023/3/14 花田達朗 教え子と語る@浜通りを視察し福島市内の居酒屋「藤むら」にて 
東日本大震災・原子力災害伝承館にある模型よくできている
 01  02  03  04  作成:佐藤敏宏
 その04 

新聞社を脱出し、どん底の地・福島に来て、チャンスあり

花田:とにかく小池君、昨日も言ったけど、まず第一に信濃毎日新聞を脱出したことがよかった。
小池:今夜の乾杯の理由ですね(笑)
花田:そう、福島に帰ってきたことに乾杯。そこで雑誌社で仕事をするようになったことに乾杯。さらに結婚もして、子供も生まれることに乾杯。
小池:花田先生とも再会できました。
花田:いろいろ見ていると、福島で新しいジャーナリズムを立ち上げるチャンスがあるかもしれない、そういう場所に帰ってきたことがよかった。
小池:はい。そこがピンチの状態にあるので。

花田:ここはどん底だからさ、ここから立ち上げる。
小池:底が見えてます。
佐藤:21世紀も22年だけど、俺はドン底を歩き続けているけど、楽だよ(笑)
花田:メディア構造の変動もあるし、どうしたら当事者の土地で本当に必要とされているジャーナリズムを立ち上げられるか?という課題が浮上してくるわけですよ。いったいそれを誰が担うのか?もしも担い手が居なかったら、ぽしゃるんですよ。福島でジャーナリズムが死ぬ。
小池:ここは人材不足なので、僕が福島に帰って来て思ったのは、こういう自分でも大事な人なんだなと!
花田:人材だよ。
小池:(大笑いしている)
花田:ほんとうに、そうだよ。



ドン底なのか?福島市を信夫山の烏ヶ先から見ると美しい

ここ福島がジャーナリストにとってのロードス島だ

小池:相対的に自分の責任が重くなっていくなとは感じましたね。
花田:そうだよ。責任といって、押しつぶされる必要はなくって、やるべき仕事をやる場に自分は立っているという意識。
小池:もう逃げるつもりもないです(笑)
花田:そういうのをロードス島と言うの。「ここがロードス島だ、ここで跳べ」。ギリシャのロードス島。あのイソップ物語の逸話は、いろいろなところで引用されるわけ。ヘーゲルも引用している。ここがロードス島だ! 自分はロードス島で跳躍してチャンピオンになったと、凄く高く跳んだと大自慢をしている男が、その時にその村の長に「そうか、じゃ、ここがロードス島だ、ここで同じジャンプをしてみろ!」と言いわれて、彼は出来なかった。つまりほら吹きだった。イソップの話。
その逸話がいろいろ利用されて、どういうケースで「ここがロードス島だ」っていうのが使われるようになったかというと、ヘーゲルもそうなんだけど、いまここが戦うべき場所だっていう意味なんです。ここで跳べ、ここで闘わなくってどうする・・・っていう意味なんです。

小池:常在戦場みたいな(笑)
花田:あの言葉、ここがロードス島だという一句はヨーロッパの人だったら、ここで闘えという意味だとピンとくる。だから小池君にもそれがいい。ここ福島がロードス島だ!
小池:逃げるつもりはないです。
佐藤:人材もいないし、どん底だし、これ以上悪化することのない環境がととのっている福島のような場所はほかに無い。腕試しにはいい場所だよ。お金は回ってこない!そのこともかぶさるし、いい場所だよ。逃げてもOKだ。
小池:(笑っている・・・)そこは割り切っているけど。まだ闘争できていない。


