森純平さんと語る PARADISE AIR 訪問記    作成:佐藤敏宏
2022年8月27日午前9〜12時
森純平さん
花田達朗さん
中村睦美さん


パラダイスエアー事務室兼制作室にて

6月23日八戸市美術館の建築を訪ねた。設計者の一人である森純平さんに偶然お会いしたので率直な感想を述べ記録を作った。21世紀に生きる人の活動を支援する森さんの行為と姿勢を知り感銘をうけた。このweb記録は2013年から10年間にわたる森さんの活動訪拠点の一つであるPARADAISE AIRを訪ね語り合った訪問記である。

01 PARADAISE AIRについて 02 03 
■ 自治意識が高く自由を愛する自治会

:PARADAISE AIRについて語りますが2時間ぐらいかかります。松戸にいらっしたことないと思いますので、はじめに立地についてです。このアーティスト・イン・レジデンス(以下・AIR)という施設は2013年から運営を開始しているんです。

AIRとして全く知名度が無かったので、最初は海外からのアーテストも来てくれなくって。そのなかでコンセプトとしてトランジット・ポイントと言っていますが「東京と成田の間に松戸は在るから呼びやすいよ」と(笑)半分冗談で半分本当です。交通はそんなに便利ではないんですけれど。
最近、あいちトリエンナーレ(2010年から3年ごと開催)とか全国でいろいろ展示があるときにアーティスト側は現地にいくだけでなく東京に来ますので、今まででしたら東京の適切なホテルに泊まって現地にいくけれど、せっかくだからPARADISE AIRに泊まればいいし、寄っていったらいい。パラダイスエアーは2013年から始めて9年ほど経っているんですが、トランジット、例えばヨーロッパのアーティストが中国で展示があって松戸に寄ってラーメン喰って帰国する。

花田:トランジットね。

リアルト・ランジット・ポイントとして、アジアに来たついでにPAEADISE AIRに1週間ぐらい泊まって帰っていく。本当にリアルだと思います。

今日は松戸駅からPAEADISE AIRに来ました(徒歩数分)。松戸市は人口が50万人ぐらいです。駅からパラダイスエアーに来たのと同じような距離感で江戸川が流れています。パラダイスエアーが松戸に来た理由でもありますが、松戸は近世期いらい宿場町として栄えていまして、パラダイスエアー・ここ辺りが町の中心ぽいです。

松戸の対岸に葛西神社がありまして、奥には徳川慶喜の弟の徳川昭武が家として守っていた。ここが江戸時代から宿場町として栄いた場所です。ですから松戸の次に柏があるのですが、柏は江戸時代に何もなかったから(戦後)駅前がどんどん再開発されました。けれど松戸は既に町として栄えてしまっていたので1980年代は衰退気味でした。投資もできないし、町としては縮退気味でした。けれどその分、松戸の住民の方々は江戸時代から自分たちで場所にかかわっているので、自治意識が高く、例えば駅前のデッキも基本的に自治会が管理しています。そもそも何をやるにしても反対をする人たちでした。

気付かれたかもしれませんが、先ほど渡って来た横断歩道に、信号が無かったんです。信号を設置したらしいんですけれど、自治会長が「俺たちの街なのに、何で車のことを気にしなければいけないんだ」ということで直ぐ外させたらしいです(笑)
そういうスタンスが全てに繰り返していて、駅前のペデストリアンデッキも基本は公共の施設のはずなんですけれど、管理をしているのは自治会の人たちです。365日、自治会の人たちがあの場所を借りているという態にしているんです。市役所に電話するのではなくって、自治会の人たちに電話すると、デッキの使用許可がでる。そういう不思議な状況になっています。

デッキ管理などと同様に江戸川も都内の河川だと緑地じゃなくって公園とし区画にしてしまって国交省が管理し、草むしりとトイレと堤防と柵とか、安全面も含めて利用が出来るようにしていると思うんです。松戸の場合はそれをやるかやらないか?そのときに、例えばバーベキュー「自分たちで好きなように使いたいから、公園とすると綺麗にはなるけれど、ルールが出来るよりも緑地のままがいい」と。今も緑地になっています。 そんな感じで町全体が自由に自治意識が凄く強くって

僕は芸大で上野公園で組み立てとかで、いろいろプレゼンを町中でやっていたんですけど、都内でやると、だいたい直ぐ苦情が来ます。どんなイベントをやっているのか?と言われ、苦情先となんかしら対応しなければいけない。ライブやると確実に一回は苦情が来ます(笑)松戸でやっていると全く苦情が来ない。それはそもそも町の人たちが僕たち以上に勝手に自分で活動していて、町の人が慣れているというか、そういうことがあったので「松戸という面白い町があるよ」というので10数年前にここに来て活動を始めました。










 webより



徒歩旅の例


840年小津久足さんの旅 江戸〜松島往復の旅2月27日〜3月27日(旧暦)
『小津久足 陸奥日記』東北大学文化資料叢書第11集より。小津安二郎さん先祖筋の伊勢松坂の豪商湯浅屋与右衛門家の主人

低家賃でお借りしている

森:パラダイスエアーが入っている建物はもともとラブホテルのビルでした。1階は中華料理屋さんだったらしいですけど、建物の4,5階をお借りしていて。パチンコホール楽園(運営:株式会社浜友商事)の協力を得ました。パチンコ屋さんって町から嫌われることがほとんどなんです。低層部だけ借りればいいんですけど、そういうことは出来ないで、建物を買ってしまって。2013年当時は下は使っているけど上はただの倉庫として使われている状態でした。そこに目を付けて「上をアーテストレジデンスにしてくれませんか?」とうかたちで申込みました。

佐藤:建物の所有者の方々とは知り合いだったんですか?

