2023/3/14 花田達朗 教え子と語る@浜通りを視察し福島市内の居酒屋「藤むら」にて   
東日本大震災震災遺構
浪江町立請戸小学校の玄関にて(2013/3/14)

    01  02  03  04   (作成:佐藤敏宏)
その01 
この日、小池航さんが運転する車で福島市を午前9時に発った。同乗者は花田達朗先生、ジャーナリストの牧内昇平さん、佐藤の4人であった。浪江漁港、震災遺構浪江町立請戸小学校、東日本大震災・原子力災害伝承館などを周り、夕方町中で火事騒動が起きた福島市内に戻った。この全4web頁は、居酒屋で2時間半ほど、花田・小池による師弟対談を流れのままの肉声を文字化した記録である。酒のみ話とはいえ、各人の現在とフクシマの課題などが語り合われている。

福島県産の地酒を片手に花田先生と佐藤の関係について

花田:会津の「宮泉」のほうが美味いね。女将さんにすすめられた、県外の酒の方じゃなくて。福島に来たんだから「福島の酒を呑みたい」と言えばよかったかな・・・。
佐藤:小池さん、若いから女将おすすめの花田先生の分も呑みなさい(笑)小池さん、昨日から花田先生とお会いし感想はどうでしたか? 花田先生に会って後ろめたかったのではないですか?

小池
:ちょっとは思いました。顔を合わせたくなかった(笑)
花田:信濃毎日新聞を辞めた・・・という連絡さえ、よこさなかった。
小池:(笑)もう逃げたかった。
花田:これまでのところ彼をそっとしておいたわけ。
佐藤:俺が見ると、花田先生が悪いわけよ。花田先生、日本のマスコミの裏のドロドロした上下関係とか、広告依存体質、ある種のごろつき体質の実態を体験によって知らないで、正統ジャーナリスト教育、教えてしまった点だね。
花田:それは言えるけど。
佐藤:そういう事を・・・・「どろどろヘドロの日本を理解するためにも花田先生は教え子たちとどんどん会って交流すべきだ」と言ってきたんです。小池さん以外、花田先生の教え子の方たちも同じ思いだと俺は感じてきてんだけど。花田先生の薫陶に接したら、今の自分が立派なジャーナリストに成りあがっていない、あるいはその過程に立っていないと、「恥ずかしい」と思わせてしまう点が、花田先生への連絡なり報告のしにくさになっている。
小池:それはありますね。

花田:そうだとすると、不徳の致すところ。ただ、それは誤解なんだけど。

佐藤:でもね、日本の社会に放たれた花田弟子たちはそう思っている人が多いのではないか。だから弟子たちと会うべしと言ってきた。
花田:私はね、闘って倒れた人間に共感するところがある。そういう人には会う。困っている人には会う。
佐藤:花田先生のHPも押しかけてセットして更新し続け、弟子たちに発信している。だれも見てないかもしれないんだけど・・・・。
絵:花田達朗先生のHP(2023年3月現在)
「サキノハカ」フロントページ

小池:いつから先生のHPをつくってきたんですか?

佐藤:『花田達朗ジャーナリズムコレクション(以下花コレ)第1巻と第2巻の中にある「所長の伝言」を見るとわかります。花田先生の伝言が早稲田大学ジャーナリズム教育研究所のHPの中で始まったのは2010年7月4日です。あの日は俺が先生の家に押しかけて行き、先生は黒酢、俺は酒を呑みながら下構想をつくりました。
それ以前の関係を少し話しますとね。花田先生との最初の出会いは2001年8月22日です。あれから「花田先生のHPを開設して先生の活動内容を発信してほしい・・・」と言い続け、9年ほど経ってからようやくHP公開(笑)
花コレ第3巻には我が家で開催した「建築あそび─公共圏とは」という花田先生の2回にわたる講義録がそのまま載っていますが、webの方は今も公開しています。今日で21年のお付き合いです(笑)花田先生のよい考え方を多くの人に伝えていかないとね、それが俺の出来ることです。正しいジャーナリストはこういう人間だと言っても、国内ではメディア社員を目指すので、若い人に広く伝わることがない。教え子には理解されるか?もしれないが、会社で潰されるでしょうから。そんな経緯です。俺のweb記録が花コレ第3巻『公共圏』にも掲載されましたよ。
小池:花コレは今、何冊まで出ているんですか?
花田:5冊出ていて、おそらくこの5月(2023年)に6冊目が出て完結!

