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福島第一原子力発電所の事故によって起きている様々な問題を勉強し始めました 勉強過程の記録をつくってみます 暇な方はご活用ください
2011年7月27日 厚生労働関係の基本施策に関する件(放射線の健康への影響議事録
参考人
 01明石真言 02唐木英明 03長瀧重信 04沢田昭二 05児玉龍彦 06今中哲二 
質疑応答
 07山口和之(民主)    08吉野正芳(自民)  09坂口力(公明)
 10高橋千鶴子(共産11阿部知子(社会民主党・市民連合)12柿澤未途(みんなの党)


 04 
 次に、沢田参考人にお願いいたします。

沢田参考人 沢田です。

 私は、広島の原爆の被爆者の一人なんですけれども、十三歳のときに爆心地から千四百メートルのところで被爆をしました。私はつぶれた家の中からうまくはい出すことができましたけれども、同じ部屋にいた母親は柱か何かに足を挟まれて動けないということで、とうとう火事になるまで助け出すことができませんでした

そういう体験を持っているんですけれども、被曝の方は、1400メートルですから、初期放射線もそれなりに、それから放射性降下物の影響もそれなりに受けていると思うんですけれども、これは両親に感謝しなきゃいけないんですが、放射線に対する抵抗力が強かったのか、急性症状も晩発性症状も今のところ起こしていないということなんです。

 今回の福島原発の事故を考えますと、再び放射能で侵されるようなことがないようにしてほしいなということを思っています。その意味では、政治家の皆さんが、今、福島でいろいろな放射線の影響を受けていらっしゃる方の被曝影響をできるだけ最小限に抑えるということに政治的な力を発揮していただきたいということをお願いしたいと思います

 私が放射線の影響の研究を始めるようになったのは1990年代の終わりごろなんですけれども、当時、後で報告してくださる今中さんたちの広島、長崎の原爆の放射線をはかる、そういう測定グループに入れていただいて、そして初期放射線の線量評価、当時は1986年放射線線量評価という、DS86と言われていますけれども、それの遠距離が過小評価になっているということを見つけて、そして原爆症認定の裁判で私が研究した結果を報告しました。

 それがきっかけなんですが、そのとき感じたことは、初期放射線の遠距離の過小評価を実測値に合わせて修正したとしても、そのときの原告であった人たち、あるいは証言に立たれた人たちの脱毛が起こったというような事実を説明することはできないわけですね。そのことを説明するためには、どうしても放射性降下物の影響を考えなきゃいけないということに気づきました。それで、いろいろな調査結果を調べてみたんですけれども、そういう放射性降下物の影響、被曝線量について研究している研究結果というのはほとんどないということに気がつきました。

 私は専門が素粒子物理学なんですけれども、そういうことで、原爆症認定の訴訟にかかわるためにはそういう放射性降下物の影響をちゃんと調べなきゃいけないということに気づいて、研究を始めました。

 そこに図がありますが、左側の上の図は、これは原爆傷害調査委員会、ABCCというふうに当時言われていますけれども、1950年前後に、被爆者の髪の毛が抜ける脱毛、これは特に重度脱毛について調査した結果です。縦軸のところ、ちょっと名前が消えていますけれども、一番左側のところに発症率と書いていただきたいんです。発症率はパーセントです。

 それで、当時の調査結果をまとめたものを1990年代になってプレストンたちが発表したわけです。LSSというのは、寿命調査集団、ライフ・スパン・スタディーという放射線影響研究所の、先ほど長瀧先生がお話しになりましたけれども、約12万人の調査の結果ですけれども、左側の図の赤い四角がありますね、これが調査した広島の脱毛の発症率です。

 放射線影響研究所というのが1975年にABCCを引き継いで始めたわけですけれども、ABCCのときから放射線影響研究所のときも引き続いて、初期放射線の影響を明らかにするというのが研究所の基本方針です。

 ということで、1989年に放射線影響研究所のストラムと水野さんたちが、この赤い四角のデータから初期放射線の影響だけを引き出すという研究をされました。その得られた結果が今度は上の右側の図の黒い丸、これを導かれました。

