2022/9/28 笹岡周平さんに聞く@大阪
作成:佐藤敏宏

笹岡周平さん
ノートによる自己紹介 
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03
作品紹介
■■船場ビスポーク  

笹岡
:船場ビズポークさん。小さいテーラーさんです。最近で一番小さい仕事ですが、要素が詰まっているから、面白かった仕事です。
平面図を100個ぐらい描きまして、店主が一人で切り盛りするお店なので、バーカウンター状にするとか、いろいろな要素を考えられるんです。対話を大事にしている店主だったので、一人で切り盛りしつつお客さんと接客して「時には集まってお茶会をしたい」とか、いろいろな話をおっしゃってまして、それらの要望に対応しました。

途中で折れているキッチンカウンター型ですが、平面計画がすごい大事だったんです。店に入った正面に斜めに。女性の方が店主なんですが、ここに立ちます。対話するためのカウンター、作業もこのカウンターで出来るんです。この形が出るまでに時間が掛かりました。このカウンターを一個入れることで全体が締まり、出来上がった物件です。

それは面白かったです。これが最新ですかね。もういくつかあるんですが、印象に残っている案件はこれです。カーテンが、ストックとか、着替る場所が要るなどいろいろ要るんだけど、平面図で説明したほうが面白いかもしれません。右の絵のように一筆書きの平面です。この布をグリーっと閉めた、フィッテングなんです。一つの生地を裏表で色を変えていて、こちらに回して、カーテンを引いていくと円になって着替えることができます。

佐藤:一枚の布で仕切るけど、裏表色違いの生地、リバーシブルになっている。

笹岡:裏表色違いのカーテンを開けたら一部屋で広くなるんです。このフィッテングが無い状態で見える。このアイデアを考えました。よくできたなと思い・・いい仕事だなと(微笑)






















■■ 城崎温泉 錦水旅館

笹岡:次が城崎温泉。絵本作家さんとコラボした案件です。本館と別館があるんですけれど、本館の2階フロアーだけでした。以前は3階の改装をしました。1階がロビーなので、子供が飛び跳ねても五月蠅くないのは2階しかないと。でファミリー寄りのお部屋を造りたいと。
子供が遊べる、回遊動線をいっぱい造っていて、部屋の奥に階段状のオブジェがあって、ベンチになっている。横からトンネルになっていて、這って隣の部屋にいけるんです。同時にこの洞窟の中に城崎温泉の要素が描いてあります。柳の河岸の木であるとか、色もそこから抽出してているんです。苔の色や石の色とか。蟹さんがいたり。小さいお部屋の障子みたいなものを開けると、正面に牛が出て来るとか。そういう仕掛けをしています。
照明器具も普通の天井シーリングじゃなくって、こうのとり(鸛)が描かれていて、見上げると鳥の巣と玉子のカタチになっている。対話しながら「こんなのが面白いじゃないですか・・」と。これは絵本作家さんが考えてくれたものを散りばめて、入口の扉の柄になっていたりとか。
これは把手なんです、ギミックといえばギミックなんですが、奇をてらいすぎていない、微笑ましいぐらいのもの。あとはダウンライトの枠も、下駄の形で型抜きされていて、歩いているみたいな装飾があったりします。
他の部屋も4部屋あるんですが、そこまではお金をかけることができなかったので、子供向けも一般的なお部屋になっています。

城崎温泉さんとはずっとお付き合いがあって、一番最初は一般的な改装のご依頼だったんです。視察に行ったときに観ましたら、バブルの時に建てられたRCのものでした。これを改修しても面白くないなと思ったので、お金ももったいないから、インバウンドでいろんな外国の方も一杯きているときだったので、「部屋を分割して二人一人のドミトリーにして、和風じゃなくって、部屋を増やして売ったらどうか」という提案もしました。「それは面白い」と言ってもらいまして「ビジネスの観点からも収益はこの方が上がりますよ」と言ったので、お付き合いが始まり、今もお仕事をいただけています。 












