大島哲蔵さんからの便り 1998年    HOMへ
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19998年4月2日

大島哲蔵様
4月1日ももうすぐ2日ですが、夕方から雪が降り出し5~10pほど積もっています。3日前は20℃にもなって家の中庭にある桜が花びらを見せ始めたのに、10年ぐらい前に(長男)の中学校の入学式の日 大雪になって以来のような気がします。

CONCRETE BOX12も今日仕事始めを行い 使われ 人が出入りししこす建物らしくなって来ています。この頃になると荒れや難点が印象に残りあまり素直に直視出来なくなります。他人の口がどうもうるさく感じられます。普通の人々は一般常識でうなずいきあうのですが、そのようにならず粗探しになったり、あきれられたりする時間がいよいよ訪れたようです。

発注者が大喜び感心しているのがとても良いことです。彼らの長男18才「これは面白すぎて困る」などと語ってくれます。親戚 知人が3階のタラップをそしておばあさんがひよいひょい登ったりして「私の物見塔」が侵されているしだいです。

中学校の方は地元と市議団がどう展開し市教委にそれを実行させることが出来るのか高見の見物です。

著名な建築家の方々が若い才能に開かれた公共建築へ道筋を作ってくれたなら田舎者の私がこんなに苦労せずに済むだろうし、若くて瑞々しい才能を花開かせ育てることだって出来るだろうにと思います。

犯罪すれすれのことをやって建築家の道を進まぬ限り公共建築の道へ参加することも出来ないとすれば、納税者にとっても不幸なことで、(横に書き込む  先輩建築家を批判してもよいと思います)私はそんなところに参加したくないなぁ~と弱気で子供のように単純に思いますが、若さと才能を発揮する場を彼らの話し合いによって作りだせたらよいと思っていますので頑張ります。

市教委はコンペや市民の話し合い。住民にデマを飛ばしたり、脅したりして、いろんな手口で潰しにかかってきてます。住民代表の方々には知恵や裏話をして協力的な態度を確認しているのですが、彼らを今度は個人的発言だと断定し住民代表の座から引き摺り降ろしにかかったり、次から次と抵抗します。こちらも単純に良い学校のためを連発します。

よい学校のためには口実です。開かれた設計市場の開拓のためです。もうすぐ福島も桜が咲くと思います。B0X12の物見塔で花見をしましょう。連絡します。

突然の 女のように 雪が降り

佐藤敏宏


1998−4−2−16:54

佐藤様 昨日はこちらでも強い雨が降り、満開となった桜をかなり散らせてしまいました。突然の女 でも気性の烈しい、別の娘に眼を移した男を叱り飛ばしたような感じでしょうか。

BOX12が竣工したようで、いろいろ御苦労がおありだったことでしょう。皆が好奇心を持つようになるものを作れることは大変よいことのように思います。否定的なことを言う人も多いことでしょうが、私などはそれも含めて賛辞だと思ってしまうことにしています。ようは自分が気に入れるかどうかが大きな問題です。

 今日はある友人がshioguという有名な造形作家を使いたいと言ってきたので「別の人にしたほうが良い」といって工作を始めました。あちこちにあるのをなんでまた作ろうとするのか、僕には解りません。

若くて未知数の人だから使ってみたいと思うのです。定評ある成熟した作家は他にいくらでもチャンスが転がっているのですから、pushする意味はありません。不安定でリスクが大きいからやってみる意味があるわけです。

BOX12での花見はいつでもいける状態です。4月11日から水戸でテラーニ展が始まりますが、それも行ってみたい気がします。いろいろ楽しみです。

ニッタ君の淡路島の見学会が急に決まって4日5日になるようです。(入居の関係もあるのでしょう)瀬戸大橋(開通したばかり)を渡って見に行くのが良いですね。聞いているところではなかなかの自信作のようです。
満開の便りと1日時間をあけてもらえる日を教えてください。ドウケやミヤジマ君もテラーニは行きたがっているので、ヒョッとすると同道するかもしれません。