森:ぜんぜん知り合いじゃないです。ぼくじゃないですけれど、不動産担当の人が1年ぐらい掛けて、いろいろ企画書とか提案し「貸してください」と送りました。担当の部長さんが変わった時に話が通じました。「そもそも使ってないし、僕らは町の人たちと一緒に活動していたんですけど、町の人たちと仲良くなる切っ掛けにもなるし、悪いことではない」と。

佐藤:で無料でお借りしているんですか?
森:無料だと贈与の問題が生じるので、最低限の家賃でお支払いしています。

佐藤:宮城県塩竃の亀井邸という古建築の共有方法は固定資産税分をNPO法人が所有者に支払い、市役所がNPOに金額を補助し保全運営する形式です。固定資産税分が家賃でした。
森:そんな感じだと思います。
花田:ホテルは廃業していたんですか?
森:10年ぐらい使われて、廃業。
中村:パチンコ屋さんにとってもメリットがあるんですか?
森:パチンコ屋さんはそもそも使っていない、家賃収入が生まれてなかったし。パチンコの景品置き場でした。置くために用意しているというよりは空いているから適当に置く状態でした。
佐藤:人が出入りしているほうが建物も生き返りますし表情も生き生きしますので。使った方が町にもいいですよね。









PAEADISE AIRが入居している建物の外観


アーティストと住民の交流を仕掛ける肝

森:建物に付いてた「楽園」から名前をもらってPARADISE AIRにしていまして、迎合しているわけではなくって、ネーミングとしてめちゃ好いので「これでいこう!」という感じで決まりました。

(AIR前史)

先ほど、松戸の話を少ししましたけれど、ここら辺が自治会のオジサンたちの領域です。2009年ぐらいから始まりました。常磐線で松戸にいらっしゃったと思いますが、上野に芸大があって取手に芸大があって、北千住にも芸大があって、では柏アートラインという仕事をやっています。松戸だけアート的な事をやっていなくって、当時の市長が「アートに関連する何かをしたいなー」というので、最初は松戸アート・ラインというプロジェクトでした。地域の有効不動産をお借りして、そこに若い芸大生とかアーテストが展示をするというイベントを2,3年実施していました。

それを地元の自治意識が強いおじさまたちが「展示の期間はいいんだけど、それが去った後、終った後に町に何も残っていないじゃん!」という本質的な批評を言われて。「それだったら」というので、毎年、毎年、仕組みを変え活動をしていました。それらはPARADISE AIR前史ですね。

さっき話しました江戸川の河川敷ですが、松戸には葬儀場は一杯あるんですけれど、結婚式場が無い。「結婚式場がないなら江戸川でやったらいいじゃん」ということで実施し。公園を使用するのも当初は公園法のもとでやっていました。普段は賭け将棋がおこなわれ雰囲気がある場所になっていました。それを子供のために伝えていくとか。市から予算をもってくる防犯、防災、子育てみたいな、そういう処から発案したり。盆踊りが出来ないから一緒にアーティストと踊るということを、地域資源を活用して実施していました。

(アーティストを支援する自治会のおじさんたちに変えた)

アートとセットにするときに、アーティストはデザイナーみたいに、防犯のために何かをしてくれとか、2009〜10年あたりでした。最初は自分の好きな作品を作るアート活動でした。ただの地域課題を解決するためにアーティストが呼ばれていて、それは本質的ではないよね?ということで、ちょっと仕組みを変えた。

地域に対して自治意識が強いオジサンたちとか、例えば道路とか気楽に占有できるんですけれど、アーティストが先に一定期間、住んでしまってアーティストが何かやりたいと言ったら、オジサンたちに相談をすることにしました。オジサンたちが、まず何をしたいか悩んで、このアーティストと考えて、わざわざ呼んで、しかも自分たちがやりたい方向性がありアーティストにやれというスタイルでやる不毛なサイクルではなく、自然と「アーティストから何かやりたい」と言われたらったら自治会のオジサンたちが手伝うという仕組みに変えた。やっていることは変わらないんですけれど、それでだいぶ上手いことになりました。

佐藤:オジサンたちとアーテストの交流はどこでなされているんですか?

森:今でしょうか?昔は普通に毎週のように呑み屋で、町会会議とかにも出かけて行って、ああだこうだと交流します。

佐藤:10年経った今も、同じ形で続いているのでしょうか?











