21世紀のメディアについて語る 2021年11月4日 20:30から 編集者:中村睦美 社会学者:花田達朗 木こり・ライター:坂巻陽平 01 02 03 04 05 作成:