■■ 函館NIPPONIA 

笹岡:これは函館のNIPPONIAという、港町にあるホテルなんです。レンガ倉庫の改修です。外壁にモルタルを塗ってあったので、レンガ倉庫じゃなかったんです。コツコツコツコツ、モルタルを取り除いてもらいました。だから少しグレーがかっているんです、モルタルが残ってるんです。こちら側は、赤レンガ倉庫街で華やかなんです。この倉庫は埋もれていたものを見つけてきて、復活させるということで中を改装していたんです。

佐藤:ずいぶんゆったりして広い部屋ですね。
笹岡:広いです。何をしているかと言うと、これも平面図を描いた方が早いな。赤レンガ倉庫があって、客室が木造で、レンガ造は用途変更しています。既存不適格で構造は現在の法律に合わせなくってよかったんです。とは言っても地震が来ると怖いので、目地充填工法で補強しています。それでも怖いから、入れ子状にもう一つ木造を建てて、もし壊れても、大丈夫な構造にしています。枠回りなどの部分の奥行が深いのはそういうことなんで。窓辺の奥行が深いんです。
これもお風呂に窓があって、ここの煉瓦が見えています。写真だと奥行の表現ができてませんけど、二重構造になっているんです。で外にも照明があって、煉瓦を照らしています。そういう面白さもできました。入れ子もおもしろいなと。
ここは共有部で廊下と、いわゆる共用部で、レストランです。階段があって2階へ上る。これが渡り廊下です。

佐藤:客室は一部屋ですか。
笹岡:8部屋ですね。
佐藤:内装は函館感がさほど出さず、倉庫の形状や材質を活かし、かつお洒落にできてますね。人気ありそうですね。

笹岡:めちゃ流行ってます。面白いし広いし。
佐藤:二重外壁で外煉瓦だから遮音も効いていそうだ。二重に構成は面白い、照明はイカ釣り船みたいで、既存の煉瓦壁の使いもいい感じですね。

笹岡:はい。函館なので温熱環境よくしてます。
佐藤:通年営業なんですか。
笹岡:そうです。









写真撮影 太田拓実さん





■■ONthe UMEDA

笹岡:オン・ザ・ウメダというコワーキングスペースです。流行っています。大阪の富国生命の向かいです。お客さんは大阪地下街と言って、地下街のディベロッパーをやっている会社です。親会社は大阪メトロです。時代の流れでこういうスペースを造ろうとい議題が持ち上がったときに、僕が利用していたコワーキングスペースのオーナーさんが運営を委託されていて「会員さんたちで店をつくろう」と。
僕はインテリア担当です。ここはコワーキングスペースだから、グラフィックの人もwebサイトのデザイナー写真家の方もいたから、でこれをやろうということで盛り上がり造りました。
もともと銀行だったスペースで天井高いです。薄い不燃ベニヤをほぞでつなぎ合わせたルーバーです。

佐藤:ふわふわ動かないですか?
笹岡:動かないです、上に竜骨が入っています。ちょっと波打ってますよね。真ん中に竜骨を入れていて、それで保持しています。設備とかを覆っています。なるべく物がでてこないように。

佐藤:天井が単調になっていなくって、視線が動くと天井の様が変化するのがいいね。
笹岡:一つにするとデカすぎて単調になるんで、こうように波打たせてはどうかなと。広い空間を造るのは難しいですよね。
佐藤:そうだろうね、思想要るからね。

笹岡:ちょっと奥に中2階があります。ここはお座敷です。天井低いんです。ちゃぶ台で仕事をする場所です。ここにシェアキッチンがあります。ここで語る会があったら使う。これは硝子が入ったボックス席です。リモート会議をやったりできます。

佐藤:ここは銀行だったがコワーキングスペースに変えたんだと。
笹岡:銀行のロビーでした。大きな金庫が地下にもありまして。
佐藤:今は、銀行、あまり店要らなくなったからね。転用して活用すると。
笹岡:オンラインになってきましたし。













写真撮影 太田拓実

■■潮待ちホテル

笹岡:これは、潮待ちホテルといいます。鞆の浦です
佐藤:地元ですね(笑)
笹岡:さっき語り合った瀬戸内海で潮待ちの場所ですね。
佐藤:千石船は帆を張って進んだから風と潮の流れを待つ場所だった、鞆の浦を表す宿だと。これも部屋が広い。

