岩堀未来さん (35回) 環境と交流する建築 
 その1 その2 その3 その4 その5
2020年8〜10月 作成 佐藤敏宏
 (その3)  他の事例紹介

■筒の家


(坂口裕康 撮影)
 一つ目は個人住宅になります。筒の家という名前になりますけれども。2008年に完成なので今から10年前ぐらいになりますが。私が独立して初めて設計した住宅になります。

 なぜこのような名前かと言いますと、このように手前から奥に通り抜ける、筒のような空間がこの建物を貫いていて、そのまま住まいになっているというような住宅です。なぜこのような形になったのか、またはこの形からどういう暮らしが生まれるのか、ということをお話したいと思います。

 敷地、ここに住まわれるご家族ですけれども、車椅子で生活する30代の男性と、その男性をサポートする、ご両親がいらっしゃって3人の住宅になります。計画地は東京都の三鷹市という所です。

 都心から、電車で20分ぐらいの所に在りまして、だけど都心の密集地でもなく、かつ郊外の自然が豊かな場所でもない。適度な自然が残っている、都市部というような、場所です。

 具体的には、この敷地の南側にバス通りが在りまして、その先に、果樹園が広がってまして、周囲はお店とか、住宅が並んでいるような場所になります。右側の写真で、バス通りと果樹園が見えるかと思います。

 この住宅のポイントとして、三つありました。大人、3人が小さい住宅に暮らしますので、3人の距離感というものをどう作るかということ。それから車椅子での男性の生活をご両親がサポートするので、3人の生活の一体感というものをどのように作るのかということ。それから、将来ご両親が高齢化して、もしくは亡くなられた時に車椅子の生活している男性が、他人の手を借りて生活することになるかも知れないということも考えて、その場合外部とどのようにつなげたらいいのか、ということを考えました。



 この課題に応えるために、私が考えたのが、このように南北に長い筒のような空間をこの住宅の中に平行配置するということです。

 これは三人がそれぞれ、部屋をもって生活するというのではなくて、この長い大きな空間の中にそれぞれが生活に必要な家具とか物を配置して、その中にコーナーを作ような形で、生活するというイメージになります。平面図で見ますと、左側が一階ですけれども、バス通りから奥に長い空間が在って、こちら2階は、上は吹き抜けています。階段で上がって 少し細い筒のような空間が在るのが分るかと思います。大きい筒と二階のちょっと小さな筒と、入口側のスロープでずーっと奥に入っていくので、ここも一番細い筒のようになっていますけど。大中小の3つの筒が建物を貫いているということです。

 これは一番大きな筒を道路側から敷地奥に向かって見てますけれど、この道路側のスペースというのが、先ほどの車椅子で生活する、男性のスペースで奥はダイニングですけれども。例えばこれだけ離れていて、奥で食事していても、手前の男性はさほど気に成らないですし、かといって、またく切られているわけではなくって、お互いの気配というのがこの中で伝わる、というふうに考えました。

 これは北側なので非常に軟らかい光が筒の中を満たしています。これは逆に反対側、先ほどの奥から手前、道路側を見ています。このように住宅の一番奥に居ても町の雰囲気というか、存在を感じることが出来ます。なので必要に応じてこの町から距離をとって生活することも可能ですし、何かあったら、ずーっと前に出て行って、他人の手助けを借りる、ということもこの空間では可能になっていきます。

 こちらは南側を向いてますので、直射日光が筒の奥まで入っていくようになっています。

(坂口裕康 撮影)


(坂口裕康 撮影)
 こちらの左の写真が、2階の少し細い筒です。ここはご両親のスペースで、やはり奥にお母さん、手前にお父さんというような形で、この二人の距離を少しとっているんですが、この中で気配は感じるというふうになっています。

 こちらの写真は2階のから、一階を見下げることが出来る。様子をうかがうことが出来る窓を付けています。そこから見た写真になります。
  
 このように筒という空間を造ることで、その中でそれぞれが距離をとりながら一体感を感じることが出来るという。そういう空間をつくりました。



 このような建築を先程申し上げた、非常に単純な構成で、一般的な工業部品で組み立てることを考えました。

 断面図で見ますと、このように筒の中に南から光が入って来て、北からも軟らかい光が入って来て、その中を風が通り抜ける。またこの中で、距離をとることができるし、町との関係をつくることも出来る。というような建築です。

 ただこのような大きな空間をつくりますと、この中の空調というのが非常に難しいんですけど、ここでは床に水の袋を利用した蓄熱層というのを造ってまして、その水を温めて、そこに熱を貯めて、それを室内に放熱することで、この室内の室温というものを維持するようにしています。

 このように単純な筒というものなんですが、その中に光とか風とか、生活の距離、町との関係、もしくは熱の動きであるとか、そういった様々な環境要素というものが、交流するような形になっているのが分るかと思います。

 その4へつづく