(新住民とも交流)

:今は、もうちょっと適度な関係性になっていて、アーティストが来た時に歓迎会をしたり、既にネットワークがあります、自治会の人たちと言っても限られた人です。昔からいる人、松戸駅周辺も新しい場所が滅茶苦茶できているので、新住民のような人たちはたぶん8割りだと思うのです。自治会の人たちが本当の地元の人たちではないわけで、自治会に対して新住民の参加率は減っていると思うのです。違うところともネットワークを作っていかなければいけない。で、パラダイスエアーが切っ掛けで新旧住民の交流のため何かできたらいいなーという感じです。

佐藤:旧住民と新住民の交流の場所がこのパラダイスエアーを介して繋がって行くのがいいんだと。
:そうですね。かつそれが毎回同じ人が来るといのだと詰まらないと思うので、パラダイスエアーの場合は毎回全然違うジャンルのアーティストが来ます。緊縛をテーマにしたアーティストが来たり、スペインをテーマにした人が来たり。そうすると、スペイン好きの新しい人が来て交流する。普段ぜんぜん接しないジャンルの違う層の人が来る。

緊縛をテーマにした作品も展示

ーテストが入れ替わると部屋の作品も入れ替わる

佐藤:アーティストが来ますと、その度に自治会への説明をするんですか?
:例えば今日のコラボの人たちですけれど、そういう形で公開します。で、部屋はご覧になりましたような感じで、全ての部屋が全然違う。

佐藤:アーティストが来るたびに、部屋に展示してある作品が入れ替わるということですね?
森:はい。このスライドがそうなんですけれど、左右は同じ部屋です。レジデンスの運営をやっていて楽しいのは開ける度に毎回全然違う臭いがして、レイアウトが全く変わっています。卑下しているわけじゃなくって、インドから来た人が滞在しているとカレー臭かったりとか。同じ部屋なのにその変化が毎回面白い。

(家族やパートナーを伴い滞在)

部屋の滞在は、他の自治体が運営しているレジデンスですと一部屋1人が多いんです。パラダイスエアーは一部屋であれば何人居てもいいよとしています。そのことは最初恐る恐る始めました。外国人だしカップルで来ていちゃつかれたら嫌だなと・・。けれどそうはなりません、考えたら当然で、片方はアーティストで来ているので、アーティストのパートナー方は邪魔をしないように、むしろ活動を応援するような関係性なので、制作のことをサポートする。日本にいるからもうパートナーの方々も松戸とかを楽しんでくれます。また勝手に地元の人とも交流してくれる。そういう形で、悪いことは全く無いということが分った。基本的に一部屋であれば何人でもいいよと。

(2022年8月)もスペインから二組、来ていて、ドイツからも二組来ているんです。緊縛の部屋の人は1人パートナー・旦那さんを連れて来て。月曜日(8月22日)に二人になりました。さっき廊下ですれ違った女性作家も昨日パートナーが来て。もう1人ドイツの人もパートナーを連れて来ています。で、今はめちゃくちゃ居ます(笑)

さっき廊下ですれ違ったスペインの女性のパートナーはドイツでAIの研究を滅茶苦茶している研究者らしくって、まだ話してはいないんですけれど、話ししたら楽しそうだと。
ドイツ人のパートナーはOECD、国際環境基金のディザスター(災害)のプロらしく、今回JICA(国際協力機構)と日本政府と何かコンサルティングして来るわ!という感じで言ってます。

アーティスト・イン・レジデンスのはずなんですけど、パートナーは別の専門性を持っていたりするので、毎回毎回パートナーの方とも新しい出会いが楽しいです。ディザスターの専門家は来週、パラダイスエアー松戸についての緊急時における対策のワークショップしようかと言ってくれている・・・・楽しみだなーと。そんな感じです。

パラダイスエアーは防音が効いているので音楽家もいけますよ。



おみくじを枝に結んだような形状の陶芸作品が天井から吊るし展示していた



一宿一芸

森:初めの話に戻りますと、水戸と江戸をつなぐ、水戸街道の最初の宿場町で、江戸を守る最後の地だったので、江戸川に橋がなく、矢切の渡しが有名だったりします。基本は渡し舟で渡る。台風があると渡れなくなるので松戸に長逗留することが多かったらしく、今も松戸神社に宿賃などを払えなかった俳人とか詩人の宿代のかわりに絵とか句とか、それは昔の家にも残っているんです。それがとてもいいなーと思って一宿一芸というコンセプトをつくりました。
パラダイスエアーは建物はあるので、うまく回す仕組みとして、「宿は無料で泊まれるかわりに何かしてね・・・」みたいなコンセプト。これは全国を見るといろいろな所に残っていまして、宿代のかわりに何かしていく・・・こういう話しは聞きます。それがパラダイスエアーにもいいなーと思い使わせてもらっています。

花田:実際に皆さんは作品を残していくんですか?

:コンセプトとしてはそうなんです。けれども、例えば彫刻作品とか、ここに飾ってある作品、それはパチンコをテーマにしいます。残されると捨てるのに困る、責任が生じる。ですから基本、作品は残さないです。ただアーティステックの延長、大元のコンセプトとして「一宿一芸」。

花田:作品を残されていくと貯蔵したり展示したりする義務を負ってしまうんですね。

:そうなんです。難しい。

花田:ゴミにするわけにいかないですよね。
森:そうなんです。場所の面積も限られていますので、「基本、作品は置いていかないでね」という感じです。だが勝手に置いて行く人はいる。これ(鏡に描いている作品を指して)間違って拭いてしまうと消えてしまうんです。それもしょうがないよねと。ここにあるドローイングとかも勝手に描いています。最初から作品は残していかないでね・・・それが基本のスタンスで、それで運営しています。

