HOME   佐藤敏宏が作成しました   2012年  
 
福島第一原子力発電所の事故によって起きている様々な問題を勉強し始めました 勉強過程の記録をつくってみます 暇な方はご活用ください
2011年7月27日 厚生労働関係の基本施策に関する件(放射線の健康への影響議事録
参考人 01明石真言 02唐木英明 03長瀧重信 04沢田昭二 05児玉龍彦 06今中哲二 
質疑応答 07山口和之(民主)    08吉野正芳(自民)  09坂口力(公明)
 10高橋千鶴子(共産11阿部知子(社会民主党・市民連合)12柿澤未途(みんなの党)

 02 
 次に、唐木参考人にお願いいたします。

唐木参考人 日本学術会議の唐木でございます。

 きょうは、お手元にあると思いますが、「放射性セシウムと食品の安全」という資料を使って説明をさせていただきたいと思います。

 最初に、日本学術会議を多分御存じない方もいらっしゃると思いますが、日本には八十三万人の研究者がいると言われております。

これは、人文社会学、生命科学、理工学、すべての分野で八十三万人ということですが、その中から210名の研究者が内閣総理大臣から会員として任命され、集まっているところが日本学術会議でございます。

 その役割は、政府に対して科学技術に対する政策を提言すること、それから科学技術に対するコミュニケーションを一般の方ととること、それから世界の科学者、日本の科学者のコミュニティーの連絡をとること、そのような役割を果たしております。

 本日は、私の専門が食品の安全でございますので、食品の安全と放射線の関係について説明をさせていただきたいと思います。

 まず、一ページ目の下の方の図ですが、横軸には放射性物質あるいは化学物質の量をとってあります。両方とも、量が多ければ健康への悪影響はどんどん大きくなるという関係があるということは一致しておりますが、一つ、ここで二種類にそれが分かれるのは、ほとんどの化学物質、それから放射線もそうですが、閾値という値があります。先ほど明石先生のお話にも出てきましたが、この閾値というのは、一応安全と危険の境目というふうに言ってもいいと思います。閾値以下だったら体には影響がない、閾値以上だったら影響があるということです。化学物質のほんの一部は、閾値がないというふうに考えられております。また、放射線も閾値がない作用があるというふうに考えられております。

 この二種類があるということで、次のページの上の方に行きますと、閾値がある化学物質について、我々は食品安全委員会で規制を行っています。これのやり方は比較的簡単です。閾値という値が、一応安全と危険の境目がありますので、それから百分の一あるいはそれ以上の安全係数をとりまして、そこから下のところに、一日摂取許容量という量を設定いたします。これは、一生の間、毎日食べ続けても体に影響がない量ということでございます。これを食品安全委員会が設定しますと、厚生労働省はこの値をもとにしまして、いろいろな食品を食べても、この一日摂取許容量に達しないように、それぞれの食品についての規制値を設定いたします。ということで、規制値というのは、安全と危険の境目よりもずっと厳しいところに決められているということです。すなわち、規制値は安全と危険の境ではない、行政が対策を始める目安であるというのが規制値です。

 ところが、ここのところが大変大きな誤解を呼んでおりまして、規制値が安全と危険の境目であって、規制値を超えたものはすぐ危険だというふうな誤解が非常に広く行き渡っております。ここのところが、今回のセシウム問題でも一つの大きな混乱の原因になっているのではないかというふうに思います。


 次は、その下の方の図ですが、それでは閾値がない場合にどういうふうにするのかということです。これは安全と危険の境目がはっきりしない。化学物質の場合は簡単です。こういう化学物質の使用はすべて禁止いたします。これは、農薬としても添加物としても禁止する。ですから、非常に簡単に規制ができるということです。

 ところが、放射線については、今回のような場合には、禁止するといっても、もう既に存在するわけです。存在するものについては、何かの規制をしなくてはいけない。それをどうやってやるのか、どこまでが安全なのか、ここが非常に大きな議論のところです。これの目安になるのが、広島、長崎の被爆者の経験、あるいはそのほかの放射線の障害の経験です