(・・・ 酒の肴を注文している、風呂吹き大根、カキフライ、釜めし、刺身・・・・)

佐藤:HPを押し進めた俺の思いは、「雑誌で言えば編集後記のようなもので、花田先生は何思っているのか読んでみたい・・・」と思うじゃない、花田ファンで読者なら・・・だから「所長の伝言」を研究所のHP内で始め、公開しだしたんですよ。
花田:ジャーナリズム教育研究所のホームページを作れと言われて、それが現在の「サキノハカ」につながるHPなの。研究所のHPを作ったら、次には「所長の伝言をやれ!」と。
小池:先生の名前を出してHP開設すると見ますよね。
佐藤:どういう人のサイトなのか?と読者は興味をもつはずなんだよ。そうして発信しないとリピーターにならない、読んでくれない。
小池:書籍だと最初に著者のプロフィールを見ちゃいます。後書きを先に見ますね。





佐藤と花田先生の出会いは

2001年8月23〜24日、佐藤のweb日記に記録されている。 仙台で阿部仁史さんの個展があり、シンポのあと流れて呑み呑みしているうちに、多くの人と話して興味が尽きなかったのですが、阿部さんには悪いけど、私が開いてる「建築あそび」の講師を2人もみっけちゃった。五十嵐太郎さんと、東大の花田達朗教授です・・と書き始めている。


花田先生を日本のヘドロ海に引きずり降ろす

佐藤:花田先生はHP開設をだいぶん長い間、嫌がっていた。
花田:そう、凄い抵抗していた。
小池:嫌がっていたのは何で? 自分のことはいろいろ話したくないんですか?
花田:「めんどうくさい・・」と思ってた。
佐藤:自分で分っていることを発信するのは面倒臭いと誰でも思うことだが、同時に人に知ってほしいとか、伝えたいとか思う。それが人のつねだ。学者の方は暢気なもんだと思いましたね。「伝えなくてもみんな理解するだろう」なんて考える、浮世離れしすぎですよ(笑)本を買っても読まない人だらけです。色々な方法で同じことを発信する人が多いweb時代なのです。そんなことをやっていたら、誰にも伝わらないですよ。

(・・・大笑いしている小池さん)

佐藤:建築設計業界で暮らしていたので、お互い宣伝合戦がスタートだ。研究者が自分の行為を伝えようとしないのは不思議だったし理解できなかった。
小池:分る人が分ればいいみたいなのですか。
佐藤:みなさん生きているだけで忙しい。だから、何もしなければ、誰にも伝わらないんじゃないの?
花田:だから佐藤さんのお陰さまでさ、「所長の伝言」が始まって。それを花コレの方にも収録した。
佐藤:無理に言わせましたねえ(笑)花田先生は紳士でかっこいいんだけど、孤独な紳士で終わってしまうのは、いかにももったいないと思ったよ。俺の役割は研究者を娑婆に引っ張り出して晒して、多少なりとも理解してもらう。余計なおせっかい役とも言えるね。

(・・・小池 大笑いしている)

佐藤:HP開設前の花田先生なら、「新聞社を辞して娑婆に出て生きている小池に会ってワイワイするか」なんて気分にはみじんもならなかった! 21年経ったら、「小池、会社辞めてしまってどうしてるかな?」と福島市まで会いに来る人に変わった。俺の悪影響を受けてそうとう変わったんだよ。

(・・・小池 大笑いしている)

佐藤:花田先生に「どろどろの現実も面白い」と言い続けてきたわけよ。研究の静謐な世界も面白いんだろうけど、泥まみれで生きてる人も面白い。そう俺は思うんだな。
花田:佐藤さんは悪友みたいだな。
佐藤:純白な研究者であった花田達朗先生を日本のヘドロの海へ導き入れ泥だらけにしてしまった悪友とも言える。
花田:世俗世界に引きずり降ろされて・・。
佐藤:ロシアとウクライナの戦争も始り、物価も高くなり、マスコミもぐたぐだに崩れている。政治家は私欲のために一方的に議論するばかりで、相手の話を聞いてないし、嘘答弁も常態化してしまった。日本での民主主義は死にかけている。ジャーナリズムが機能しない状態になってしまって、若いジャーナリストには酷だけどヘドロの海に立って仕事を始めるしかなくなった。小池さんはジャーナリズム界のグランドゼロ・フクシマに立っているんです。これはとてもやり甲斐ありますよ。