硝子面に描かれ作品は多数あり、その一例
対等な発言をするための資金源メンバーについて

森:今部屋は、4,5階の16部屋をお借りしています。単純にアーテストレジデンスだけにしたらいいよという部屋が上にある4室と・・運営というか、補助金とか松戸市さんとか年度単位でしたから補助金を決められない問題がありまして、途中で切れてしまってもしょうがないので、基本的には3部屋だけど・・でいって。その他を会計の人とか、いろんな入居者にちょっと安いけどお貸して、そこでの家賃収入を得て、最低限の運営資金を得ている。そういう形式にしています。
そもそもレジデンスという事業自体が集客を目的にしているわけではないので、松戸に滞在して国に帰ってかつベネチアビエンナーレとかに選ばれて、そこのインタビューとかで、パラダイスエアーとかあったよね〜・・・・みたいな、あそこは最高だったと言ってくれる、20年後ぐらいに循環するような仕組みだと思っています。数年でこのパラダイスエアーが終ってしまっても、評価軸としては違って、 市とかにもうちょっと商業寄りにしたらいいんじゃないですか?と言われたときに「NO」と言われるようにお金、自立スタイル、最低限の運営費を持っていいて、対等に議論が出来るようにしています。実行財源をとっています。

花田:実行財源は?

(メンバーすべて副業で運営)

家賃収入です。それとパラダイスエアーは美術館などのカタログとか作ったりします。パラダイスエアーとして請負って作る、そのようなものもあります。
それから特徴的なのは、(メンバーの集合写真を示す)このような感じです、メンバー全員です。全員が兼業ですここパラダイスエアーでは副業でやっています。僕は建築ですけれど、他は会計事務所のメンバーも、通訳、翻訳家、写真家、アーティストとか、みんな専門性は持って、各人、本業がある人がパラダイスエアーに来います。

佐藤:メンバーはどのようにして集めたんでしょうか?

森:徐々に、いろんな現場に行って、面白そうな人を探す。
佐藤:それを森さん自身が行っているんですか?
森:最初の頃はそうです。
佐藤:現在、何人いるんでしょうか?
:分らないです、どこまでをメンバーと言うのか、それがあるんです。一杯います。この写真に写っていない人、もっといますね。こないだ新しく2人入って。その二人は初めて公募してみました。
佐藤:10人前後ですかね?
森:もっと多い。
パンフレットに表記されている当初のメンバー

■ メンバーの働き方と予算

佐藤:メンバーのリーダー有無、あるいは全員平等の合議制で決めて実施していくんでしょうか?
:そうですね。基本、週一は定例会議をしているんです。他は自由にしています。僕は年俸制で週2日働く。人によって、その年の忙しさ具合によって働きます。私は週3日とか、週1日の人が居る感じです。働きかたは年の最初に決めます。その理由は文化事業は収入無いので、基本は文化庁の助成金はもらっているんです。予算が成立したら年間のトータルの予算が決まり、その範囲で働こうという感じにしています。
花田:組織はNPOですか?
森:一般社団法人です。

佐藤:意見がバラバラの場合、一つの事を実施するためには誰か決めなければいけませんが、どのように決めていくんでしょうか?
森:そんなにバラバラにはならないですね何かをやるというんですけれど、無理せず、無理はしない。確実に予算と時間も限られているので、出来ることしか実施しないし、今日のオープンスタジオもスタッフが全員来るわけではなくって、今日、空いている人が来る。そういうかたちです。

佐藤:そういう働き手の自由を守るコンセンサスというんでしょうか、どこで培われてきているでしょうか?
森:それは様々な、パラダイスエアーをやる前の自治会の方たちとの形式的な週一回のミーティングとか、本当によくないと思っていまして。

佐藤:メンバーの絵を見ていますと、年頃が似ている?んですが。
森:そうですね、30代。こないだは19才の子がいたりします。
佐藤:19才から30才中頃までがメンバーだと。


交流の中の情報から判断し決める 

森:建築家もそうですが、基本はクライアントが決まってしまうと。けれど週一回、パラダイス・エアーに来ると世界中からいろいろなアーティストが来ていて、「今バスク地方はそんな感じになっているんだ」とか、ディザスター専門家に会ってヒントとかもあるし、他のメンバーも現場でいろいろやっていたりする。それぞれで話ししたりしています。
新型コロナの最初の時も、パラダイスエアーをどうするか?という・・・・そのときに京都市で仕事している者は「京都市はこんな感じ」とか「横浜はこんな感じ」とか「池袋はこんな感じで認めているよ」と、各人それぞれが中に居るから、それらをシェアして「パラダイスエアー的な事業の場合はこれぐらいにしておこう」とか。
逆に僕らはプライベートだから、他の自治体が選べない選択肢、もうちょっと柔軟な答えをしていく。その方が他の団体が参考にし易い。文化行政の幅を広げた方がいい、そういう事例を可視化できる。

花田:理事会はどのようにされていますか?

森:撲ともう2人、一応、代表理事ですけれども理事会も特にないです


■ 再びメンバーのこと

佐藤:定例会の話に戻しますね。アーティストが来日しその後交流会というか懇親会もおこなうんでしょうか?
森:基本、火曜日に全部まとめて実施しちゃってます。
佐藤:自治会の人に限らず、町の人も参加したりするんでしょうか?

