岩堀未来さん (35回) 環境と交流する建築  
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2020年8〜10月 作成 佐藤敏宏

 その5 複合型介護施設 上機嫌

 これで最後の事例になります。高齢者集合住宅 上機嫌という建築です。これは2014年です、先ほどの住宅から3年後に出来た建築です。


(新建築社写真部 撮影)
 この建築は高齢者の方が自分の今住まわれている環境から離れて、ここで他人と暮らして、かつこの地域と関係を結びながら暮らしていくんですけども、その時にここで心地よい暮らしというものを送るためにどういう空間が必要なのか、ということを考えました。

 この建築は複合建築なんですけども、一つはサービス付き高齢者集合住宅。もう一つは通常の施設になりますがデーサービスセンターが在りまして、この二つを平屋建ての建築の中に一体化させています。

 敷地は山梨県甲斐市ということろに在るですけども、このように周辺は雑木林が多くって、その中に住宅が点在しているような場所になります。高速のインターチェンジから非常に近い場所に在りますので、集合住宅の方は都心から移り住んで来る高齢者の方が多くって、デーサービスの方は周辺から通って来る方が多い。
こういう高齢者の方がここで共同生活をおくる。そういう建築になります。




 このように赤い文字で書かれているのがデーサービスセンターの機能で、青い文字で書かれているのが高齢者住宅の方の機能となります。様々な機能がここに入りまして、その中で共有するスペースには、大きな場所がありますし、ちょっと小さい奥まった場所がありますし、もしくは回廊のように長い空間も。このような共有スペースをひとつながりにすることを考えました。右の図のように、青く塗られたところが今の共有スペースを全部つなげた形になっています。

 ここも色々なものが通り抜けていく、というようなイメージで、透間(とおりま)と名付けているんですけども。これは先ほどの個人住宅で造っていた筒の空間というものが、複雑な機能、大きな規模になったときに、どういうふうに展開できるのか、ということを考えました。

 平面図の床の色が塗られている部分が先ほどの透間(とおりま)になります。色んな大きさのスペースが在って、家具の置かれ方も自由になっていまして、そこでいろんな事が出来るということです。


(新建築社写真部 撮影)
 これが集合住宅側の透間なんですけれども、壁の手前の広いスペースでみんなで集まって食事をするとか、左の奥の方のスペースで一人で読書をするとか、もしくは奥に長ーくつながる長い空間を歩くことで運動出来ると。認知症の方などはグルグル回ったりするという事があると聞きましたので、こういうスペースを造って、色んな使い方ができるようにしました。


(新建築社写真部 撮影)
 これはデーサービス側の透間になります。これも手前が機能訓練スペースなので、体操をしたりとか色々な運動をします。奥にダイニングとリビング、さらにテラス、その先の雑木林というように全てがひとつながり、大きな空間になっていまして、なので、大きいのでそこそこ距離はとっているんですけど、一体感も生まれるような空間になっています。

 またこの透間、大きなこのような開口部を設けて、これは手前の雑木林の景色を取り込むという事もありますが、この先に見える町の存在というものが、このスペースから感じられるというのが、重要だなーと思いました。町の連続の中で自分たちが暮らしているということを感じられるようなスペースを造っています。

 こういう小さい窓もありまして、空も見えます。この透間のもう一つの大きな特徴は木の大きな屋根なんですけれども、これは先ほどの別荘の住宅で木の梁を連続させていったときに、空間の一体性というものが非常に強まったというふうに感じでおりますして、それをこの建物で応用できないかと考えました。

 この建物は細かい小さい木材を連続させて一体感をつくっています。細かい小さい木材を使うことで、大きい施設なんですが、住宅のような親密なスケール感というもがつくれるんじゃないかと思いました。

 この木の構造体を全部表して見せてしまうことで、木の暖かみというものが生まれるように、なっています。



 やはり木の屋根なんですけれども、これは2×12材という、これも工業製品化された木材を徹底的に使って、構造を単純にしています。その他の屋根材であるとか外壁材とか断熱材であるとか、サッシであるとか。全て住宅でも使うような一般的な工業部品を組み合わせています。

 室内気候についてですが、光は大きな開口部や中庭からふんだんに入って来て、非常に明るい空間になっていまして、かつこの透間というのが、空間的には全部つながって抜けていて、風が抜けやすい空間になっています。なので、空気が淀むことが無いので、非常にここに居て心地よい生活が出来る、というふうに考えました。

この施設の透間という非常に不整形な共有スペースと、その上を覆う木の大きな屋根というもので、非常に単純な仕組みの中に、たくさんの環境要素を交流させているという、そういうことを考えました。

 矢吹町の災害公営住宅は、この上機嫌の後に設計をしたんですけども、この二つの集合住宅では先ほどの個人住宅で試みた開放的な筒のような空間というものを上機嫌ではそれを変形させて、大きな規模でかつ複雑な機能を対応させようと考えましたし、矢吹町の災害公営住宅では、その大小を組み合わせて集合させることで、室内と屋外を一体化させるような、そういう空間をつくるということを考えました。



■環境交流装置という建築 背景しての建築

 以上で事例の紹介は終わります。最後に環境交流装置という建築を考えるとき、一番重要な事は生活を外と内に開く非常に開放的なスペースを要求されるというか、必要になってくる事だと思います。それを一般的な工業製品で、組み合わせて造ることで、美しい道具といいまいすか、そういうものになると考えています。

 ですのでこの環境と交流する建築、環境交流装置としての建築ですけれども、そこは人々の生活というものが主役となって、建築が最終的にその生活を成り立たせるための背景として考えられている。そういうことが大切なのかなーと考えています。

 本日は住空間について主に話しましたけれども、この考え方というのはもっと公共建築であるとか、一般の建築にも当てはめて考えることが出来るのではないかなーと思っています。ですので、これから私もこの背景としての建築を、こういったものを色んなタイプを考えて今後も模索していきたいなーと考えております。

講演は以上になります。最後まで皆さんご清聴ありがとうございました。 


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