花田達朗ジャーナリズムコレクション全6巻につい

花田:Tansa(元のワセダクロニクル)は「金はあとから付いてくる」と、韓国のニュースタパの編集長キムヨンジンに言われてスタートしたけれど、ところがお金は付いてこないんだよな(笑)
佐藤:みなさんくたばった後にお金が付いてくる。
小池:(大笑いしている・・・)宮沢賢治みたいに、生前評価されず亡くなるみたいな。あとからあいつは凄かったみたいに。
佐藤:福島でフクシマ地元の声を伝え続ける、言い続ける人がいないと記録も残らない。記録が無いと伝承もできない。亡くなってから評価されるのでもいいと覚悟を決めると。自分の書いた記録は県立図書館にファイリングして寄贈するのがいいだろうと思う。書籍にしてなくっても、地域資料で受け取ってくれるよ。俺の建築が掲載されるたびに建築の雑誌を寄付したし、花田先生の花コレ本も寄付している。絵も県美術館に寄付した。俺の家でひらいていた、「建築あそび」の記録はまだファイルにして持参していないんだけど、死ぬまでにはコツコツ寄贈したいと思っている。花コレは最初に出た2巻だけ寄付しただけです。本が売れなくて俺がネットで宣伝して半値で売ろうとしたけれど、売れないで持っているのがある。

花田
:他の巻も一冊ずつ全部寄贈しておいて。
佐藤:花コレは受け取ってくれました。
花田:そうしたら小池君が図書館で読んでくれるから。
佐藤:花コレのページ数多いから持ち歩くのもたいへんだよ。
小池:ぼくもなかなか手を出せずに(笑)
花田:5,6千円じゃ、だれも買わないよね。

小池:公共圏ってなんだよ?・・・みたいなね。
花田:そういう人はね、花コレ第3巻の中に収録されているんだけど、佐藤さんの家で語った「建築あそび」の記録を読んでくれればいい。
佐藤:2002年3月3日と11月2日に開いた建築あそび「公共圏について」の記録2本がそのまま第3巻の第3部「公共圏あそび」に収録されています。花田達朗入門の入口としては分り易いよ。

花田:佐藤さんがテープが切れたとか、笑ったとか、全部収録されている(笑)
小池:それまで収録されているんですか!(笑)
佐藤:俺は後で花田達朗演劇になるように文字起こしているので、雑音も文字にしていたから。







小池:花コレってどういう経緯でまとまったんですか?
花田:彩流社の編集者の出口綾子さんとワセクロの木村英昭さんから著作集を彩流社から出したいと話があって。おそらくワセクロをバックアップするという意味があったのではないかな。だから最初に刊行したのが第2巻。第2巻はワセクロ設立後のことがまとまって収録されているから。
小池:最初に出たのが第2巻? 第1巻からじゃないんですか? おかしくないですか?
花田:だから、そこに刊行の背景は読み取れる。
小池:そういうことはあり得るんですか?
佐藤:で、俺が県立図書館に寄贈したのは第2巻。
花田:第2巻というのは朝日新聞の原発吉田調書記事取り消し事件のこととか、そのあとのワセクロの設立、その後ワセクロの色々なイベントで話したことや書いてきたこととか、それらが全部収録されている。だから第2巻はワセクロをサポートするための刊行だったと言えるだろうね。
小池:最初にみなさん買ってくれますよね。
佐藤:花田先生の最終講義の日に合わせ刊行したし、「所長の伝言」(webで公開している伝言集は絵付です)も載っているし、中身濃いですよ。小池さんにも役立つ記録だと思います。最終講義の日に集まった人多かったので、あの場でいっぱい売れたかな。

 所長の伝言web版を読む

花田:第1巻はそれ以前の時期に書いたものを収録している。
小池:そういう出し方があるんですね。1,2,3はあくまで時系列に収録されている。
花田:実際に刊行された順番とは違う。1,2巻はどっちもジャーナリズムの実践がテーマになっている。

佐藤:最終講義に人が集まりましたよね。(花田達朗最終講義録へ
小池:アンタゴニズム。あのとき佐藤さん居ました?
佐藤:居ましたよ(笑)あの講義を文字起こしして最後の花田先生の肉声を埋め込んだりして頁をつくりwebアップしましたし、懇親会にも出ました(笑)
小池:なんだ、もう(笑)その時に引き合わせてくださいよ。
花田:そうすればよかったね。

花田達朗先生最終講義の日

佐藤:
小池さんも懇親会場に居ましたか?
小池:居ましたよ。ニアミスしてたんですね。
佐藤:講義の教室も満員で、たくさんの人がひしめいていたからね。
花田:あれは懇親会でしょう。小池君も懇親会にいたの?
小池:居ましたね。
佐藤:俺も居たのに・・・挨拶しなかったね。
花田:そうか、二人ともグットモーニングカフェの懇親会に居たんだ。
小池:なんだあー(大笑)