笹岡:舟を造っていた職人さんの家だったかな。内部を改装して、残っていた古い箪笥とかディスプレイに使ったりしています。手前はバーにしているんです。古民家バーですね。お風呂は坪庭に面して造りました。客室は昔のものを残して、壁は間仕切りを造ったりしなければいけないので、一部新しく壁を入れています。
古民家改修はけっこうやっています。100年ぐらい前の建物です。表具の張り替えはしているんですけど建具は元々設えてあったのを使っています。職人さんの家なので、材料の質はそれなりです。
佐藤:露わらして、粗野な雰囲気がいいじゃないですか。

笹岡:
写真整理するのに時間が掛かりますね。
佐藤:先生のようにクロニクルを作って備えておくのがいいかもね。

笹岡:笑)この本、先生から最近いただいたんです。師匠の還暦祝いの幹事やらせてもらったので、OB・OGの住所をお知らせしらせたりして。
佐藤:仕事続けざまにしていると、情報整理が疎かになりやすいよね。溜まってからやるなんて出来ないでしょう。
笹岡:今自分でやりながら、これは無理やな・・・と思ってます(笑)
佐藤:そう思う、作品の情報整理、外注してするといいかもね。同じ雑誌に掲載続けるとそうなるけど。小さいのは載せてくれないでしょうし。非常勤で専属の人に任せて、整理してもらうのがよさそうですね。

笹岡:たしかに、要りますよね。
佐藤:仕事が済んだら、すぐ整理依頼しないと、貯まる一方で、整理できなくなってしまう。自戒だけど。
笹岡:ブックレットつくれるかな。自分のところの書籍だと写真はデータもらえるし、使っても大丈夫ですね。














■ グラン・ギンザ


笹岡:これは7年前ぐらいに設計したグラン・ギンザ。銀座の谷口さんが設計した大きい建物の最上階で、1500uぐらいあります。結婚式をしたり。ビルオーナーは何て言ってたかな、「今時は祭事場はラウンジ空間が無くなってきているので、いろんな人と集まれる、半パブリックみたいなお店がほしい」という要望がありまして、そのリクエストに応えたお店です
ここがエントランスで、銀箔貼った門型フレーム列柱を通過していって。
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佐藤:コスト掛かってますね。
笹岡:そうです、お金かかってますよ。これがレセプションカウンターです、奥の壁の写真は、アーテストの六田さんの作品です。石は関ケ原まで買いにいきました。パンの耳みたいな石の端っこを買ってきて、カウンターにしました。
中は和風の部屋もあって、いわゆる宴会場、お酒呑むところ、レストラン、と空間が6か所ぐらいあるんです。その内の一つです。
照明も自分でデザインして特注してました。襖は絵師の方に描いてもらいました。
佐藤:襖絵を描いてくれる職人さんいるんですね。

笹岡:居ますね、僕はこの方と一緒に仕事することが多くって、椅子の張地も西陣織の特注です。豪勢な感じにデザインしています。銀座ですし、ハイクラスのお客さんが来るので、客単価に合わせるとこういうとこうなります。
ただ僕はギラギラするのは好きじゃないので、ちょっとエレガントさを残すんです。

佐藤:評判いいんじゃない。
笹岡:いいですね。凄く流行っています。なんかしらないけど、ギラギラしたの苦手なんです。
佐藤:お客さんでも、ギラギラしている内装が好きな人もいるから・・。
笹岡:そうした人のニーズもちょっと満たせるぐらいのバランスで。ここういう雰囲気でいけると思います。ここは多目的ホールと呼ばれていますけど、このセッティングだとチャペル利用時ですね。
佐藤:天井の嗜好は変わってますね。
笹岡:これは六角形のモチーフでルーバーです。天井低いんですよ、設備を隠したかったです。この上にエアコンとか入れてます。リズム感が欲しかったんで、六角形モチーフです。 納まり難しかったです。

佐藤:中心が明確になるように設えたと。
笹岡:六角形のこの辺のディテールが上手い(笑)綺麗に納まっているでしょう。
佐藤:笹岡さんが気に入っているんだと。
笹岡:ようできたなと・・思って気に入っているんですよ(笑)造り手がよかった。施工はいつもお付き合いしている所に頼みました。腕はもちろんいいし、人柄が良い人たち。そういう方と一緒に仕事しています。




















