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福島第一原子力発電所の事故によって起きている様々な問題を勉強し始めました 勉強過程の記録をつくってみます 暇な方はご活用ください |
2011年7月27日 厚生労働関係の基本施策に関する件(放射線の健康への影響)議事録 | |
参考人 01明石真言 02唐木英明 03長瀧重信 04沢田昭二 05児玉龍彦 06今中哲二 質疑応答 07山口和之(民主) 08吉野正芳(自民) 09坂口力(公明) 10高橋千鶴子(共産)11阿部知子(社会民主党・市民連合)12柿澤未途(みんなの党) |
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03 次に、長瀧参考人にお願いいたします。 ○長瀧参考人 長瀧でございます。 最初に自己紹介になりますが、私、原爆の被爆者に関しましては、長崎大学に1980年に赴任しましたときから、原爆放射線の影響を科学的に調査して、国際的に発信する、そして被爆者の援護に尽くすということを目的として行動してまいりました。 それから、退官後は、放射線影響研究所におきまして、被爆者の調査並びに治療に理事長として責任を持って行動いたしました。 チェルノブイリの原発事故に関しましては、1990年にソ連が外国に門戸を開放したときから、長崎大学の教授として、教室員とともに調査に参加いたしました。原爆の場合と同じく、チェルノブイリ事故の放射線の影響を科学的に調査して、国際的に発信するということ、そして被曝者の救済に人道的に尽くすということを目的としてまいりました。 初期の10年間は特に頻繁に現地を訪問いたしましたし、チェルノブイリ事故の国際機関による10年目のコンファレンス、あるいは20年目のまとめのコンファレンス、これはWHOなど8つの国際機関と被害を受けた3つの共和国の共催でありましたが、そこにも積極的に参加いたしました。 また、ジェー・シー・オーのときには、周辺住民の健康管理検討委員会の主査として報告書を作成いたしました。 今申し上げましたような基礎から、私自身としましては、原子力災害におきまして、内科の医者として放射線の健康への影響を科学的に調査し、科学的な結果を発表するということ、もう一つは、原爆被爆者、チェルノブイリの被曝者などに科学的に正しい、確実な放射線の情報を伝えて、被害者の援護、救援に努力をするということが、私の基本的な態度であり、立場であります。また、そういう立場でお話しさせていただきます。 次のページは、原爆被爆者の調査結果をまとめてお話しいたします。 急性の方は今回省略いたしますが、晩発影響というのがございまして、これは急性影響の後にあらわれる影響で、被爆後60年以上過ぎた現在も認められるものであります。 特徴は、一人の患者さんを幾ら調べても、例えば肺がんの患者さんを幾ら調べても、それが放射線の影響かどうか?はわからないということであります。これは、現在のどんな医学のレベルを持ってきても現在はわからない。 したがって、晩発影響を調べるには、疫学的、統計学的な手法によらざるを得ない。すなわち、被曝線量の推定されている母集団、放影研としては現在12万人ございますけれども、それを1950年から追跡調査しまして、死亡の原因あるいは罹患した病気と被曝線量の関係を調べるわけであります。 その結果を非常に省略してまとめて模式図にあらわしましたのがその下の図でありますが、一言で言いますと、被曝線量と発がんリスクは直線関係であるということであります。そしてもう一つは、疫学的には100ミリシーベルト以上について有意な関係が得られたということでございます。 直線関係でありますので、1000ミリシーベルト浴びますと、原爆ではがんが1.5倍、ICRPの報告によりましては急性の被曝ではがんが10%。ですから、その10分の1の100ミリシーベルトでは、がんのリスクが1%増加するというのがその結果であります。 その次のページに、ごく一例として、いかに調査が確実に行われているかということだけをお示しします。上の表の左側は線量でありますが、被曝線量も細かく分けている、そして対象者も何十何人、また、それぞれのグループの何人ががんで死亡したかということも、戸籍を使いまして、非常に正確に40年、50年調査をしているわけであります。