 次のページにありますように、それを国立がん研究センター及び食品安全委員会がまとめたものがグラフになっておりますが、横軸にがんのリスクをとってあります。一というのは、我々はだれでも30%はがんで死にます50%の人はがんになって、致死性じゃないがんも含めるとそのぐらいになると言われておりますが、それを一ととっております。


 そのがんのリスクがどれだけ増えるのかを見てみますと、放射線が、一番下、2000ミリシーベルトになると2.5倍になる、これはかなり危険だということになります。その上にありますが、喫煙者ですね、たばこを吸うと1.6倍になる。あるいは、お酒を一週間にアルコール換算450グラム以上飲むと1.6になる。それから、放射線1000ミリシーベルトだと1.5500ミリシーベルトだ1.3それから、やせたり太ったりすると、大体1.2から1.3ぐらい。運動不足が1.15。塩辛いものを食べると1.11。放射線200ミリシーベルトだと1.1。その上に行きますと、野菜不足だと1.05。受動喫煙、だれかが傍でたばこを吸っている、それをたばこを吸わない女性が吸い込む、そういう状況があると1.02。こんなような値が出ております。


 そこから上、放射線100ミリシーベルト以下の量、これを低線量といいますが、これにつきましては、右の上に書いてあるように、100ミリシーベルト以下の放射線のリスクは、ゼロではないけれども極めて小さい。ではどのぐらい大きいんですか?ということがよくわからないということでございます。

 その下の方の図になりますと、こうなると、安全と危険の境目はどこなんだろう、規制値の決め方はどうするんだろうという最初の疑問に戻るわけですが、上の方の図からいいますと、100ミリシーベルト以下の放射線のリスクは、ゼロではないけれども極めて小さいということで、今回のような緊急時は、百ミリシーベルト以下の放射線であれば許容できるのではないかというのがICRPの勧告です


 それから、昨日出ました食品安全委員会の報告でも、生涯かかって100ミリシーベルトまでの放射線であれば、これは極めて危険とは言えないというような結果が出ております。

 そういうことで、一応100ミリシーベルトというのが一つの境目になるのではないだろうかという考え方があるわけですが、また上の方の図に戻っていただきまして、それでは食品の基準はどうなっているのかというと、現在は、暫定基準、5ミリシーベルトです。5ミリシーベルトというのは、100ミリシーベルトからいうと二十分の一という非常に厳しいところになっております。

 その上にあるのが、自然放射線を我々は年間1.5ミリシーベルト、だれでも浴びている。それからその上が、平常時は、自然放射線ではない人工放射線を浴びる量は1ミリシーベルトにしましょうという規制が一応ある。それから、その最後の一番上に書いてあるのが牛肉のセシウム基準です。これは500ベクレル・パー・キログラムということですが、これをミリシーベルトに換算いたしますと、〇・〇〇8ミリシーベルト・パー・キログラム、こういう値になります。

 なぜこんな厳しい値になったんだろうかということもよく聞かれます。これは、次のページをめくっていただきますと、セシウムの基準の決め方が書いてあります。基準は、ここの表にありますように、肉につきましては、一番下にありますように肉・卵・魚・その他の分類、500ベクレル・パー・キログラムですが、これはどうやってできたのかというと、食品全体で年間5ミリシーベルトを超えないようにしましょうというのが厚労省の暫定基準です

 そうすると、ここの表にありますような5種類の食品群に1ミリシーベルトずつ当てはめると、トータル5ミリシーベルトになるわけですが、そうすると、各群の食品の今度は内訳を決めるわけです。肉・魚・卵・その他で1ミリシーベルトを超えないようにするにはどうしたらいいのかということで、日本人がそれをどのぐらい食べているのか、そのほかを全部当てはめてみますと、牛肉の基準は500ベクレル・パー・キログラム、〇・〇〇8ミリシーベルトというような厳しい基準になる、こういうやり方をやっているわけです。