1998年4月2日頃

大島哲蔵さま
昨夜から降り続いた雪は午前中でようやくあがりました。春の雪は突然の女のようにビチビチして重たく樹木の枝がおれたり電線が切れたりと大変なのですが風が弱かったせいで大事なしです。ぶちゃぶしゃした道を革靴の中までびっしょり冷たくなり長靴など倉庫にしまい込んでしまったので(雨なら流れてしまいますが)鬱陶しいばかりです。

午前中 午前中仕事始めの御払いがあり神主さんの話ですと桜の開花は福島では10日頃は間違いないでしょうとの事。雪の水分を吸い上げて早まるかもしれないそうです。

建築文化にBOX12の写真を数枚送ったら、先ほど編集長さんから電話があり6月号に載せるので早く資料を作れとのことでした。(締め切り15日まで)FAXによると東京は桜が満開だそうで、雪の花が木々に咲き誇っている福島では一寸信じがたい気分です。

久しぶりのウエダマコトさんからの葉書ですと(住まい学大系は今年で一区切りだそうです)「自由な発想に飢えています」とのこと。

若くてリスクが大きい人に仕事が発注されるように私達は努めるべきだと強く思いました。不景気で伸びやかな建築と自由な発想が枯れてしまうかもしれませんが、先輩方が土壌作りをしていないので雑草のチャンスかもしれません。ナイーブで豊かな感覚が育たないのはなんとも残念です。すこしでも若い人達のためになるよう努めたと思います。

ニッタさんの見学会の話も福島においでの折りにお願いします。

水戸は車で2時間ぐらいだと思います。テラーニのドームの前に立っているモダンな建築は周囲の関係がより鮮明になるといいのですが。写真は周囲が撮影されていいないのが多いので建物を考える上であまり参考になりません。周囲の空気やそこに生きている人間の呼吸が感じられなければ、私なりにその建築を理解した気分になりにくい。

工事現場の隣に「うるさいじじい」や「口先ばかりの発注者の親戚」などは写し出されていないのでイメージが枯れてしまうのでしょう。 「狂った女」や突然夜中にやってくる若いお姉さんが建築に自由な発想と狂気を内包させることは間違いなく、ものつくりをすっかり忘れた施工業者も大雪も・・。

福島から水戸へ 2~3日建築の話や温泉に行ったりしましょう。昨年の仕事の金がようやく振り込まれたので電車または飛行機代をおくります。10日でよければ手配いたしますが連絡ください。今年はお金も仕事もないので建築を多く見学したいと思っています。福島は桜の次は桃やリンゴ・梨の花が咲き桃源郷の出現です。  佐藤敏宏



1998−4−2−23:50

佐藤様 FAXありがとうございます。10〜12日頃をめざしてどうやって行くか検討しています。どういうメンバーになるかまだハッキリしませんが、多分そのあたりでおじゃますることになるでしょう。(そう言えば深夜バスの手もありましたね)旅費は自分の興味で行かせてもらうので、自分で払うので全く心配はありません。それに今は少し余裕がありgood timingです。方法が決まったらすぐに連絡します。都合が悪くなった時のみ知らせてください。編集長さんは佐藤さんをすごく買っている印象があります。良いことです。コウケ君とは実家の倉のことで何かやってもらおうと思って一度現地に来てもらい、可能性を探っているところです。いろいろおもしろくなりそうで楽しみです。淡路よく見てきます。  大島哲蔵


1998−4−3−23:17

佐藤様 11日の朝の飛行機で行くことになりました。ミヤジマ君が同道します。到着時間はお知らせします。12日に水戸に御一緒するスケジュールでよろしくお願いします。
大島


1998−4−13−22:31

佐藤様 3日間に渡り大変お世話になりました。先ほど無事大阪に帰って来ました。また必要があればいっでも行きます。旅費を節約するために3週間以上前に決めた方が良いようです(4割引)花と新作品と大人しくなされた奥さんにお会いできてとても感銘をうけました。 改めてお礼をいたします。