佐藤:俺はジャーナリズムの勉強会、ジャーナリズムカフェの勉強会の後でインドカレー屋にも何度も行ったけど、小池さんは居ましたか?
小池:その時は居ませんでしたね。ネパールだかインドだかの食堂ありますよね。
花田:交番の向かい側ね。
小池:あそこのお酒が美味しい。
花田:そこを使っていた理由は単純なの、大人数で予約なしでいつ行っても入れるから。

左の絵は
花田達朗先生最終講義の日
2018年2月3日 懇親会の様子

粗い様子は佐藤の2月5日日記にあり
左は懇親会の様子
グットモーニングカフェとママキムチでも




懇親会の最後には博士課程の学生が宿題を花田先生に求めたのに応じ、退職にあたり皆さんへの言葉は

闘え
ファイティングポーズをもって生きよ
私は皆さんを観察し続けていく

(ジャーナリストは何のために闘っていくのか? 現在 企業の奴隷になって気づいてない、他者にとっての自由を守り続るため)


学生時代の記事の方がよかった問題


小池:昨日会った時、花田先生に大学時代の記事が一番いいと言われてショックなんです(大笑)昨日、渡辺周さん(Tansa編集長)からも大学時代の色を出してないと言われて。
花田:今の雑誌社の雑誌に書いていたセクハラ問題の記事「地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の『裏の顔』」(『政経東北』2023年2月号収録)ね。その感想を昨日(3月13日午後)言ったわけ。
小池:一番ショック受けました!花田先生に会ってよかったですよ。
花田:目が覚めただろう。そうなんだよ。それが教師の役割なんだよ(笑)

 (・・・みんなで笑う・・・)

小池:「大学時代のレポートが一番良かった」ときっぱり言われると辛い!何糞みたいな感じ。
佐藤:社会人になって何糞と思わせる人が目の前に居ないのは小池さんの責任ではないと思いますよ。

花田:現にね、学生時代のルポルタージュ作品は良かった。
小池:意図してないんですよね。
花田:ジャーナリズム演習の15人ぐらいのクラスで、最後はみんなレポート書いて提出なの。みんながレポートを出して、それが目の前に集まってきて、それにコメントしなければいけない。パラパラ読んで。小池君のレポートの番が来て、読んでいて「お!」と思って。これが秀逸。完璧とは言わないけれども、ジャーナリズム作品としての水準をクリアしていた。

小池:
その時の目的は過去の自分なんです。そのときに秀逸と言われていて、それを越えられていないというのが悔しい!
花田:そうだろう、そうなんだよ。あの時の文章、あのレポートの文章の、なんていうかな・・・。
小池:ホームレス寸前の生活保護をもらっているお爺ちゃんの話しなんです。内縁の妻を亡くして、そのお葬式に向けていろいろ動いているという内容で。
佐藤:オリジナルたっぷりじゃないか!
小池:そうなんです。

花田:私は覚えているよ。道端でたまたまね、あるホームレスの人に会った。声をかけた。話をした。身の上話。じゃ詳しく聞きたいっていうので彼の住んでいるアパートに一緒に付いて行く。そこで、アパートの家に上がり込んで話を詳しく聞くわけ。それが一回だけじゃない。また行くんだよ。
小池:大学時代は暇でしたね。
花田:3,4回行ったよね。
小池:10回以上は行ってますね。記事にはなっていないですけど10回以上行きました。
佐藤:取材態度、まともじゃないですか!
花田:そう、それをレポートに。何が優れているかというと、ディテールの描写なんです。例えば座布団がどこに置かれていたか?とか。部屋の様子とか相手の表情とか、「ディテールに神が宿る」というのは有名な言葉だけど、まさにディテールが書き込まれているんです。

