状況下でも、軽々と建築を作り出せる。 (第一回投票の様子) 委員長は、審査会場も「ぐちゃぐちゃにばらけるのは明らか」って分かってて審査に臨んでいた。「卒業設計日本一に関して議論をしていくと、3、4日やっても尽きない」とも語ってました。だから、審査場で票がバラバラに、バレた状況が進んで来た時に、さっと「一位だけ、まず決めましょう」と言い出せるんだよ。 一位を決める票も、2票が2人と1票が3人に割れた。で「一票に入れた人は、2票のどちらに乗るんですか」と迫った結果 渡辺さんの「動く」が一位になった。 辻さんが語る「敷地が在る、プログラムが有る、具体的な建築である、そういう定義で審査したい」という意図は吹き飛ばされてしまった。 赤松・辻・田中・五十嵐ががっちり組めれば違う展開になったが・・ 辻:五十嵐太郎さん的には、ターザンじゃなくって。アンチヒューマンとヒューマンみたいな話。ちゃんと票を割って評価されるに足りる案として、は基礎か塩で。それに乗っかっていれば、もうちょっと赤松さんも乗り易かったと思うんですけど。 僕がターザンを推したところ、というのは、価値がズレているから。スキのところだから。 ■タバコ吸わせろ 佐藤:こんな窮屈な時間割の審査会場でやるな!その立場での発言だった。辻さんは「俺がタバコも吸えない、場所も時間無い窮屈な場で、デザイン日本一決めているんじゃねー」よっと言っているんだけど。「こんなの、やめちまえー」とまでは言わないだけで。言っていたようなもんだけど。 辻:ははははは 言おうとしたんです。「タバコは吸わしてくれ」とは言ったんだけど 佐藤:ふふふ、あの場では、はっきり言えないでしょう。そういう意味で言っているだけど、気が付かない。もったいなかったなー。 辻:たぶん、なんて言ったらいんでしょうかね。審査員の方々が言っている事は分かると思っているんです。ただターザンのクオリティがあまりにも客観性に乏しくって。「防災計画として成立しているのか」ってうのが怪しすぎるから。 押せないっていう事だとは思う。僕はそういう理解ですけどね。 佐藤:「そのことこそ議論すべきだ」と辻さんが言い張れば 辻:そうですね。 佐藤:そこで五十嵐審査員の「隙だらけで話にならんない」発言があって、誰もサポートしなかった。辻さんには痛手だったかなーという気はします 辻:そうですね。 佐藤:赤松審査員は委員長と姿勢が真逆に見えましたね 辻:僕は赤松審査員は誠実だなとは思いました 佐藤:今の社会が求めている私的理想の建築家像なのよ、語り方だったかな。 それって、多くの建築を発注する役所が求めている建築家の振る舞い方、そこで評価されるんだろうけど。多くの役所に中には、よき建築家かどうか判断できる仕組みが無いので「それって何なの、空気なの」って思いました。極端に言えば「あんたの語る地域なんて在るのかよ〜、今の価値が将来有効なのかよ〜」かな。現状対応実践派の視線だよね。 ■辻の後悔 辻:そこはねー「何もない」っていう人と。「在る」っていう人が居ると思うんですよ。それは信じている人はいると思いますよ。青木さんは、むしろ、呑み会の時に、ちらっと言っていたのは「塩的なやつは完璧に見えれば見えるほと嘘くさく見える」って言っていて。「だから推し切れない」っていう話はされていて。僕が一番後悔したのは、その言葉を委員長から引き出せなかったことです。 佐藤:審査過程を文字したんだけど、中田先生の質疑応答を読むと分かるよ、塩へは最初から最後まで問い続けた内容だ。詰め切れなかったがリアリティーを問い続けていたね。学生の案なので問い詰めて、いいのかどうか、俺には判断できないんだけど。プレゼン時の応答ではこんなふうに 「それは本当に出来る事なのか、っていうのが。話を聞いてて、もしそれが理想だと思ってしゃべっているだけだど、買えないなーと思ったんだけど」 さらに追うんだけど 「・・凄い、安易に出来そうだから、出来ます、っていうふうに言い切ると、ジャンプしてリアリティーを獲得するような事。僕は設計では難しい気がしていて。とくに卒業設計のときはね。」 あそこで、もうちょっと議論になれば、塩のリアリティーの無さは暴かれ、共有できた。議論になったと思うんだけど。 俺がそこで分からないのは、卒業設計展に、どもまで建築のリアリティーを持ち込んで判断するのがいいのか、その点。卒業設計にも、地方再生ふうファンタジーが多く出品されるでしょうから、それだけでOKなの。塩は絵も綺麗だし、作り話だとしても今、絶対受けるよ。提案者のリアルが正当なら文句言えない、その空気は今だからあるよね。それで、いいよねって話で、それで終わっていいの。宗教までは到達してないが、地方再生物語のアニメだったら面白いんだけど。巨大で軽々しい三角形のトラスが、カモメの飛び交う荒海を行き来して地方が再生された〜・・・というアニメ物語ならいいんだけど。建築だからね。台風来たらひっくり返り、沈没するでしょう。 辻:ははははは。そこももうちょっと議論したかった。 ■リアルティの有無 佐藤:「動くが一番でしょう」と前の日に想い、友達に話したんだけど、信用されなかった。審査員の面々は塩を一位にするだろうなーと思って観てたんだ。 