ノジリさんの奥さんの名前と住所と電話番号を教えてください。つまらないものをお送りしたいと思いますので。私自身が淋しく不毛な生活を続けているのですが、にぎやかな子供達が居なくなって、大好きな建築がある旦那さんと違って打ち込めることを見失ってしまった女房は初老が忍び寄る足音を聞いて戦々恐々となるものなのでしょう。これからもいろいろ話をしてあげてください。小生も誓書を時々書くことにしました。

友人のヤスハラさんの話では東北大には二人の学校の専門家がいるようで、一人はKさんというY研系の人で文部省とも繋がりのあるオーソドックスな教授で、下手をすると向こうの側のような立場にもなりかねない人物のようなので×です。もう一人は東北大の拡張計画もしているOという教授で、東京で都市計画事務所をもっている人だそうです。地味な方のようですが話を聞いたり必要があれば参考人として登場してもらうことも考えられる人のようです。なにより有利なのは私の親しい九州大教授のF氏と高校の同期で知り合いのひとだそうです。そのルートを使えば会ってヒヤリングしたり、コンペの結果のコメントをもらったり場合によっては学校建築の今日的な課題について話してもらいたいと思います。必要に応じてF氏から葉書かTELを入れてもらいます。その時期が来れば言ってください。困難は山ほど出てくるでしょうが楽天主義で行きましょう。全面協力します。大島

 1998年 4月頃
大島哲蔵様
貴重な時間と散財、本に感謝します。Alsopのハイテク構成建築は美しいですし明快ですね。現場で働く人々の姿の写真は日本の建築現場との違いを感じますす。老人しか働いてない福島の工事現場とは大違いで、外国人労働者なんでしょうかね。

 Alsopデザイン 特にペインティングはなかなかの腕と色彩とテクニック明快さに裏打ちされたセンス、私もこういった才能があればいいのにと思いました。ペインティングやデザインの大きさそしてそれを描いていたタイミングを知りたくなりました。

イギリスシリーズをみていくとこれからは鉄骨建築かなーとなんとなく思います。大量の工業製品を使い単純な納まりで複雑で楽し空間を作り出すことが求められているのかもしれません。現場のことを考えるとコンクリとBOXも終わりかなと思っていました。 RC型枠より木造に近い鉄骨造かな。スチールBOXシリーズもいいですね。1年間眺めて仕事があれば考えようと思います。

白河の話は実に鈍臭いですね。市教委の思うつぼに納まり、土地を高く売りつけるのもいいかな。市民と地主 主催のコンペを実施するためには大いに思う壺に収まりながら行動するしかないかもしれません。楽天主義で若い人の才を伸ばす切っ掛けを作り、できるだけ多額の参加料を出させる、支払う、を第一目的にする。

よい中学校建設のためには口実にするしかしょうがなさそうです。自分たちでフライングの訂正ができないので(これも市教委の作戦でしょうが)脅され中学校が改築できないと思いこんでいる市民幻想には笑えない日本の役人天国が透けて見え気分が悪いこと。もっと悪い状況になっていただき皆が怒り出す切っ掛けを作るために土地は絶対売らないでコンペの話を続けるか。

私は市教委の人と話をすることがないだけ気分は楽です。役人と話していると3日ぐらいやる気を失いましたから。大島さんを巻き込んでしまい申し訳なく思っていると同時にガス抜きさせていただいて、二重に申し訳ありません。

ミヤジマ氏の作品を見学に行く義務が発生したようです。建築家では3人目でしたから彼は。BOX13の設計が終わりましたら大阪に行くことにします。3週間まえに決まればホボ半額っていうことですから散財させまいた。今日は福島も雨で満開の桜もびしょ濡れで美しく光っています。佐藤敏宏


