HOME    佐藤敏宏のことば悦覧録        
 
倉本剛さん編    吉祥寺にて  2014年6月6日   
                  01 02  03  04 


 第一回ことば悦覧 倉本剛さん記録
  2008年5月実施
   

 01

佐藤:倉本さん6年ぶりです。5年毎が1年遅れました。 前回の聞き取りの場所は自宅の2階が事務所でした。 マンション内装のコンペで優秀賞をとりちょっと、大きな見通しもあまり無いような感じでコンペに挑戦しまくっていた感じでした。私の人生どうなるんでしょうか、のような雰囲気でした。今日は倉本さんの師匠の事務所内で聞き取りです。

倉本そうでしたね
佐藤:その後どんな感じに展開されていますか、間に311地震もありましたけど。地震前と後で分けて話していただいてもいいですし。

倉本コンペの時の提案のまま、出来上がったんですね。実際に建った
佐藤:通路型で仕切りが無いかのような 室内の計画で採用されたんだと語ってた記憶があります。家の中を回遊できるんですね

倉本
そうですね。部屋は引き戸で独立しつつ全体を共有も可能な案です。これはですね、その後分譲されて 買った人は50代の夫婦だったんですね。一度 見に行きました。書斎的に使っている感じでしたね。

 

佐藤:回遊せずにですか
倉本開けっ放しになってました夫婦二人ですからね
 
 当初の想定は子供とか、ファミリー系を想定してたんですけどね。たぶん周りとあまりにも違うプランだ ということとか、価格とか、テーストとか色々あって。この地域のファミリー層には受けなかったのかなーと。どうしてそういう層に買っていただけなかったのか分からないですね。

佐藤:使いやすそうなプランだけどね、風通しも良さそうだしね
倉本:僕としては、家の中なんかは プライバシーなんか要らないだろうっていう風に考えて。音とかも含めてですけども。そういうものが伝わっちゃったほうが。
 色々知られたくないプライベートな事、個人的に家族内でやらずに 町に出れば幾らでも出来るだろうって。外にね プライベートなスペースなんか沢山あるんで。そういう意味で、今は都市全体がプライベートな空間ばかりなんです、カラオケボックスもそうだし。ホテルもそうですし。

佐藤:都会には個が借用できる便利な個室がそこらじゅうに在る感じですよね
倉本一人になれる場所は幾らでも在るので。それを活用して家のなかはむしろ交流するのがメインなスペース、家族が一体になるようなスペースの場であるべきだという考え方なんです

佐藤:このプランからは 親密な個別空間は排除してしまった。けど、受けが好くなかったんだと。
倉本そう。そういう意味では個々の親密な空間を排除したんですね。夫婦で子供が居てという場合は夫婦でホテルに行ってもらうという感じでも いいのかなーと。

 

佐藤
:何LDKの方が家族持ちの方には売りやすいということですかね。買い手が何LDKに慣れてしまっているということでしょうか。

倉本:普通にマンション、これだったら売り出しは3LDKでだ販売するんでしょう。というふうにマンションで 成増、あの場所で3LDKを幾ら幾らの金額で買うって想定して来る人たちというのは 一般的なマンションを想定している方が多いかも知れないですね。
佐藤:壁が一部引き戸形式になっていてるだけで 質は何も変わらないのですがね。

倉本:あとは廊下が無いとかね。居間からダイレクトに個室に入れて。僕としては 昔ながらの日本の暮らしからは そんなに変わりがないっていうか。障子・襖みたいな世界を現代的に作り直したっていうことなのかも知れない。そういう意味では新しと 言われかは・・。いたって普通の事をやっている
佐藤:戦前に戻るみたいなプランではあるよね。仕切壁が無い 全ての場を暮らす人と共有出来るという計画。1軒だけ作り販売したんですか

倉本:  全体では225戸在るんです。でかいマンションの1戸だけ出来上がった。で 1戸だけ作り そのまま売り出す予定だった。

 浜に またマンションが建ってて、この物件のちょっと後ですね。これと同じような個室が繋がるスペースで、僕はその物件は監修という立場ぐらいで。かなり作り込んであったので、もうちょっと大枠の関係だけ監修ですね

佐藤:作り込むだ ということは工事費が高くなったということですか。
倉本:簡単に言えば通常のマンションの単価と比べれば かなり高額になった。品合板は高額じゃないですけども、マンションで品合板を使うということは普通しないので。かなり日焼けもしちゃうとか。色々あった。抵抗はあったんですが。 
佐藤:この物件は1階に在るんですか
倉本1階なんです北側に緑があって。公開緑地があるんですけど。それに面しているので 北側と机というのは相性がいいので。それで机を北側にずらーっと並べて。それに対して個室がつながっているというような考え方なんですけどね。