これに基づいた疫学的な結果というのは、これは世界のどこにもないということで、御紹介したいと思います。 原爆の結果は今でも世界のスタンダードになっておりますけれども、ここではUNSCEARという、原子放射線に関する国連科学委員会のことを御紹介したいと思います。 このUNSCEARといいますのは、1950年代に世界じゅうで核実験が行われ、放射性降下物による被曝の懸念から、核実験によって放出される放射性物質による環境への影響と人への健康影響についての情報を収集、評価することを目的とした委員会を設置するということが第十回の国連総会で提案されまして、一九五五年に満場一致で可決されたというものでございます。 この委員会は20カ国以上の国連参加国の代表で成りまして、委員長は非核保有国の代表がなる。そして、純粋に科学的所見から調査報告書をまとめるということを意図してつくられたものでございます。その独立性と科学的客観性から、国際組織の中ではUNSCEARの報告というのは非常に評価が高いということでありまして、現在でも、科学的な放射線のまとめの代表的な組織であります。 昨年でありますけれども、その報告書の中で書いてありますのは、固形がんすべてを総合した日本の原爆被爆者のデータはこの関係を最も明確にしているということでありまして、赤で書きましたように、そして統計学的に有意なリスクの増加は100から200ミリグレイ、あるいはそれ以上で認められる、疫学的な方法ではこの線量以下のリスクの増加を認めることはできないということになっております。 その次の表は、100ミリシーベルト以下の放射線の影響は先ほど認められないと申し上げましたけれども、これは先ほどの唐木先生と同じでありますが、がんセンターのホームページで見ますと、100ミリシーベルトの影響は、野菜不足、受動喫煙と同じで、100ミリシーベルト以下は、ほかのがんのリスクのために、放射線の影響だけを観察することは難しいということで、疫学的な方法としては、これ以下の影響は科学的に証明されていないということは申し上げてよろしいかと思います。 次に、チェルノブイリの経験について申し上げますが、時間の関係で、これは2006年のIAEA、WHOなど八国際機関、三共和国の発表と、それから2011年、ことしの2月でありますけれども、先ほど申し上げましたUNSCEARの報告書をここに御紹介いたします。 急性影響としましては、原発の中で働いた人が主でありますけれども、134名に急性放射線症が認められた。その中の28名は高線量被曝によって3週間以内に亡くなっております。その後19名が亡くなったけれども、これは被曝との関係は明らかではないということ。 それから、原発の周辺で24万人が汚染除去作業で100ミリシーベルト被曝した。しかし、その健康影響は認められなかった。白血病の増加も有意ではない。 それから、あとは、一番の問題の住民でありますが、11万4000人が避難した。これが平均して33ミリシーベルト。27万人は高線量の地域にそのまま住んでおりまして、これは大事でありますけれども、そして50ミリシーベルトの被曝。500万人は低線量で10から20ということが一応まとめとして書いてございますが、この中で、放射線に起因する健康影響のエビデンスは認められなかったという報告書でございます。 ただ、例外として、汚染されたミルクを飲んだ子供の甲状腺がんがございまして、それは6000人ぐらい。だけれども、2006年までの死亡者は15人であるという発表でございます。 その次のページに我々自身が現地で測定した結果をちょっと簡単にお示ししますが、チェルノブイリ事故による汚染地と子供の体内セシウム、今体内セシウムが話題になっておりますので、簡単に御紹介いたします。 上の図は汚染地域でありまして、これらの地域に住む子供のホール・ボディー・カウンターによる体内セシウム137をはかったのが下の表であります。体内ベクレルというのが、途中、右の方に書いてございますが、これは50ベクレル・パー・キログラムから500ベクレル・パー・キログラムまでいろいろな量の方がいらっしゃいます。