手紙 

佐藤様
 福島、水戸では大変お世話になり、繰り返しお礼申し上げます。刑務所のまわりのなにも言うこともない田んぼの風景や、あまり見る人もいないのに咲いている花のことを思いだしています。食べ物も美味しいし温泉も良いのでそちらに居られると欠点も目につくことでしょうが、たまに行くのは最高の所のように思いました。

 さて夏に来てもら時のために先日の原稿に手を入れたものをご高覧ください。一方的な感想ではありますが、少し納得の行くものになったかなと思います。もう一度最初から書き直すと決定稿になるのですが、それはいつの日かに取っておきましょう。

 イギリスのシリーズを少し送らせてもらいました。(支払いはいつでも良いです)オルソップのカラーの絵は、ブルース、コクリーシという現代画家が協力しています。線画は本人のモノでしょう。イギリスの人の一部がこれほど自由でとらわれない発想ができるとはたにかに驚き桃の木です。

ロン・ヘロンもそれに劣らないくらい自由な人です。(2年位前に亡くなってしまいました )ピーター・クックのまわりに、この二人がいたからこそアーキグラムは説得力をもっていたのですね。日本のメタボリストも彼らに足を向けて寝られない感じです。

 昨日、口頂意見陳述というのに補佐として出てきました。「聞くだけ」の儀式ですが、依然免許取消の「聴聞」というのに行ったときのことを思い出しました。処分の不服を一応聞くという体裁をとっているのですが、要はその時に免許証を取り上げようということです。役所の発想は皆同じです。100年前に生まれていたら、間違いなくテロリストになっていたと思いました。それではまた 大島哲蔵


●1998年4月18日 頃 カステラに同封

佐藤敏宏様 奥様
 福島でいろいろお世話になりました。また関西にも遊びにきてください。つまらないものですがお召し上がりください。会津にサザエ堂があるよういに、福島のBOX12は市民の深層心理に人間味の波動を送り届けることでしょう。 大島哲蔵 お手数ですが、ノジリさんに一個届けてくささい。よろしく。


● 1998−4−18−20:52 前
大島哲蔵さま
昨日カステラ届きノジリさんの事務所に行ってきました。あまり気遣っていただかなくてもよかったのに散財させて申しわけなく思います。

ろくな寝具もない所に泊まらせてしまいました。西宮の実家に比べると余りにも粗雑でした。妻も金曜日の通院でだいぶ良くなっているとのことです。完治するまではまだしばらく時が必要とのことで気長につきあうことにします。普通の状態ではなんともなさそうなのですが、そこが病気とのことです。

ノジリさんの住所電話など記述あり

月曜日 文化の写真部の人が来て 写真撮影で火曜日の午前中までかかりそうです。BOX11は人が入居前だったので殺風景な写真でしたが、今回も完成し仕事を始めたばかりでリアルな写真にはならないでしょう。2〜3年後の取材が本当は良いのですがワークスの写真集のような生活感あふれる建築がよいのですね。

昨夜夢で複葉機のような建築が2機出現しました。草原にニヨッキリ生えた二つの建物は一方がRCと黒のフレーム、もう一方はブルーのフレームでした。Alsopやテラーニの直線の中を草原の風がそよそよと通過している傍でテント劇の主催をしていてなにかと忙しく楽しい夢でした。


1998−4−18−20:52

佐藤敏宏 様

Nさん方へ配送して頂き恐縮です。私は旅館に泊まるよりも、ああいう所で寝るのが好きです。BOX12の空間を身をもって知ることができましたし、ノジリさんが良いと言うのなら定宿にしたいぐらいです。以下BOX12の感想を書きます。