花田:
振り返ってみると、結果的には引きずり降ろされてよかったね。

佐藤
:この20年間、日本の政治家が民主主義を嫌い、壊し続けるのは予想通りだったけど、ロシアとウクライナの戦争が始まってみると、地上は常に戦争したい輩でドロトロの地上だったと目が覚めました。世の中の当然を教えてくれましたね。帝国主義社会に戻されたこともよかったですね。これが普通の人間の世なんだと、再確認できましたから。戦争で物価が値上がりするのは困るんだけど。若い人達は派遣社員が多くなったし、給料も下がり放しだった。「給料安いけど、頑張れ、自助だ・・」と言い続け、中曽根改革から30数年経った、あれに騙されて従うのは馬鹿だ、なにもしないで遊んでいる方がいいんだよ。

花田:福島に来る前、3月11日土曜日にドイツの公共放送協会ZDFのニュースを見ていたら、ドイツのポスト産業労働組合(テレコムも入っている)が無期限ストのスト権を86パーセントの賛成で可決したというのがニュースになっていた。いつでもストライキ指令を出せる権限を中央執行委員会が得たうえで、使用者側と交渉に入るわけ。その時の要求が15%の賃金アップ。

佐藤小池:15%アップすごい!!

花田:何と経営側が出している回答は11.5%の賃上げ。労働組合はそれでもスト権を確立して15%まで交渉をやるわけね。つまり賃上げというのはストライキを構えて、ストライキを打って獲得するのが世界の常識なのよ。ところが日本では連合とかが政府や経団連にお願いして賃上げ。しかも7000円アップ、なんという要求か!


絵 ウイキペディアより 


共同通信2023年4月4日より
非正規労働者8割「賃上げなし」 労組調査、正社員と格差
個人加盟の労働組合が集まって賃上げに取り組む「非正規春闘2023実行委員会」は3日までに、非正規労働者を対象としたアンケートの結果を公表した。約500人のうち9割近くが物価上昇に伴う生活苦を訴え、8割近くが賃上げされず予定もないと回答。今春闘で高水準の賃上げが相次ぐ大企業の正社員との待遇格差が際立つ結果となった・・・。


佐藤:我が東北でも4月から電気代30%アップだぜ。
花田:賃上げがインフレ率以下じゃない。ドイツもインフレだから経営側の回答はすごいよ、11.5%の賃上げプラス30万円のインフレ手当。インフレ手当が別枠で付く。そういう回答をしているのに、更にストライキをする。すごいだろう。

小池:労働者が強気ですね。
花田:これが本当の労働者運動。ストライキをやって初めて賃上げ。日本のは労働組合じゃないんだね。あれはお願いして賃上げしてもらう。
佐藤:ジャーナリスト組合つくっておけばよかったね。小池さんが一人で雇用主の社長と交渉してても無視されちゃうよ。全国のジャーナリストが同一賃金で、マスコミも窓口一本化して交渉して。どのマスコミ企業でジャーナリストが働いても同じ給料にしようという連帯感がないと、スト権行使できず、お願いする関係になってしまう。
花田:本当はね、そうなのよ。『世界』の連載「関西生コン弾圧と産業労働組合、そしてジャーナリスト・ユニオン(2021年10月号、11月号、12月号)を小池君、読んでよ!
佐藤:俺は花田先生が発信する度に、ぜんぶ読んでる。関連動画や画像貼り付けているから、意識しないままに教え続けられている、受動的な門前の小僧(笑)

花田:サキノハカの中に、『世界』に掲載された「公共圏、アンタゴニズム、そしてジャーナリズム」もアップされている。web版もあって、佐藤さんが画像を加えて全文をアップ。こちらの方が見易い。
佐藤:それらを比べてみると紙とwebの面白さの差異が分りますよ。そういう作業をしているので、俺が20年弱の教え子の席に座っているようなもんでした。ジャーナリストではないんだけどね。成果品はまるで出してないんだけど(笑)教えてもらい続けている。