 先ほども申し上げましたように、これは安全と危険の境目ではなくて、これを超えたら何かがおかしいから行政がその対策を始めましょう、こういういわゆるアラートの基準、こういうことになっております。

 その下にあります「「セシウム汚染牛肉」の安全性」というところに書きましたように、それでは、この基準を超えた肉を食べたらどうなるんだろうかということです。この基準がそもそも、食品基準5ミリシーベルトの625分の1に当たりますから、それが、今回見つかった牛肉は、基準を3倍から8倍超えたものが見つかっております。仮に基準を10倍超えた牛肉を一日200グラムずつ、五日間食べたとしても〇・〇八ミリシーベルトで、健康への悪影響は心配しなくてもいいレベルということでございます。

 もし基準を10倍超えた牛肉を毎日1キロずつ、63日間食べ続けると、やっと食品基準の五ミリシーベルトに近づくけれども、これでさえ非常に安全な値ですから心配しなくてもいい、こういう値になっております

 また、次のページに行きまして、セシウムは体内に30年もとどまるからこれは大変だというお話もありますが、確かに、セシウムは、物理学的半減期というのは30年ですけれども、もう一つ、生物学的半減期というのがありまして、セシウムはカリウムとかナトリウムと同じようにどんどん体から出ていくということで、一歳までのお子さんだったら九日で半分になってしまう。九歳までだったら38日。私の年になると、多分3カ月以上かかって半分になる。そんなことで、いずれにしろ、30年よりずっと短い期間で半分になっていくという、そういう性格もございます。

 最後の10番目のスライドですが、それでは今の食品を守るシステムが働いていなかったんじゃないのか、そういうお話もございますが、そうではないということで、これは、食品の安全を守る仕組みというのは四段階あります。

 一段階目は、安全の目標を立てて、それに合うように厳しい規制を行うということです。ここで誤解があるのは、下に括弧して書いてありますように、安全の目標というのはリスクをゼロにすることではない、体に影響が出ないようなところまでリスクを下げる、これを絶対安全と実質安全の考え方といいますが、実質安全という現実論で目標を立てるということです。

 それから二番目は、厳しい規制は行っていますが、これは先ほどから何度も申し上げておりますように、規制というのは対策を始める目安であって、安全と危険の境ではないということです。


 食品の安全を守る仕組みの3番目は、検査と違反の発見です。この検査というのは、今、全頭検査をしろというお話がありますが、食品の検査の基本は抜き取り検査です。というのは、加工食品を検査する場合は、全部壊しちゃうわけですね。全品壊して検査したら食べるものがなくなってしまうということで、ロットの中から少数のものを取り出して検査をする。ロットというのは、大体中身は均質ですから、一ロットから一つ、二つ取れば残りはわかる、こういう考え方でやっております。これでもし違反を発見したら行政処分をするために、この基準というのは先ほどから言っているように非常に厳しいところに決めています。

 そうすると、それで3番目が行政処分と改善が行われるということで、いわゆるPDCAサイクルが回るわけですけれども、ここで今も問題になっているのは、検査をすり抜けた違反食品を食べちゃったら大変だ、だから検査をしろという話もございます。これは下の括弧の中にありますように、基準が非常に厳しいので、たとえ基準を十倍超えたものを食べても体に何の影響もない、こういう仕組みになっております。

 ということで、今回の問題は、この仕組みの中の2番目ですね、安全を守る努力と規制の遵守というところが残念ながら守られていなかったために汚染が起こったということでございますが、その結果、稲わらの検査というものが徹底され、再発が防止され、また、汚染したおそれのある牛肉はすべてとまっているということで、牛肉の安全性は守られている。あるいは、食べてしまった人についても、こういった仕組みで健康には影響が出るおそれはないということで、食品の安全を守るシステムとしては機能したということであろうというふうに考えております。

 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

○牧委員長 ありがとうございました。

03長瀧重信へ