正面の熊手のような貝のような扇形フレームは、道行く人の視線を集めて楽しませる装置として成功している。機能上は駐車場をホールドする仕掛けとして安心感を与えている。室内からも眼線の方向性を与え窓のグリッドの向こうに斜線が入るのが魅力的だ。裏手はマッシヴで開口も制限されているため、ビザンチンの聖堂のような趣が感じられる。表も裏も周辺には類のない処置で新鮮な連続性が表現されえtいる。両サイドに用意された小部屋は親切で使いでがある。キャッツウォークで結ばれた上層のそれも同様だがBOX11から出現した塔屋の特徴ある意匠は一連の作品をidentifyする装置として制作元を明示している。どこかで次のモチーフに変わっていくのだろうが、あきるまでやれば良いと思う。室内壁の折れ線グラフのような曲線は会計事務所にふさわしく、塔に昇る梯子の曲線に対応している。作りつけの三角形いのテーブルや円形のそれは、スペースの使い方を強制していて普通の矩形のモノがくるより空間の特徴に合致している。

 全体として空間に諧謔味があり、コミュニティーから逸脱するとともに親和している。周囲はとくに物流の幹線地帯で大スケールの荒々しい騒音が満ちている。それは今逆に注目されている、ダーティー・リアリズムの土地柄なのだが、そのエネルギーを巧妙に外してるのが、BOX12で、点景として詩情を添えている。場所から突出するではなく埋没する風でもなく自己表出的なメッセージが放射されている。軽くもなく重くもない感じを受けるが、それは本来なら重くなるはずの裏面の壁体から無数のピンが出てカプセル状の留具が付けられているからだろう。この措置によってシュタイナー風の含意は吹っ飛んでしまった。換って洒落た感覚が加わったのはこの場合プラスに作用している。隣接地が空いていることも作用しているが、出来るならスリットを介してこの建物がチラチラ見える状態が好ましいだろう。

 会計事務所というのは通常、堅苦しい表現になりがちだが、ここではおおらかな表情を獲得している。設計者のパーソナリティーがそうした質を誘発している。精神の自在さと軽い無頼の感覚が形式主義の神経症をかわして、ミニマルでも過剰でもないそのままの空間の現前を許容している。新しい施主やロケーションに遭遇するたびに、あたかも連歌を詠んでいるかのような風情は新しいタイプの建築作法と言えよう
              大島哲蔵

※ いつか手を入れて、春秋塾に来られた時 建築連歌師−佐藤敏宏の世界と題してパンフレットに再掲しようと思います。

 ●感想文を 後に訂正し送られた。 その タイトルと文章

     乱気流に饗応する構築体

正面の熊手のような貝のような扇形フレームは、道行く人の視線を掌握する装置として成功している。機能上は駐車場をホールドする仕掛けとして安心感を与えている。室内からも眼線に方向性を与え窓のグリッドの向こうに斜線が入るのが魅力的だ。裏手はマッシヴで開口も制限されているため、ビザンチンの聖堂のような趣が感じられる。表も裏も周辺には類のない処置で新鮮な連続性が表現されている。両サイドに用意された小部屋は親切で使いでがある。キャッツ・ウォークで結ばれた上層のそれも同様だがBOX11から出現した塔屋の特徴ある意匠は一連の作品をidentifyする装置として定数(母数)となっている。どこかで次のモチーフに変わっていくのだろうが、あきるまでやれば良いと思う。室内壁の折れ線グラフのような曲線は会計事務所にふさわしく、塔に昇る梯子の曲線に対応している。作りつけの三角形いのテーブルや円形のそれは、スペースの使い方を強制していて普通の矩形のモノがくるより空間の特徴に合致している。

 全体として空間に諧謔味があり、コミュニティーから逸脱するとともに帰属している。周囲は物流の幹線地帯で大スケールの荒々しい騒音が満ちている。それは今逆に注目されている、ダーティー・リアリズムの土地柄なのだが、そのエネルギーを瞬時に凍結保存してるのが、BOX12で、建築として土木に拮抗している。自由連想のモチーフを召喚して再配置する手腕には比類がなく、場所から突出するではなく埋没する風でもなく気の向くまま振る舞っている。軽くもなく重くもない感じ(つまり記号でもない)を受けるが、それは本来なら重くなるはずの裏面の壁体から無数のピンが出てカプセル状の留具が付けられているからだろう。この措置によってシュタイナー風の含意(concaveな可塑性)対立的な手法が壁体を活性化した一例だろう。隣接地が空いていることも幸いしているが、出来るならスリットを介してこの建物がチラチラ見える状態が好ましいだろう。