これは、我々が測定すると、500ベクレル・パー・キログラムというのは、計器を見ておりますと非常に被曝しているという印象があるんですけれども、これも計算いたしますと年間1.25ミリシーベルトということでありまして、そして、チェルノブイリの先ほどの影響が認められなかったというのも、一ミリシーベルト・年間ぐらいの被曝では臨床的な影響は出なかったんだろうということは理解できるわけであります。 最後に、ICRP、しょっちゅう出てまいりますが、ちょっと御紹介させていただきますけれども、ICRPの前身というのは国際エックス線ラジウム防護委員会、1928年に設立されたものでありまして、1950年に現在の名前に改組された非営利組織の団体であります。 現在は、放射線防護という立場で、放射線の影響は、先ほど申し上げました100ミリシーベルト以下は認められないというUNSCEARの結論を理解した上で、100ミリシーベルト以下でも影響はあると仮定して始まっているということでありまして、その下の文章は直接ICRPの文章からとったものであります。簡単に言いますと、先ほどお示ししました原爆の図の100ミリシーベルト以下も同じような線を引けるという仮定でいろいろと放射線防護を考えようということであります。 そして、その次のページに書きましたように、ICRPの理念というのは、ALARAと申しまして、アズ・ロー・アズ・リーズナブリー・アチーバブルということであります。これは英語を日本語に訳しただけでありますけれども、少しずつ変わっておりまして、1959年には、実際的に可能な限り低く維持する、1966年には、容易に達成可能な限り低く維持する、それから1973年には、経済的及び社会的な考慮を行った上で、合理的に達成できる限り低く維持するというものでありまして、決して基準値を守れということではない。このALARAの精神からいいますと、緊急時には、当然、影響が認められている100ミリシーベルトまでは許容範囲に入るわけであります。 それで、これをもとにしまして福島の原発を考えましたときに、放射線の影響と防護の影響の両方を考慮しなければいけない。これは、先ほど言いました合理的に達成できる範囲で可能な限り放射線量を低くという立場からいいますと、放射線による具体的な被害、これは単に想像ではなくて現実に国際的に認められた放射線の影響と、それから防護のための具体的な被害がございます。 これは、生活の変化、例えば住居、財産、近所づき合い、あるいは職業など、非常に大きな変化がございます。それから、子供の場合も、避難したり、転校、運動制限、野菜不足、何よりも精神的な影響というのが大きい。このバランスを考えて対策を決めるということがICRPの根本であります。したがって、先ほど申し上げましたように、緊急の場合にそれぞれの参考レベルがあるわけであります。 まとめますと、未曾有の緊急事態で、事故はまだ収束していないということであります。緊急事態の各段階に応じてきめ細かく、周辺住民の被害を最小にすることを最大の目的として、冷静に住民とのきめ細かい対話を繰り返して対策を決めるということがALARAの精神でありまして、決して線量だけが問題ではないということ、全体として住民のことを考えるということをぜひ政治家の先生方にお願いしたい。 チェルノブイリの原発の教訓としましては、健康被害、身体的影響は今お話ししたとおりでありますけれども、御承知のように、ソ連邦は解体いたしましたし、経済的な破綻によって住民は塗炭の苦しみ、しかも、精神的影響から立ち直れない数百万人の人がいる。これは精神的な影響のために自立できないという人がいまして、すべて政府に頼って生活しているという方が数百万人。 報告書は、むしろ健康影響よりは、こういう人たちをつくったということ、こういう人たちをどうするかということが大きな問題であるということでありまして、これは我が国の場合も十分に教訓として参考にすべきだろう。 そして、最後でありますけれども、福島原子力発電所の事故はレベル7、いまだに収束していない前代未聞の出来事であります。 原爆被爆者を持つ日本として、原子力災害に関しても、日本のすべてを総合して、厚生労働省も政府の一員として総合的な視野で関与し、世界に向けて、日本として理想的な対策を発信できるということ、ICRPを変えるだけの発信をするということを期待しております。よろしくお願いいたします。 どうもありがとうございました。(拍手) ○牧委員長 ありがとうございました。 04沢田昭二へ |