森:そこは基本メンバーだけでやっています。仕事で忙しくって呑み会が無いこともあります。
花田:各メンバーの本職は?
森:写真家とか、彼女はアート関係の通訳・翻訳家もしていたりします。今アート・トランスレーター・コレクティブという彼女も会社を作っています。こちらの会計の方も、カウントルームという下の部屋を借りています。そこで、アートナイトとかフェスティバル東京とか、日本全国の文化関係のイベントの、アートフロントギャラリーの会計もやっていたりします。PR関係者舞台の制作者映像作家は写真家として、パートに係わるそれぞれの専門の仕事を請ける。

花田:よくそういう専門家たちが自然に集まってきましたね。

現場で出会っていく。
佐藤:森さんの人徳、吸引力でしょう。
:そうですね、何か、この二人もそれぞれが会社になっているんです。「アート関係の通訳翻訳のコレクティブ・・・・作りたいなー」と聞いて、白羽の矢をたてる、みたいな。「一緒にやろう」みたいな。

佐藤:基本はそれぞれ社会の中で自立し働いている。そのうえでパラダイスエアーの支援も面白いから参加していると。パラダイスエアーの仕事がメインになるかもしれないし、それぞれの仕事に戻るかもしれない。

:あと、パラダイスエアーに関わると1年間だけの定期収入にはなるので。最悪、その人がめちゃ暇という時は、その人が来て働いたらいい他の人のお金を回すこともできたりします。
佐藤:1年ごとにメンバーは変わっていくということですか?
:そうですね。例えば、彼女は今、台湾に居て、台湾から広報のバックアップを週一、してらっしゃる。似たような感じで働き方が変わって。フリーランスの方も、それぞれ会社を持っている方もいます。

佐藤:中村さんも編集者として参加されてはいかがですか?
:編集系の人がいませんから・・・いいですね。


 ショートステイ、ロングステイ 運営財源 

森:アーテストの滞在にはショートステイロングステイがあります。ショートステイが一宿一芸の仕組みで運営しています。基本は3週間で金銭はまったく支払いません。場所だけ貸してあげて、あとは好きにしてもらう。
ロングステイは3ヶ月で、こちらはフルカバーと言っている渡航費制作費を出してあげます

花田:渡航費も出してあげるの?!

:出してあげます。最初は1週間、一宿一芸だし、そのスタイルでやろうと思ったんですけれど、パラダイスエアーは何も知られていない。最初の一年はアーティストが集まらなくって。文化庁のアーテストインレジデンスへの助成があって「やもうえず、申請を出すか」と。提出して渡航費など出すから来てねと。
webサイトでカタログを一杯作りまして、広報の機会をつくろうと。助成金が無くっても回るような仕組みでやろうかなというので、最初やってみたら、それを切っ掛けに来てくれる人が居たりして。それはそれで悪いことではない。
そもそもショートステイの仕組みだけだと、僕らは完璧なボランタリーなので「それって結局は続かないよ」と。文化庁の予算なので年度ごとではあるんですけど、最低限ちゃんとお金を回して。そうすると僕が辞めても次の人が続けられるなーと。そういう気がしたので、今は幾つか補助金をいただいて運営しています。

佐藤:寄付金はないんでしょうか?

森:寄付も受け付けております。5000円ぐらいの仕組みでやっているんですけど、広報がうまく行ってない
花田:あとで財源の話は出てきますか?
森:でてきません。基本は1/3ぐらいずつで、市と国と自己財源です
花田:助成金が2/3なんですね。
森:そうですね、自己財源も1/3です。

花田:自己財源というのは個人の寄付からですか?
森:はい
佐藤:それはショートステイに関して?全体?
森:全体です。
花田:NPOじゃないんだ。

:そうです。結局持続のためにと言いますか、年度をまたいでも当然アーティスト決めなきゃいけないので、自己財源が無いときは3月に止めるか?やるか、それを決めておかなきゃいけない。毎年始まる、だから決められないんですけれど。
そこら辺は僕らも諦めていまして、多少自己財源があるから来年までは続けられるねと。その前提で決めちゃったり。最悪助成金が無くってもショートステイの仕組みであれば場所とプログラムがあれば回るので、助成金が無くっても運営できる。助成金があったら、あったでもっとアーテストに還元できるし。


花田:私もジャーナリズムNGO「Tansa・タンサ」のアドバイザーをやっています。財源構造が全然違うのね、パラダイスエアーは国とか市の助成金、それが2/3あるわけですね。
森:そうですね。

佐藤:助成の金額は公表できますか? 
森:全部で、自己資金もいれて30、000万円ぐらいですね。
花田:年間30、000万円。私がアドバイザーしているNPOと同じぐらいの規模ですね。そこは公的助成金はなくって、寄付金と財団助成金だけです。

森:本当は寄付金とかでいいんじゃないかなと最近は思います。
花田:こちらはジャーナリズムだから国とか自治体から補助金をもらうわけにはいかないし、相手も出さないでしょう。だってウォッチドックするわけだから、公的機関からお金をもらうわけにはいかない。アートとジャーナリズムはそこが違うかもしれない。

佐藤:千葉県からの助成金はどうなっているんでしょうか?
森:千葉県はぜんぜん無いです。東京が頑張っているから、埼玉はちょっと、茨城県も無いし、千葉県はまったくといえるほど文化に対する助成保護がない。県立美術館とかも酷くって年間2000万円ぐらいしか出さない。
佐藤:それじゃ学芸員も生きていけないですね!
花田:千葉県、そういう面に貧困ですよね。