 会計事務所というのは通常、堅苦しい表現になりがちだが、ここではあくまでもおおらかなである。設計者のパーソナリティーがそうした質を誘発している。身体気象の是認と婆娑羅な感覚が形式主義の神経症をかわして、ミニマルでも過剰でもないオブジェクトの現前を許容している。新しい施主やロケーションに遭遇するたびに、あたかも連歌をよんでいるかのような風情は新しいタイプの建築作法と言えよう

毎日、この建物の脇を少なくとも千台の車両が轟音とともに駆け抜ける。しかもローカル線(飯坂線)から東北新幹線まであらゆる種類である。それでも建物は「カタカタ」という微かな音を立てるだけだ。壁に穿たれたトンネル状の管に取り付けられたガラスの板が鰓のように風圧に感応するのである。 こうして建物は一種の生命感が賦与される。

地方都市を貫通する幹線インフラ沿いの土地はどこでも持てあましものだ。しかし佐藤はひるまず場所のストレスをただちに耽美化の標的にしてしまう。 巨大コンクリートのマッス(橋脚)を吹き抜ける風の渦巻きに呼応して壁や屋根をくねらせたり、傘の骨組みのような扇形フレームを対置する。彼には未来派的な感性−−場所に即した舞台装置の案出能力−−が備わっている。

この建物はスピード=ノイズを受容するかわりに、自らも狂気じみた形態言語の唸り声を周囲1kmに発している。施主の無口な会計士さんも言語中枢に刺激を受けて急に多弁になった。聞けば野尻さんは建築家の通っていた近所の工業高校建築科での先輩にあたり、別世界に身を転じたがこの度び建築を「再発見」したらしい。もの物語性と称するよりも、作用と反作用をつうじた記憶の創出というのが佐藤敏宏の仕事なのだ。              大島哲蔵



● 1998年4月28日前

大島哲蔵様
先日はご丁寧な文章をいただき感謝申し上げます。ノジリさんコバヤシさん妻にみせました。皆ほめられすぎと私をひやかしております。

自分の建築の感想を聞くことなどめったにないことなので、大変楽しく大切に読ませていただきました。私の気付いてない点や何気なく作っている所を分かりやすく解説していただいて、一寸こそばゆい感じもします。

設計中はすきまを埋め尽くすことばかり気を取られていて大らかに楽しむことはあまりありませんが、出来てしまえば笑っているしかないので、そうしています。

今日は文化のワカキさんという写真家が朝から夕方まで撮影をしました、明朝6時にまた数カ所撮影することになりました。今日は朝から隣のアパートの部屋に入れていただいたり、隣家の屋根に登ったりと真夏のような気温の中をワキさんのスピードについてゆくのが大変でした。

ワキさんも時々詩人のような発言と発見をするので大変参考になりました。無意識にそのような(ワキさんの発言のような)形になってしまっているので、まぐれというやつでしょう。大島さんの文章それからワキさんの撮影で自分の気付いてない所を発見してとても楽し2日間でした。 まぐれも実力のうちと思って設計することにします。きっと楽しいユーモラスな写真が出来るでしょうから楽しみにしてくださいませ。また楽しい設計が出来福島に来ていただけるよう努力しますのでよろしくお願いします。

とりあえずお礼まで 佐藤敏宏



● 1998年4月 日頃

大島哲蔵様
本と感想文に感謝いたします。文章を書いていただき光栄です。お礼に絵本風の物を作り送りますから楽しんでください。ワキさんの写真faxを見て作ったのもです。郵送します。