■■ 篠山NIPPONIA

笹岡:これは丹波篠山にある分散型ホテルの走りです。法律をかえる切っ掛けになったと聞いています。
佐藤:明日、篠山に行きます、通るかな。
笹岡:この暖簾が掛かった店が10数棟あるので、見かけられるかも。
佐藤:十数棟すべてホテルなんですね。一棟一棟か構えすごいですね。

笹岡:昔の銀行家さんの実家やったかな。この時は、まちづくりというよりは空き家が増えたとか、住めないし大きいし、価値あったものだけど「残したいけどどうやって残す・・・」そういう問題になって。固定資産税払わなければいけない。どうやって運用しようか、それでホテルになっているんです。
で、まちづくり会社を作って、そこがこの建物を借りて、工事費を出して、運営者さんにレンタルする。僕は運営者さん側の設計者なんです。レストランとホテルをやっている経営者さんと僕がついている感じです。こうすると改装して綺麗にして、家賃払って15年とか、20年契約で終わったらこのままお返しするんです。家が綺麗になった状態で返せる。

佐藤:なるほど、笹岡さんは運営会社に一緒に参加されていて、15〜20年経ったら、
笹岡:買い取って戻してもいいし、もしくは売却もできるし。どちらも可能です。今のまま朽ちていくのを見ているよりは何かやった方がいいというプロジェクトです。

佐藤:機能がすでになくなっている古建築を残して継承していく方法は難しいですよね。
笹岡:残せるだけの馬力があるか、それが商売として。

佐藤:その馬力なるものの正体はなんですか。
笹岡:馬力は、事業主さんの戦略だと思います。お客さんは僕にとっては、家主さんでもあるんですが、古建築を残すというのがあるので、それが担保できると思っていまして、残すだけだと、使ってもらわないとお客さん来ないんです。ここを運営している人の戦略というか、どうやってお客さんを呼ぶのか。そこに掛かっていますので、それが巧くないと残せない。そういう感覚です。

佐藤:古建築改修していいからおいでと宣伝してもお客さんは来ないですよね。

笹岡:来ないんですね。こういう面白いことがありますよ、美味しいごはんがありますよとなど、地域ごとに特徴のあることを戦略を練って作れる方が必要なんですよ。地産地消はもちろんやっていて、地元の農家と契約することは勿論として、地元の祭りに参加できるとか、それがコンテンツになっていたりします。
そういう企画運営が上手な人はいいなと思ってます。一緒に古建築を残せるのでやりがいがあります。

佐藤:古建築に滞在して祭りの体験もしてみると。
笹岡:コンテンツ作りが上手な方々が運営してます。これは蔵だったところを部屋にしてます。ただ空間が大きいので寒いんですよ。空調が大変です。

















■■ アカガネ・リゾート

笹岡:古民家改修のレストランです。いわゆる京都の邸宅を改修した仕事なんです。吹き抜けになっています。
初めて、構造補強するジャッキアップして基礎を打つとか、用途変更の確認申請要るとか、既存不適格のなにやかにや対応するとか、法律関係はすごい食らったというか(笑)初めて目の当たりにして、闘った案件なんです。
それまであった、知識を総動員して。

佐藤:確認申請は依頼したんですね
,笹岡:頼んでますけれど、単純に頼めないです。既存不適格だけど内装は現行法に合わせなきゃいけないとか。内装不燃にするんやけど、そしたら既存の格天井を残せんやないか・・と。それをどうやって残すのか。いろいろなテクニックを行政などと話し合って。一方で保健所とか、消防署とかといろいろ打ち合わせて、経験がすごい得られた物件でした。ですから思い出深くって。

佐藤:なるほど。スプリンクラー入れて対応してもいいようだけど、小さすぎるのかな。
笹岡:はい、最近の古民家ホテルはスプリンクラー入れてます。
佐藤:スプリンクラー設置したほうが、対応しやすいよね。
笹岡:入れますね。で程度によるんですよ。安い竿縁天井だったら、残す価値まで無いと思ったら、不燃のボードで、ツキ板で張り替えれば不燃になるんです。見た目で格天井を撤去できない場合はスプリンクラーを入れます。そこで使い分けていますね。