 でも、この図を見ますと、すごく低線量のところも急激に立ち上がっていますし、それから、高線量の四グレイ、これはグレイでもシーベルトでもいいんですけれども、四グレイというのは約半数の人が死亡する線量ですね。それを超えたところでは、逆に発症率が横ばいになっている。これも縦軸は発症率のパーセントなんですけれども、そういうことになっています。

 私は、ちょっと疑問を持ちまして、この調査結果から逆算して、左側の図のところに彼らの得た初期放射線の影響というのをひし形の形で示しました。そうしますと、この四角とひし形のずれというのが放射性降下物の影響であるということになります。

 それをもとにして、右側の図の赤い曲線というのが、これは正規分布であるというふうに仮定したわけですけれども、その曲線を使ってこの四角を分析しますと、その下側の図のようになりました。細い点線、これが初期放射線による被曝です。初期放射線は、主に外からぴかっとした瞬間に体外から浴びる外部被曝ですね。そして、それを全体の被曝線量から差っ引きますと赤い曲線になります。これが放射性降下物による被曝です。主にこれは内部被曝です。

 これまで日本政府や放射線影響研究所が調べてきたのは、放射性の雨が降って、それが地面の中にしみ込んで、それが台風やいろいろなことで流されないで残ったものから推定した放射性降下物の影響ということで、この図の下の方に、放射性降雨による推定、最大被曝値というので己斐・高須地域というのがありますけれども、それによると、もうほとんどゼロに近いところの被曝線量になっています。ですから、この雨から調べたことと、それから実際に被爆者の中で発症した急性症状である脱毛から調べた違いというのが、実際に被爆者が受けた大きな違いになるわけですね。

 次のページにありますが、これは於保源作さんという方が、広島の被爆者を、爆心地から距離ごとに、三種類の被曝急性症状を調べました。四角が脱毛です。それから、丸印が、紫色の斑点が出る皮下出血ですね。それから、三角が下痢です。これもやはり縦軸は発症率のパーセントです。この図を見ていただきますと、脱毛紫斑というのはほぼ同じように距離とともに変化していますね。ところが、下痢の方は近距離で発症率が逆に小さくなっています遠距離の方は、逆に今度は下痢の方が発症率が高くなっています。

 この違いは何かというと、近距離では初期放射線が大量に到達します。その初期放射線を体外被曝する場合の影響が、主にガンマ線が腸の内壁まで到達するわけですけれども、ガンマ線は透過力がすごく強いわけですね。透過力が強いということは、放射線の影響というのは電離作用によって起こるわけですけれども、まばらに電離作用していくというのが透過力が強いということにつながるわけです。まばらに電離作用しますからなかなかエネルギーを失いませんので、ずっと透過力が強くなるわけですね。ということで、腸壁に到達しても、薄い腸の粘膜、表面の表皮にまばらな電離作用では余りダメージを与えることにならないんですね。ですから、ガンマ線はかなり大量の線量でないと下痢は発症しないということになります。

 ところが、遠距離の方は、放射性降下物の物質を呼吸とか飲食を通じて体内に取り込みます。そうすると、透過力の弱いベータ線が大きな力を発揮するわけですベータ線はすごく密度の高い電離作用を起こしまして、そしてエネルギーを急速に失います。体内に入ると、一センチも走らないうちにとまってしまうぐらいの密度の高い電離作用を起こすわけですね。そういう放射性物質が腸壁のすぐそばまでやってきますと、腸壁にすごく大きなダメージを与えるので、下痢が発症するわけです。というわけで、遠距離の放射性降下物による下痢の発症というのが脱毛や紫斑に比べてはるかに高い発症率を示しています。

 そういうことを考慮しますと、右側にあるんですけれども、赤い線が脱毛やそれから紫色の斑点がある紫斑の被曝線量と発症率の関係ですけれども、遠距離の内部被曝の方はもっと左寄りの方に関係がある、それから外部被曝の方はもっと右の方に関係がある、そういう正規分布にして先ほどの図を解析しますと、下にありますように、初期放射線と放射性降下物をほぼ同じ被曝線量で説明することができるということを見出しました。