補助金意図と制作物で、批判がおきたり、もめないのか

森:横浜などは桁が違う感じでやっています。パラダイスエアーは今まで400組ぐらい海外から来ています。国内での循環ですけれど、世界との循環も含めて。その点文化庁からもらっているのは、文化庁のお金をもらって世界と交流していると言えるし、助成金によらず直接お金のやりとりがあってもいいかなと。ただ滞在費をもらうと面倒臭い!違う関係性が生まれてしまいますので、そこは全くお金はもらってないので。

花田:三ヶ月のロングステイも滞在費はもらわないんでしょうか?
森:それはパラダイスエアーの特徴というよりはそもそもアーテスト・イン・レジデンスってそういう形でやっていて、展示してもらうためにとか、講演をしてもらうために来るとか。

花田:例えば、1人ドイツから3ヶ月滞在という条件でしょう。渡航費も出すでしょう。滞在費も出す、1人予算として幾らで見積もっているんですか?
森:だいたい1人50〜60万円ですね。
花田:渡航費含めてですか。
森:潤沢なじゃなくって素直に渡航費は最初から言います「出すけど、製作費はこれぐらいで、日当はこれぐらいで払います」と。プラス、コーディネーターとか場所代とか見えてない予算はもちろんあるんです。

佐藤:制作された作品が社会問題になりません?津田大介さんが総監督された「あいちトリエンナーレ」のように社会問題に発展したりする、社会性を持ってしまい問題が起きることはなかったでしようか?自治会から批判されちゃう、そういうことも含めて、問題が起きませんでしたか?
文化庁からの補助金で制作しているのに「よろしくない」と後で言われてしまう・・とか、そういう問題も含めてです。

森:特になかったです
佐藤:そういう注意喚起はされていないのでしょう?アーティストの自由な意思にまかせ表現活動してもらっているんでしょう?

森:そうですね。
佐藤:日本に対する、あるいは政治批判をもつ作品を制作しませんか?

森:最近の国際芸術祭もそうですが展示をすること自体じゃなくって、それを言われた時にどういうふうなコンセンサスをメンバー全体で採っていて、どのように応えるか?台湾の美術館のチームの人たちと話したんです。当然、作品には批判性があるので、それも起こり得るんです。批判や苦情が来たときにどのように返すか・・・とかを事前にちゃんと全部設計しておく、ことが必要で。

佐藤:批判や苦情が起ることを前提にして対応策と方法を持っているんだと。
花田:リスク管理をしていると。
森:駄目だよという話しではなくって、そう言われたらこうするとか、こう言われるけどどうする、というのはアーテストと話し合っています
花田:そうですよね。
森:あまり起きない。

佐藤:逞しいです、次お願いします。 










パンフレットより

テーマを決めて募集する 倍率600倍その審査方法

:グラフィックとしては目の錯覚の作品で線は同じ長さです、ショートステイとロングステイどちらも正しいです。その心は後で説明します。
例えば、基本的に毎年テーマを決めてアーテストの募集をして、応募があります。テーマを決めたのは何故か?と言いますとモノ(作品)を置いていってほしくないと一緒なんです。最初の年は運営まだゼロでしたし、コーデネートもどれぐらいできるのか分らないし、設備が整っていないので彫刻家が来られた時に困るなと思い、最初の年のテーマはヒアー・hear、聞く方のヒアー。そうすると音楽家か、リサーチャーか、モノ作らない系の人が来てくれるんじゃないかなーと。邪(よこしま)な理由からテーマを立ててやってみたら、その流れで毎年、聞くだけじゃなくって、もうちょっと場所性ほしかったなーというので、ここという意味のhere、この街で毎年テーマを変えていて。そうすると応募してくれる人とレスポンスが成り立つというか、テーマに応じて全然違う人、講演を聞くだけの人とか来て。

 制作しに滞在しているアーテストが入ってくる 

どうぞ、

佐藤:ここにあるテーブルを使って作品を制作されていんですね?



話合っている同じ部屋で制作するアーティスト。既存の内装はあるが八戸市美術館にあるジャイアントルームと同じ空間構成になっている

森:
テーマを決めてやっていて、今年はだいたい600件ぐらい応募がありました。

花田:600件の応募から1人採用するんですか?!
森:1人とか2人とかケースバイケースです。
花田:凄い競争倍率ですね、1/600。
:だいたい2人ぐらいかな。審査のプロセスは一次審査で30組ぐらいまで、頑張ってメンバーで全部読んで選んでいます。

佐藤:パラダイスエアーで募集している情報をアーテストはどのようにして知るっているんですか

6組までえらんで、決るのは松戸の人が選ぶ

森:基本は口こみ、レジデンスの公募サイトみたいなのがあって、これが公募の資料です。死んでから天才と分るのでは困るから、一応すごい資料を全部読んでます。それで一次審査して30組までは選び、二次審査でもうすこしアートの専門家に入ってもらって、ちゃんと選んで6組ぐらいまで絞ります

今お見せしている資料は、6組のそれぞれのプレゼン集です。6組に選ばれたら最後は6/600なので全員おもしろくって、方向性が違うだけなんです。僕らは誰がいいとかは無い、面白いアーティストが来たらいい。だから町の人とか、パチンコ屋さんのオーナーとか市の人とか、みんなで「誰にしますか?」という議論をする。

佐藤:最終審査には専門家は入ってないんですか?
:専門かも入ってサポートしますけれど。それだけではなくって、で何をして欲しいか。そういう問題なので。
佐藤:自治会・町の人とかパチンコ屋さん市役所の人が集って審査する、専門家はサポートするだけ、そこが面白いですね。

中村:町づくりの人たちは?