この物件は独立してリーマンショックの後に最初に依頼された大きな仕事です。苦労もしました。

















笹岡さん推し曲
Tatsuro Yamashita - Bomber

■■ 作風無しの作風をあゆむ

笹岡:こうして見るとバラエティーに富んでいる気がします。飲食とホテルが多いです。
佐藤:師匠もいろいろ仕事してますけど、笹岡さんもどうようにいろいろ仕事してますね。
笹岡:師匠はいい意味で、わかりやすい作風はないですね。ぼくも引き継いでいる気はします。
佐藤:作風が無い
笹岡:作風がないのが作風なんです。見ているとお客さんと仕事しているとそうなるのかなと思っています。

佐藤:食も寝るも文化なので、時代の要請に応える敏感に反応し続けて仕事していると、合い過ぎて作風が見えなくなるのではないですか。
笹岡:そうですね。
佐藤:店文化に個性を持ち込むと一時はいい反応あるだろうけど、奇をてらいがちになるので、一時的なもので終わる。そして古くなってしまう。
笹岡:そうですね。
佐藤:個性を出さないで個性無しを維持し続けることが店舗づくりの肝なんでしょうね。
笹岡:そうなんです。
佐藤:変化し続ける時代・社会状況やその時々のお客さんの求める文化に応じて造り続けることが、店舗づくりなどの面白さんなんだと思います。あとで振り返ると、時代を的確に表現している、インテリア文化の流れになってしまうんだと思います。

笹岡:それはありがたいですし、そう思って仕事してます。でも仕事している時はインパクト無いなと思いながらやっています。(笑)
佐藤:そういう対応で仕事するのって難しいんだと思いますが、いかがでしょうか。飽きがこない手法なんでしょう。

笹岡:一方で、強烈な個性をもっている建築家とかデザイナーも知っているわけです。例えば安藤忠雄さんとか、俺はこれだ!みたいな個性。そういう姿勢にどこかで憧れることがあるんです

佐藤:笑 
笹岡:俺と言えばこれだな、と。そういう作風、嬉しいじゃないですか。そういう作風はないんですけど、ああいう個性を持った人といいなと思うけど出来ないなと思います。

佐藤:個性ですか。個性は自分でつくり出すようなものではなくって、自然に滲み出て来てしまうものだと思います。都市ゲリラを演じ、建築家を演じそうなってもセルフ・プロモ的、メディアに扱いとしては利易いんだけど。個性をつくろうとしてメディアのうえで生まれる個性って本質的な個性ではないと思いますが・・・どうでしょうか。メディアとの共犯が個性なのか?違いますよ。継続して仕事をし続けているとその人らしい個性が投影された作品になっていく。それを素直に受け止め磨くことだと思います、作家自身は気付き難いものですよ。
メディア受けした!分るような、個性的であろうとすることなど考える必要はないですよ。今、湧きあがる制作に対する欲望を素直に造りあげればいいだけで。その方が時代を的確に表す個性になっていた、やがてそう感じる日がくるでしょう。

笹岡:いろいろな人から「この作品はワサビぽいね」と言われる時はあります。なんとなく似ているのかなと。

佐藤:そうですよ。それが本来の笹岡さんの個性だと思います。個性づくり無理すると時間が経るごとに自分の首を閉め続けることになるでしょう、そんなの結末は求める個性ではない、そう思います。
作家主義を人工的に演じてしまうのは役者にお任せしておけばいい。近代の主体主義の落とし穴に自ら堕ちていくことになりますよ。目的を目指して自分になっていくという、悪しき近代主義者ですよね。それで上がりがある、そういう姿を追い求めると、結局はもともと達成されてしまった目的に到達するだけですよ。その方が媒体の読者受けするんだろうけど。笹岡さんは生身の人間を相手にしているので、媒体に受けても幸せにならないでしょう。
IA化続ける世でも事件、地震、水害、戦争が起きて、南北格差が明確になり続ける現在にあっては、目的を定めず自分の仕事を積み重ねる、近代の欲望を身に付け嘆きつづける人になっても、時代遅れでしょうね。