 同じことは長崎にもありまして、三ページの図に、上の方は、これは長崎県と長崎市が十二キロまで調査をしたわけですけれども、その脱毛、紫斑、下痢の調査です。やはりここでも、下痢は近距離では発症率が低くなっていますね。近距離の方は、ほとんどの被爆者が死亡しています。ということでデータの誤差が大きいわけですけれども、これを解析した結果が、やはり下の方の図になります。初期放射線は急速に減少して、二キロあたりでもうほとんどゼロに近づいています。しかし、放射性降下物による内部被曝の影響は、調査が行われた十二キロまでほとんど変わらないということを示しているわけですね。

 広島に比べて長崎の方が遠距離まで1200ミリシーベルトあるいは1300ミリシーベルトというすごく大きな被曝をしているというのは、長崎原爆の方が爆発力が強かったということを示しているわけです。

 西山地域というところが、放射性の雨が降ったことによる残留放射線の測定から得られたことですけれども、これからおわかりいただけるように、被曝実態から大きくかけ離れているということがおわかりいただけると思います。

 こういう影響を無視して研究した放射線影響研究所の研究は、結局、近距離の初期放射線の影響は明らかにすることができたと思いますが、遠距離のこういう内部被曝についての研究は余り貢献をしていないということになるわけですね。私は、ぜひ、放射線影響研究所も、そういうことを踏まえた研究に方向転換していただきたいなと思います。

 次のページは、放射線の影響なんですけれども、先ほど言いましたように、ガンマ線は透過力が強いので、ぽつんぽつんとDNAなどの二重らせんを切断しますけれども、ベータ線の方は接近して切断します。接近して切断すると、修復する機能が生物の生体分子にはあるわけですけれども、誤って修復する可能性が強くなるわけですね。電離作用は物すごくたくさんの箇所を被曝させますけれども、数百カ所電離作用を起こしてもほとんどが正常に修復するわけですけれども、接近して切断されるということが起こりますと、誤って修復する可能性がすごく高くなるわけですね。そういう意味でも、内部被曝の影響はすごく深刻になります

 放射線影響研究所の方は、そういうことで、現在起こっている福島原発の事故というのは、内部被曝が主要な影響ですから、それには余り役に立たないということになってしまいます。でも、放射線影響研究所の研究をもとにして、残留放射線の影響も考慮して解析すれば、同じ結果が出ます。

 下の方は、広島大学の原医研の早川さんたちが調べた結果をもとにして、横は、被曝線量は、放射性降下物の影響も含めて計算しました。その結果、広島県民が、非被爆者ですけれども、発症率が0.196%、これは年間の悪性新生物による死亡率です。一キロ以内はほとんどの被爆者が死亡していますのでデータの誤差が大きいということと、それから抵抗力の大きい人たちしか残っていないということなわけで、これを除いて直線でフィットしますと、そこのカーブのようになりまして、死亡率が0.18%掛け被曝線量プラス0.186%という結果が得られました。これをもとにすれば、内部被曝の効果も考慮に入れた被爆のいろいろな影響が明らかにできると思います。

 最後の五ページの図は、今お話ししたことの全体像をまとめたわけですけれども、私が研究した結果を、2009年にギリシャのレスボス島で開かれたヨーロッパ放射線リスク委員会で報告しました。そこには、著名な科学者たちがたくさん参加していましたし、チェルノブイリの研究をやっている人たちも参加しました。その人たちが私の報告を聞いて口々におっしゃることは、これで広島や長崎の被爆者の影響と私たちの研究がかなりつながってきたという評価をいただきました。

 そういうことも踏まえて、このレスボス島の会議では、レスボス宣言というのを発表しました。それは、添付した資料にありますように、内部被曝の影響を軽視した国際放射線防護委員会の基準というのをきちんと見直さなきゃいけないということを要求しているのがこの宣言です

 この宣言のどこかに私はミスプリントをちょっとしているので、それは後で直していただきたいと思いますけれども、以上で私の報告を終わります。

 どうもありがとうございました。(拍手)

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