森:
自治会の人たちが審査に参加しまし。要は最初の防犯とか防災とか、松戸の町を考える時に、それこそお金の問題なんですけれど、テーマでしか地元の人たち考えられない。本当は全然違うところで考えるべきことが無限に有るはずなんですけれど、それがあまり分らないから、600件というのは基本松戸のことをリーサーチしてパラダイスエアーことを感知して、それぞれの人が専門性を持って、自分なら松戸で何を出来るか?というプランを全員、提出してきている。ですから、600通りの松戸で出来る

佐藤:
松戸市民にとっては大儲けですね(笑)

:6/600だから厳選された人たちから選ぶと、言われてみればそうしてもいいかもねー。別にお金がもらえるとか、福祉に役立つとか、そういう話しではないですけれど。確かにそれも福祉だよねとか。そういう議論が出来る。

佐藤:審査の開催を重ねるごとに町の人たちも理解も深まり、多様な議論ができるように変わってきていると。アーティストやパラダイスエアーのメンバーなどとの交流効果が現れているんだね。

森:滅茶苦茶、楽しいです
佐藤:2013年から始めているから10年目なんですね、濃厚な交流でも10年続けると、このようなるんだと。町の人々にも理解されている、審査会はパラダイスエアーが主宰しているでしょうがメインの審査員が町の人々や市役所の人たち、ビルの所有者というあたりが大変いいですね。
森:そうです、で審査は公開でやったりします。地元の人たちも審査会に来ています。
佐藤:アーテスト本人たちは来ないで書類審査だけなんでしょう?

森:そうです。ただ本人確認、一瞬顔を見ると雰囲気が分るので。
佐藤:そうか、顔写真が要るんだ。
森:顔写真とビデオレターを最後の人には言ってもらっています。イカツく見えても話し出すと好い奴だと、あるので一言。

佐藤:最後の6人に対してはZOOMは活用していないですか?

:できるんですけれど、ビデオレターでいいかなと思っています。ZOOMの前からビデオレターシステムを入れているので。気楽にビデオレター作れるので。

佐藤:最後の決めは松戸・町の人たちの場みんなで、ビデオレターを見ながら人間性を動物的感で決めると。面白いですね。町の人たちの動物性を活用するんだと、いいですね。


応募者の偏り

森:毎年審査会をやっていると、こちらの世界地図の方ですが、この年はベルリンに居る、ロンドンに居るのが多い、その問題が一つあります。年によっては、ベルギー参加のアーティストが滅茶苦茶多くって、それはベルギーが文化関係に助成金を2年間ぐらい滅茶苦茶いいのを出していて、アーティストの皆、ベルギーに移動している状態。それが応募を見て分かったり(笑)
最初は分らなかったけど、インドとかチェコのアーテストも、悪い意味でヨーロピアのあとを継いできたりとか、年度によって世界のアートが把握できて「今年はアメリカは東海岸が噴いているな」とか。そういう状況を把握できるいい機会でもあります。

逆にそこで漏れてしまう地方とかローカルの面白さとか、専門性も現代アートじゃなくって、例えばピエロとか、ジュエリー・デザイナーとか。三ヶ月居てもいいなーとか。そもそも何をやるか分らないけど、来たら絶対おもしろそうな人たちが一杯います。
「アフリカから来たいんだけど話し聞きたい」とか。個人的にエストニアの話聞きたいとか、エストニアから応募して来たら、向こうから勝手に来てくれるので。自分が興味ある国とか、テーマの人たち。多様性のためにショートステイが今はうまく機能しています。面白さでいうとショートステイとロングどっちも楽しい。

その他に、受け入れてからの仕組みとしてラーンノットとルックバックがあります。ラーンは八戸市美術館でもやっています。アーテストは来たはいいけど、そこからどうやって町と繋がって行くのか?その姿勢を学び合いと言いますか、アーティストが偉いでもなく地元の人が偉いわけでもない、そういう態度をシェアする。具体的には、全てのプログラムがラーニングになっているんです。

ラーニング・ノット・ルックバック

ラーン自体はパラダイスエアーで2013年に韓国から来たアーティストから「韓国はラーニングプログラムが盛んだ」という話を聞いて「そんなのあるんだ」ということで、そこから世界中から来たアーティストにラーニングのことを聞き出して。今、イギリスはこんな感じでラーニング考えている、みたいなことを徐々に徐々に聞いてきて、八戸市美術館に繋がっています。

もう一つはノット(節・結び目)いうプログラムです。これは先ほども言いましたが400組ぐらい世界中のアーティストが来ていて、せっかくなら松戸の人たちが見ていく仕組みを作りたいなーと思い、最初はクロスというプログラムを始めました。
プログラムにするのは滅茶苦茶使われていて、最近はノットという呼び名にしています。ノットと言ってもこんな感じなんです、一筋縄ではいかない。送る先によって状況が違うので、毎回毎回こねくり回して、アーティストに適した結びかたを考えて実施しています。

これは新型コロナの時ですけれど、今も特徴があるのがインドのバンガローブと、リバプールのメタという、あとロシアオストークがやっています。モスクワの南の方にある。
あとはイスラエルとタンザニアと、ネットワークを組んで交流プログラムを実施しています

もう一つはルックバックというので、これが先ほど言いました、ロングステイの応募者の実績の図です。今年は600件です、ここら辺からそうですが600件の応募で審査にだいたい2ケ月ぐらい掛かるんです(笑)

花田:たいへんだ!