辻:なるほど。 佐藤:塩は作者が物語の中に自己陶酔していくのが分かるんだよね。ファサードの回転もそう思った。面白いけど新築ではね。 辻:新築なの、って話ですよね。 佐藤:霞が関ビルは例外的に審査員同士で議論になったね 辻:あの子は滋賀県大で教えたんですよ。だから知っていたんです。デストピア的な提案っていうのは最後まで納得いかなかったですねー。彼女が言いたいのは凄く分かる。僕は「スキが大事だ」と言っているのは、けっこう同じ事だと想ったんですよ。 最後にも言ったと思うんですけど、霞が関ビルさんが言っていることを、ターザンがやっているような気がするんで、建築的にはそっちを推したい。ビジョンと言うとあれですけど。ちゃんと、描こうとしている。自分の世界に人が付いてきそうな感じがするというか。だから推せたんですけど。 言っていることは一緒だ。僕も共感するんです。就活が、どうとか、SDLがスキが無いとか、全部、資本主義から来ていることだから。それに対して凄い怒りがあるのはよく分かるんだけど。そういうアイディアの創発の先にちゃんと人を巻き込むような、なんていうのかなー、人がそこに吸い付くような、魅力っていうのが。 佐藤:表現の仕方が違うだけだと。 辻;あの表現だから、ああいう枠で10に入れたっていうのはあると思うので。彼女に戦略が有ったのか知らないですけど。結果論としては日本で10番に、あれで入れたんだから。 セミファイナル時に、赤松さんと僕で霞が関ビルが入っているグループを担当したんです。僕も赤松さんも、これはちょっと押せないよね、みたいな。ふふふふ。議論は盛り上がるんだけど、押せないよねって。スルーしたんだけども。競りの時に再召喚されてしまい、結局入ったっていう。感じだったんですよ。 佐藤:今話題になっているのはリアリティーの有無。お金の事とか施工の事とか技術の事とか。法律とか。超えなきゃいけない要点は多くある。そういう事を卒業設計には、どこまで絡めるのかっていうことだよね。ここも、ごっちゃになってしまっている。 辻:そうですね。 佐藤:語るだけで面白い建築、それでいいんだとして評価することも可能。 辻:現代建築のそれが最大の魅力ではあるんでしょうね。そもそも評価軸が分からないし、定まってないのが現代建築の魅力っていうか、特徴ではありますよね。 ■終焉でどう 佐藤;五十嵐太郎さんが『オルタナティブモダン0』で、近代建築を成り立たせているのは大きく三つに分けられるとして、建築と社会の可能性、建築と社会の新しい意味、建築と社会の新しい価値に分けて語ってました。 社会的な面は王政国家から資本主義や社会主義へ。技術・構造的なものとして鉄やガラスやコンクリート。文化・美学的なものとして、ゴシックやバロックの○○様式、アカデミックなルールを解除して抽象的なボリューム操作へという枠組みがあったと。2004年2月に語っています。 モダンの代案をさぐり討議されていますが、その後、理想のエネルギー源であった311後原発が爆発し国民の多くに放射能をまき散らす事態に至りました。戦後社会を支えた理念や人間の理性は敗北してしまい日本の大地の一部に人間の営みが保てない場所が生まれました。一端終わらせてから、次を始めればいいんだと俺は思います。終わらせられないので、ダラダラ混乱だけが続いています。きちっと終わらせてから未来やビジョンを語りださないとね。目先の状況対応ばかりに費やされてしまう政治家の思う壷にはまります。今回は、「建築の終焉を確認したSDL祭りであった」で、いいじゃないかじゃないかと。 辻:なるほどねー。 佐藤:311以前の建築の定義で、311後を語るのは不可能と認めて、始めましょ。で一歩を進めればいいだけ。311以前をだらだら続けていると、21世紀的権力を持つ大人に引っ張られて、学生さんたちだって、目指すべき理想を語りだせないですよ。サポートしている学生さんたちも、SDL祭りの後は温泉で大盛り上がりの宴会で消尽じゃ〜どうなのよ。享楽的でいいんだけどね。 一位の渡辺さんが審査の途中で発言を求めて語ったことが印象的です。 「別に僕は一位じゃなくって、ぜんぜんよくって、ここで一位とっても、べつに、建築家になれるわけじゃないし。建築家って職種もあいまいになって来ると思うんですけど」 と彼自身の評軸を表明したことで、審査の場の空気を独り占めにして一位を奪ってしまった。あの事態を冷静に見つめてて、壇上でみんなが終焉を認めたしまった。今がその瞬間だと俺は思ったんだよ。色んな事が絡み合って解けなくなってしまっている。反省は要るけど、IT革命の成果の一例だとは思います。だから一端、終焉したとしてしまう方が語り易くなるように思う。 辻:槇文彦さんも言ってますものね。ぐちゃぐちゃになっているって。漂うモダニズムで。一人、孤独にみんなそれぞれ価値を目指して、船を漕ぐしかないって。要するに、ぐちゃぐちゃにになっている、あらゆる価値が選択可能になっている、っていうポストモダン的な話だと思うんですけど。 その05へ続く |
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