文章はノジリさんの所へ届けておきました。イギリスの娘さんの所へ早速faxしてました。コピーを取って人に配っていますのでそのうち文章のお礼をさせます。私がします。今となってはどうして設計したのかうろ覚えですが、そんな風だっったと思ったりします。建築文化の文章も時が経っているので設計時の思いかどうかなんとなくそんな風だな~と思って書くきました。

設計をしている時は文章のことなど思っていないので設計のことのみ考えているので文章とは別ものです。

ウォルソップの絵はスピード感あふれて本当にいいですね。ブルースマクリーンの作風ということですが、やはりオルソップと思います。ロッシとは異なりますが、美しい作品集楽しく思いました。アーキグラムの激しさもなななかなものです。私は本当になにも知らないことがよく判りました。

大島さんがテロリストなら私は百姓一揆のむしろ旗持ちです。

文章にもどりますがゆっくり完成させてください。一ヶ所「トンネル状」のは私はボビン窓と呼んでいるので呼び名を揃えていただければ幸です。

戦争と建築の文章もうそろそろでますね。楽しみです。又連絡します。 佐藤敏宏



1998−4−26 11:25

佐藤敏宏 様
 今日起床したらFAXが届いていました。不出来なもにも関わらず皆さんに読んでいただき喜んでいます。感想と批評の中間というところで、でも専門家以外の人にも読んでもらえる点では良いかもしれません。

 絵本風のパンフレットは楽しみにしています。到着したら部屋に貼っておこうと思っています。名古屋には過日、旧知の女性アーチストがベニヤ板にパターンを油性絵の具で書いたものを壁一面にセットして行き、ところどころワックスでプロテクトしてありますが、他の所は時間がたっにつれてボヤケて行くのです。面白いですよ。

 ノジリさんや佐藤さんによんでいただいて喜んでいるので「お礼」はいらないです。活字になて、出版社からは対価をもらうのですが、感想批評は佐藤さんの建築を道すがら眼にして、しばし楽しむのと同じですからFree of chargeなのです。

「戦争と建築」はもう一週間もしないうちにでるでしょう。テラーニと一緒というのも因縁を感じます。たった一ヶ所ですが、彼にも言及しています。書いている時には同じ号になることは、全く知らなかったです。

 昔の東北農民はエネルギーがあったのですね。百姓一揆は死を覚悟したものですから、迫力が違います。今の連中は知恵がついて妥協やおこぼれをもらうことばかり考えるので、体制にとっては都合がよい存在です。村おこしの村長さんたちも本当の哲学を持った人はいないので、成功したら、したで みじめになる街が出来てしまいます。

 先日の口頭陳述のときに同じコマだった60代半の一人暮らしの老女(と言ってもお婆さんという感じはしない)の話を聞いたのですが、一部は借家にしてその収入で頑張った来た人ですが、幸い全壊はしなかったのに区画整理にあい、更地になったら売って老人ホームに行くと言っていました。

行政が余計なことをしなければ、まだ10年は頑張れたケースです。駐車場(3台ぐらいしかとれない)の収入でも作って。何とか頑張るようにすすめたのですが 、老朽家屋の査定ですから、千万円ものならないでしょうし・・・。健全に懸命に生きてきた年寄りを追い出してしまう行政には本当も困ったものです。

大島


● 98年4月29日前

大島哲蔵様
FAXありがとうございます。文字を見ていると最近元気になられてようで安心しました。若手精鋭の別組織は賛成です。理性に基づく観念論や唯意識の話などうでもいいと私は思っていました。狂気やシステムから来るドロップアウトは地震による原野の出現のように人が人間らしさを手に入れる唯一の方法のような気がします。

産業の構造が変化もしくは解体されて江戸時代のような社会になるとは思えませんから、この世のその疎外感や所在なさそして分列増殖する主体の波を楽しむほかなさそうです。ある時は ジャックになり、貝になり、鶏になりながらです