小池:自分で書いている中でも神が宿ったみたいに、ディテール書かなければみたいな感じになっていた。

花田:私は今言ったようなことを講評のときに学生みんなの前で言ってたよね。そして、小池君が今、「神が宿ったみたいに」って、言っていたけど、そうなんだよ。言葉は君のものじゃないんだ。言葉は天から降りてきて、君の手を伝って、文字として書かれるんだよ。
佐藤:取材時間相当、部屋の詳細、表情が映像のように刻み込まれていたわけだ。大学に行かず、その老人の方の家に暮らしている気分だね。
小池:そうは言っても濃密に付き合ったのは1ヶ月くらいだったんです。10回以上は行って、数えられないですね。
佐藤:週に二回行く、恋人でもそんなに会わないですよ(笑)
小池:気になって、明日死んでいるんじゃないか?と思うようなおっさんなんですよ。
佐藤:無縁の人が気になるのはいいね。
小池:ヘルパーの気持ちですよ。記事にならなくっても・・いいから、とりあえず会いに行くか!記事になったのは、たまたま課題が出されて、記事になったのであって。あくまでヘルパーのつもりでした。

花田:なるほどね。
小池:このおっさん、明日絶対死んでいるだろう?
佐藤:小池さんは人に優しいんだね、それが人生で一番いい記事だった(笑)それは拙いかも、雑念身に付けてしまっているよ。
小池:そうなんですよ。
花田:まずいよね。拙いんだよ!だから私は小池君の雑誌記事をね、構えて読み始めたわけです。つまり現在の斎藤航はどんな文章を書くんだろうか?しかも信濃毎日新聞で色々経験してきたうえで、きっと磨かれているはずだ!と。それで読み始めたらさ、どうしたんだ、これはと。最初のところから読んでいるうちにね、これは本当に斎藤航が書いた文章か?と思ったね。

佐藤:がっくりしますね。福島に来なくてもよかったのでは(笑)
花田:がっくりした。
佐藤:しかし、そこが研究者の悪いところだ。世の中分かってないから、いつもピンピンしてたら、死んじゃうよ。
花田:それはそうだ。今回、福島に来た理由の一つは斎藤君に会うこと。事前に雑誌を送ってくれたから、読んだ。そうすると目的は変わった。あの斎藤君にあの雑誌記事の批評を伝えよう!と。どこが、いかに駄目かという批評を伝えるつもりで来たの。
佐藤:斎藤航色を出してしまうと、どこにも掲載されず没にされちゃうかも。
花田:単に「駄目だと」は言わない。どういうふうに駄目かということは昨日の夕方に歩きながら話した。福島稲荷神社やその境内の「世良修蔵の墓」を見て、遊郭の跡地のエリアを一緒に歩きながら話した。

世良修蔵の墓 福島稲荷神社HPより


小池:福島市の明治病院の辺りを散歩しました。
佐藤:北狸かな。
花田:歩きながら彼に伝えた。これでやっと福島に来た目的の一つが果たせた。その時の批評のポイントはね、文体とストーリーについてだった。学生時代の、あの体験と作品は斎藤君の原点だから忘れちゃだめだよ。そしてその原点を越えて先へ、遠くへ行くんだよ。迷ったら原点にもどればいいんだ。

佐藤:折角だから自身によって斎藤航消された説を花田先生のサイト・サキノハカに載せましょう(笑)
花田:彼がいいところは、好感が持てるのは、私がセクハラ事件の記事についていろいろ手厳しい批評をしている時に、彼は真摯に聞いているわけ。反発しない。反論しない。じっくり受け止めているわけ。

(・・・ 「もう閉店ですよ」と女将さんに言われる・・・)

佐藤:幾らですか、お愛想お願いします。

(・・・女将さん:こちらになります)

佐藤:一人4000円ですよ。明日は私の家で続きを語り合いましょう。


文化通信「これからは地方紙の時代」
2017年1月9日 拡大して読む

みんなでお金を出し合って店を出る。翌日(下絵)佐藤の家で呑みながら話しの続きが行われた。(音源あり)




最後まで目を通していただきありがとうございます。引き続きフクシマ問題などを語り合い、記録を発信してまいりますので、よろしくお願いいたします。

作成・文責:佐藤敏宏   01  02  03  04   HOME