リビングがあって寝室があって机があると。キッチンから そのまま当初の予定としては子供部屋がキッチンから見えて。そのまま子供部屋で何か勉強しているのか遊んでいるのか 子供が見えると 想定してた。そういうイメージではありましたね。

佐藤:1階で あまりにもオープンなのでショールームと間違えて購買意欲に結びつかなかったかもね
倉本そうですね、これは展示の仕方は迷ったんです。いわゆるモデルルームとして見せるときに。什器というか椅子とか 何とか全部置くんですけど。それも僕の方で選べたので。
 最初は具体的に本当の生活シーンみたいなのを、普通のモデルルームだとやっていると思うので。そんな感じでやろうかなと思ったですが。

  そうするとそれがやたらイメージが強すぎると。自由度が逆に下がると思ったので。具体的な物を入れつつ、全部白で統一したんですね。実際の色の好みは買い手が個人で想像してもらうにと。 ですから形とかは全部違う椅子を置いてみたりとかですね。

タスクライトも全部違ったりとか。置いてある物はまったくみんな違っているんですけれども。

佐藤:そういう配慮によって 印象は ずいぶんすっきり お洒落ですね
倉本そうなですねすっきりし過ぎちゃったというのはあるかも知れない。
佐藤:生活の場というよりは働く場 事務所に近づいた感じで受け取られたのかも

倉本
そうなんでうす、その辺が僕としては逆に不自由さを感じさせている処もあるというか。生活感がなさ過ぎるというか。作り込み過ぎちゃった処があって。もっとざっくり作る方法もあるなって。そういう課題はあります。それは反省しているんですけどね。

佐藤:新築販売型マンションで 内装を競ったということですね。既存のマンション改修とは違う。
倉本新築で一室を内装コンペで競い作る方法です。特別にそういう内装を作ると。結構お金は掛かっているんですけど。売値としてはその分 値段を上げられないらしいんですよ。つまり駅から何分。何LDK、何uっていうと枠が決まっちゃうらしいんです。幾らどんなデザインでも それ以上値段を上げることが出来ないって。本当かどうか、そういう相場があるらしいんです。

佐藤:デザインや建築の質じゃなくて値決めは駅からの距離と面積だけなんだと。
倉本そうなんです。それからマンション販売の売り手のグレード駅からの距離面積値段は決まって来てしまうので、工事費をそのまま乗せることは、あるいは付加価値として乗せることが出来ない。

佐藤:駅からの距離によって 販売手の何によって 買い手の階層がはっきりと分かれてしまうんだと。
倉本そうなんですね、えらいシステマチックに決まっている。誰が決めたか分からないんですけど。

佐藤
:階層可視化地図があると便利かもしれないけど 
倉本:それが少し この内装のような物で揺らぎが出てもおかしくないと思うんです。実際のマーケットとしてはそういう状態です。

 僕も矛盾しているかもしれませんが 全体の225戸に対して そうとう特異なものが1戸入っている。そこに住みたいと言う人はそうとう変わっているのじゃないかな、たぶん。 それを嬉しく思う人が買う。そういう意味では純粋に このプランというよりはシュチュエーションから考えると 難しい処があるんですよね

佐藤:家族が交流しやすいので 好い関係が生まれるかもしれないし、喧嘩が多い関係者の利用では最悪なプランかもしれない。難しい処ですね。引き籠もりに成れないプランですものね。
倉本引き籠もれないんです はははは。これは途中からやると難しいかもしれないが 初めから住むと慣れるんじゃないかなーと。

佐藤
:引き籠もりの人は多いですが、理由は色々あると思うので、その辺がね〜
倉本:どこまで開放というか 関係性を強くつけるかというか。そこのせめぎあい。建築としては切るのは簡単ですよね。建物としてもそうですし、間仕切りもそうですけども。基本的には仕切る方が 完結させる方が・・最近は主寝室だと防音装置をするらしいんです。他の部屋との間に。ふふふ

佐藤:なるほど、寝る時間帯など家族のそれぞれが異なる場合いも多いだろうしね
倉本:だんだん 防音設備を備えることが エスカレートしているんですね。他から音が聞こえないようになって来ている 廊下がそういう意味ではバッファーになっているんですよね。リビングと寝室の間の廊下が。
佐藤:そうだね

倉本:あと主寝室には鍵が付く。そして防音仕様になっているっていうのが標準らしいです。マンションとして。

 音対策では 段々西欧化してきているんですかね。西欧ってまるめていっていいか分からないですけれども。

 妹の旦那がドイツ人なので。ドアの開け閉めとかものすごい静かだし。音に凄く敏感です。今は家族で日本に赴任してて。3,4年ぐらい来年か再来年に帰るかも知れません。いずれにせよ厚い壁で完全に遮音。もともと遮音性が強くってドアもがっちりしたドアで。

 ドイツ人の場合はプライベート関係ないですよ、という時はドアを開け放っているらしいですね。閉めているときはそういうサイン。入っちゃいけない。

 その02へ