テラーニの絶対建築はばかばかしい妄想ですが、それに身をゆだねる人間自身は美しいものです。絶対の直線など人間の頭の中にしか存在しませんし、そのベクトルにしてもその人間が直線を数万光年考え続けても終わらない。直線狂気です(そのものです)直線の集合である平面とて絶対平面など頭の中に存在するので、それを現実世界に出現させようとする狂気を私はわかりますが、追求しようなどと思ったりはしません。どんな風に作ってもグジャグジャするそのあり様を楽しみます。それよりは混在する私やすぐ変わる私を楽しみます、そして分列増殖する「私を」いかに飼育するかです。これは寺山から教わった方法です。

BOX12は10年ほど前に夢に出現した建物です、現実化するために塔の階段を内部のタラップに変えました。敷地から出てしまうからです。夢では大地と側の流れは色彩が反転していましたが、川は原油のようで大地は錆茶色でした。
(1994年建築文化11月号 p93の話の甲虫がそれBOX12です)
現実は樹木はハイキガスで黒々、川は酸化鉄のせいで茶色です。貝と渦のホークロアは建築文化の文章を考えたり、写真を見てでっち上げたものです。本当のところもありますが、作り話でそう見えるのが楽しいですね

写真を撮った翌日また夢を見ました。草原に複葉機のような黒い建築とalsopともクラインとも違うブルーの建築です。ブルーの建築はラビリット公園のフォリーのようなフレームだけの風通しのいい建築でした。そのうち実現させます。

その後夢でバクゲキされ夢の中で死んだのですがそれは夢がさめ現実にもどっただけでした。死はもしかすると夢の中に住み着くことかも知れません。今後も目の前に出現するあらゆるものを、といっても自分の感覚で知覚できるものだけですが、寄せ集めてバナナのたたき売りの口上のように建築をねつ造するのです。

今年は貧乏になっちゃいそうなので、サイトウ君には一時休業してもらい、BOX13を早く仕上げてしまい次の仕事をさがすつもりです。 BOX12は6月号ですから、原さんと同じ号だと思います。建築と戦争を読んだらまたFAXします。実作は写真よりも言葉によるほうがよく伝えることができます。CGよりスケッチが豊かなように。

佐藤敏宏


1995−4−29−17:34

佐藤様
「貝と渦のフォークロア」を頂戴しました。建築の手法から場の要因へ、会計事務所の風景からジャックと豆の木へとつながる心象風景を納得しながら拝見しました。

 空間の詩人として佐藤さんのあり方がそもまま出ていて、当初から個人が築いた感性や体質が最終的に建築となって現れるのだろうという意を強くします。

 単に知的に解読される建築とは違って、触覚的に関知される建築とはそういうモノなのだろうと思っています。それが身体性とか場所への定位につながるのでしょう。

「ぐみとボビン窓」はフォークロアにぴったりで海の中のを想起させる。泊まっていた部屋のトリオの踊り子も写真でみると効いてますね。天井の張られた布も大きな特徴であることに今更ながら気がつきました。

ここまで建物に感覚を捕捉されてしまうと、今後も全ての作品を見届けることを約束させられたようで、楽しみであると共に恐怖です。

昨夜遅く帰ると「テラーニ号」が届いていました。レイアウトされた自分の文章を初めて視るときはいつも心配で不安です。(いずれなじむのですが)多分建築家の人が自作した記事に触れられることも推察します。佐藤さんは次号ですか。それともその次でしょうか。次号はハラヒロシの図書館ー相変わらずひどい作品ーが載っているようで、同じ号でないほうがよいのですが・・・。

新作の文章も楽しみにしています。アホな文を書く人が多い中で文を読む楽しみを与えてくれる数少ない作家ですから。6月には関西の精鋭を集めて別組織を発足させようと思っています。また助言をお願いします。   
大島哲蔵


   1998年 5月へ