笹岡:凄い国ですよね日本って。
佐藤:ぼんやりしていると、米中の代理戦争に巻き込まれちいますね。武器倉庫ばかり造らされるようになってもね(笑)それも人間の文化施設ではあるけど、相手に国の人権を無視し殺し合う愚かさを再度経験するのって馬鹿ですよね。
いままで平和すぎたこともますけどね。不安と共に暮すのが本来の人の暮らしだと思いますけどね。不安を解消せず恐れない、不安とともに生きる覚悟を持っているのが、人だの暮らしだと思います、だから今は、正常な世なんですよ。
新型コロナに抗わず、仕事していると、新型コロナの社会を投影してるデザインが出来ているが気が付かないかもしれないね。笹岡さんの仕事は依頼者の複雑な欲望を消化して造りあげないと、成り立たない仕事だらけですよね。

笹岡さんにとって建築づくりは商売でなく、一方にある公共施設などは社会サービスが目的だから、政治家が空気を読んだりして世の欲望を具現化しようとするけど、変化が遅いのはいなめないし失敗しても誰も責任取らずに借金が残される。笹岡さんの仕事は世の文化や世相を的確に表してしまう、個性的なじゃないと依頼者と共に潰れて消えてしまう、だから時代を的確にとらえようとする、それ自体も面白い文化の一つですよ。

笹岡:なるほど、そういう解釈してもらえるとは。
佐藤:メディア受けして読者に受ける、作られた個性に憧れずに、個性がない俺はカッコいいとも言わずに、仕事を続けていると造った空間に個性が現れてしまいますよ。

笹岡:僕は建築学科を卒業しているので、安藤さんを見て育ってきたので、身体の中にあるんですよ。
佐藤:建築メディアの毒に侵されているのね(笑)、各種媒体も演じる建築家を晒して、商売している輩だからいい、言説はあんがい加減なもんですよ。建築家像が貧しいかった時代の尾てい骨みたいなもの(媒体なんか)だから無くなっていいんですよ。複雑多様で、豊かな社会になってしまっているので、笹岡さんの想い描く建築家像だとウザイだけだと・・。若い人を惑わす毒にしか見えない建築像ですね。

笹岡:なるほど。

佐藤:公共建築系の建築つくる前段でざっくりした計画で始まって、出来ても担当者は責任取らない。叩かれてもチーム役所で肩組んで嵐を追いやってしまう。個人や企業経営の店舗やホテルはそうはいかないですよ。
















映画の背景づくりのように

笹岡:お店を設計すると、見えている範囲は全部手を入れているんですよね。小さいところまで見えるところは全部手を入れている。
佐藤:画家が絵を描くことと一緒ですよね。エンターテインメント系の映画づくりもそうですよね、偶然映像に写り込んでしまう背景は無い。
笹岡:そうですね。映画か!
佐藤:店舗設計者は店の見えるところに全て手を加えている。その態度はエンタメ映画監督に似ている。黒沢明監督の映画をみると、風景全部作って撮る、収穫期でもないのに農作物だろうが、野山の花だろうが、なんでも作り込んでている。麦や稲穂も全部、舞台美術監督たちが植えこむらしいですよ。美術担当者はそうとうの苦労をするそうです。

笹岡:笑 なるほどなるほど。
佐藤:笹岡さんは黒沢明の背景づくりの手法に近いんだと思います。全て手を抜かず作り込む態度だね、でもそれに包まれた客は違和感なく自然に思えてしまう。この店は作ったものだとは気付かせない。その凄腕、作家根性というんでしょうか。
監督=笹岡さんはそれは造ったんだぜとは明言しない。背景は作ったものだと分らせる雑さだど店舗設計者にはなれない。田舎臭い店だろうがエレガントな店だろうが全て造ることが出来る人。

笹岡:空間演出して造ったと分ってしまうと客はしらけますよね。
佐藤:人形劇じゃない生身の人間に演じさせるときは背景と脇役が肝だよね。作りものに見えない、リアリストで徹底する。

笹岡:なるほど、それはいいな。

佐藤:屋敷を燃やすシーンとか、人が熱風で役者が死に損なうほど、徹底してたと聞いてけど。殺人者ぎりぎりまで演出に拘っていたそうです。で今でも迫力ある映像のまま風化しないですよね。
7人の侍の決闘シーンで菊千代役の三船敏郎さんが死んでお尻が泥だらけ、それを黒沢さんの18番である暴風が洗い流して白い肌が露わになる、変態的にリアル。蟻の行列とかも作り出してしまうし、リアルが這い行列つくる自然を演じることにも変態的に拘る。映画のシーンでみると蟻の動きが不自然に見えない(笑)笹岡さんの演出は建築家じゃなくって、映画、黒沢明さん路線に近いのではないですか。