:このグラフの矢印で推移するとドンドン増えていく(笑)増えないように、応募期間は短くしたり、600件が限度だなと思っています。なるべくそこから増えないような操作を毎回しています。二段階にして、少なかったら公募する。
そうなってくると事業評価的には見えないというのもありますし、累積でこれが応募してくれた人たちの累計なんです。「来たいよ」と思ってくれてたけど、まだ松戸に来れてない人がいたり。
それから、短い期間いたけどまた来たい!日本の仕組みだとなるべく新しい人来た方がいいよねというのが今までの常識だったので、それを変えた方がいいなと思ってルックバックという呼び名を作って、一回来た人でも帰ってきていいよと。応募してくれた人たちももう一回応募してみようと。

花田:実際の滞在者数ですか?
:そうですね。
花田:ブルー513人は?
:ロングステイの応募者数です。これは分かり易いのです。
花田:というと半分のアーティストが滞在で来ている?
:ロングステイからは毎年一組、それと直接的につながってないんですけど、341と3266。だいたい1/10ぐらいは滞在している。対文化庁用のメッセージにあるように、どんどん人数増やせ!とか、基本はそういう指標しか今まで持っていなくって。それだと立ち上げ期はいいんですけれど、一定段階まで来ると、そういう事では評価できなくなっちゃう。それをどう変えていくのかを踏まえてプレゼンテーションします。そんな感じでいろんなアーテストが滞在しています。

例えばこの人は南米から来たアーティストなんです。説明しないと分らないので、基本、アーティストが来たらプレゼンテーションを全員にしています。パラダイスエアーはこんな感じですという。じゃー好きにしなさいと。その後に町中ツアーをして、こんな事に使えるよとか、説明します

松戸の街はオーストラリアの都市と姉妹都市でコアラのマンホールがあります。それを見て大変驚いて、可愛いから覗いているのかなと思ったら、私の街だったらこのマンホールすぐ持ち去られる・・・そういう視点かー??と。確かにな・・・みたいな。そういう笑い話みたいなのが毎回アーティストが来ると全然違う視点で見てくれます。
このアーティストはスペインから来た人で、普段はスカールとか髑髏とかを描いていて「ちょっと壁画で怖いの嫌だな」と言ったら、この絵は何だか分かりますか?

佐藤:何が表現されているのか分らないですね。
:ラーメンです
 会場笑
森:松戸はラーメンタウンなんです。彼はラーメンが好きで、僕も最初は分らなかったんですが、ラーメンって言われるとそんな感じです。そういうのも面白いなーと。
来る人がバラバラなので、イベントをやるたびに客層が全く違っています。新住民の人も来て「音楽ライブに興味があって来たよ」という人も居れば、顔面白塗りとかパフォーマンスしたい人も来る。毎回客層が違ったりします。そういうのが好い。
この絵はコスプレに関するときのものです。そこで新住民と東京からもけっこう1/3ぐらい来て地元の人もいています。毎回新しい住民はだいたい客層が違う。
制作しているうちに、自然にコミュニケーションが生まれたりしています。彼は今は、サンフランシスコのアイビョというデザイン会社にいます。エースブックとか コーラとかアップルとかのコンサルティングをしている会社で、デザインを最初にやった会社なんです。元々プロダクト デザイナーです。
彼はデザインでは世界は救えないけど、アートだったら世界を変えられる。と言ってきています。2015年ぐらいに環境を変えるための仕組みを作りたいということで、応募してきたり。
そんな事で、なんとなく仕組みは分ったと思いますが、日常なのでそれを伝えなければいけないし、そこは誰も伴走できないのでドキュメンテーションをなるべく頑張っていて、年一回、ロングステイについては映像を作っていくとか、

佐藤:応募を通過して来るアーティストそれぞれ日常が違いますよね。
:当然です
佐藤:全ては追っかけてないんですか

:それは無理です、そういうのがあってメンバーを増やしてきました。他のレジデンスは2人とかで、これ全部を運営するんです、そうすると凄い重みが掛かって、二人で出来ることを10人に分けて皆でするわけでする。だからメンバーが関わってない瞬間も滅茶苦茶ありますし、メンバー同士も全然違うときもある。今しか見れない
  動画映像から音が流れて見ている

彼は特殊なんですけど、スペインから来ているアーティストで、スペインのバスク州がお金を出していることがあって、彼のパートナーが選ばれて来ている。

・・・目の前にスペインからアーティスト家族が入ってきて賑やかになる・・・。

 その02に続く
 
無声映画という過去の形態をどのように現代に持ち込むのか。
懐古ではなく現在(いま)だからこそ出来る複合的なアプローチでの作品創作を目指している。さらには、この活動を通して得たものと一緒に、幅広く映像作品を制作していきたいと構想。松戸で得られる出会いに感謝しこれからの活動に繋がる“何か”を発信を行なう。兎角動画 / ダルマ物語

荘 達也(Syo Tatsuya)
1988年生まれ 2009年日本大学写真学科を卒業後、MVやCMなど商用映像の現場を経てフリーランスに。 自主制作映画は大学時代から友人らと始め、今に至る

その02に続く