花田
:私は文章を佐藤さんに送るだけなんだ。そうすると佐藤さんがWikipediaから写真を探してきたり、映像や動画をどんどんweb頁に付けていくわけ。

佐藤:web頁を開いて見ただけでも花田先生の意図が分るようにしようとしていて、先生の考え方が視覚的にも伝わるように仕上げているつもり。花田先生は紙媒体で生きてきた研究者だ。webはドンドン更新され、間違いも多いんだけど、常に更新することが可能という軽さがいいと思うんだよね。だから信用ならないという人もいる。
小池:更新の面白さですよね。
佐藤:紙媒体は一度出したら追加変更できないから、正確でもあり、その良さはある。
小池:出す時にきっちり正確な発信をして。
佐藤:花田先生の最終講義についても、同じことをやっている。サキノハカにはweb版と『世界』に掲載された「公共圏、アンタゴニズム、そしてジャーナリズム」のPDF版が収録されている。



右絵:2018年2月3日最終講義
(←絵をクリックすると講義録へ)





最終講義における花田達朗先生の〆の肉声

■花田先生 web発信歴13年 

佐藤:
webはどんどん正解を更新し続けて、正しい情報に育てていくという面白さがある。web更新し続けないとその面白さは分らない。花田先生にも(web歴13年としても)長い時間付き合ってもらってきたから理解できるようになってきている。その影響か知らないけど、Tansaはweb一本で無償で発信してしまった。Tansaの始まる前、早稲田大学ジャーナリズム教育研究所のweb頁の発信は予備期間として、いい感じでしたよ。

花田:ワセダクロニクルからTansaに名称を変更して、ウェブサイトもリニューアルして、やっとよくなった。
佐藤:ワセクロが始まった時は、「男だけだし、こりゃ駄目だ」と思ったよ。結果を残してきた男の集まりだから。以前の成果を捨てて新しいことにチャレンジできない成功者たちの集まりだから駄目だよ。新しいメディア誕生には過去の成功話は似合わないので、そういう人の集合では、新大陸には行き着かないし、沈没すると思った。

花田:最初の頃はバラバラだったからね。
小池:そのころは早稲田の学生だったので、ワセクロの方は全部観てなかったです。

 (・・・・注文の肴が来る) 

佐藤:小池さん、福島市の田舎に俺のような奴が生きているといいでしょう?
花田:凄くいい。酒どころにいると美味い酒呑めるし。
佐藤:福島市内の人で俺を知っている人ほとんどいないよ(笑)花田先生が福島に暮らしている教え子の小池さんを俺に紹介することで、やっと俺の存在が分ってもらえて(笑)花田先生の仲介無しでいきなり俺に会ったら・・・・。
小池:ヤバイ・オヤジだ!(笑) 頭オカシイ奴!(大笑)





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絵:早稲田大学ジャーナリズム教育研究所 HP─フロントページ(2015年まで)

佐藤:俺のweb開いてみると、サイト名がFULL CHIN。日本語ではフルチンの音になるから怪しげなオヤジだと思うだろうね。人間に顎がないと言葉を発することも、食物をかみ砕いて摂取することもできない。顎が無いと、人間社会が成り立たない。サイト名は顎主義者という意味なんだけど(笑)下ネタと勘違いする人、多い。(注:英語でchin、顎は感情や精神の宿るところとみなされる)
小池:貴方の方がおかしい(笑)
佐藤:お互い、おかしいと言い張り合う(笑)議論にならないんだよ。噛み合わない(笑)小池さんは俺に会ったから、今後は悪影響受けちゃうよ。
小池:ぜひ薫陶を(笑)僕は紙に愛着はありますけどね。
佐藤:紙がいいのは理解しているけど。本の刊行は銭がかかるから、貧乏人の俺には紙で情報発信するのはハードルが高い。IT革命は貧乏人発信者には福音なわけですよ。字数制限ないし、画像貼り付け、動画埋め込みとリンクはりは簡単にできる。メディアミックス天国ですよ。タイムラグほとんど無い。すぐ発信できる。紙媒体は2ケ月遅れのタイムラグは必ずある。IT社会で発信のためにwebメディアの使いこなし、議論し合えると思いましたが、情報量が多くなりすぎて語り合いは少なくなりましたね。時々今日のように語り合いをして、小池さんが言いたいことを俺が言った事にし、web記録を公開して、周囲の人を変えていく方向でいいように思いますよ。



対話のジャーナリスト』(2011年、早稲田大学出版部)刊行時。花田達朗先生の様子です。佐藤がスマホ撮りし、編集しましたオルゴールはゼミ生が回していました。表紙の絵を描いた作家の肉声も最後に入れてます。

 その02へつづく