笹岡:それはいいですね。
佐藤:建築設計者は自然の生き物を演出するまで、生物の管理と使い込みはできないでしょう。
笹岡:もつと大きいものを扱わなければいけないからでしょうね。
佐藤:安藤さんのようにコンクリトに手を加えない、動線長くして建築内部で人を動かまわす、そういう単純さで西欧風でも日本風でもどちらの味もする。何もしてない抑制がでている感がいいと。その技が優れているですよ。最初に誰も気付いてない点に気付き身に付けて世界に出ていく。そこが大阪の安藤さんらしい突き抜け方でしょう。それを延々演じ続けると大建築家というわけでしょう。
笹岡イズムの対極に存在してる人です。あれだけ同じことを続けて飽きない、商売になるのは一つの今風な空気ですよね。メディア受けし易い、そういう演じ方も心得ている。

笹岡:不思議。
佐藤:ポスト近代を生きる、現代人らしくない、振る舞い方ですよ。もっとふにゃふにゃと多様に対応変化し続けて生きる者が笹岡主義だと思います。
笹岡:同じこと飽きずに続ける能力って凄いなと思うですけどね。
佐藤:そうかね、人間が脳を使うとすると、違うことするでしょう。でないと社会が変化しない、同じ事を繰り返しつづけて生きる動物の世界ではない。笹岡さんは人間の動物化を目指していないでしょう。

笹岡:面白いです。



佐藤:映画は背景を作り込んでいる、そのことを分らないように作り込むことで自然に江戸時代の人々に見えたりする。建築つくりに関わっていると、役者の動きや台詞より、背景を見てしまう(笑)黒沢さんは役者をしているけど同じ人を使い続けるので、この役者はこういう役も演じられるんだな、目の前のストーリーより、役者そのものに興味が向かってしまいますよね。
舞台づくりの視点でみても面白いですよね。こんなに汚い小屋を作るんだなと、チャンバラ映画なのに、背景なんか観てないよね、観客の多くは。7人の侍だと、汚い恰好してる百姓たちが、百姓は汚かったという共通認識をもとに、衣服も姿も江戸時代に行って見て来たように嘘をつくりだしている。江戸期の百姓は本当に汚かったのか?と俺は思うよ。

笹岡:
大笑いしている

佐藤:客は江戸時代に百姓は汚いぼろきて貧しい小屋に住んでいるという固定観念があって見ることが出来る映画になっている。(笑)本当に居たかのように嘘をつくる。映画が嘘を描いても受け入れられるには、超リアリティーをもってる、あの作り方には興味をもちますよね。最近のキラキラアニメも同様に作り込んで、客を騙してますから大いに受けるんですよ。ファンタジーとリアルの境界を混ぜて分からなくして見ててしまう。

笹岡さんの仕事は安藤さんではなく映画の巨匠、その演出、それに学ぶことで続けていけばいいのではないですかね。
笹岡:面白いです、ありがとうございます。それは凄くいいです。

佐藤:一度つぶれて、親に借金をして再スタートするのもいいですよ、なかなかいいですよ。腕が立つからこれから仕事増えるでしょう。これから70才ぐらいまでは馬力全開で仕事し続けられるでしょう。調子に乗ってやり過ぎないように健康に注意しつつですけれど。

笹岡:そこは現代人なので休みたいので、コントロールして続けます。リーマンショック当時は帯状疱疹出たりとか。
佐藤:精神的ストレスが原因だね、仕事しすぎを身体がおしえてくれたんだ。
笹岡:最近は出なくなりました。

佐藤:それは仕事にし方が身に付いた証でしょうから、よかったですね。こんなところで今回はお仕舞いしましょう。

お互い。ありがとうございました。


2022年9月28日 笹岡周平さんに聴く最後まで読んでいただきありがとうございます

 作成・文責:佐藤敏宏  01  02  03    HOME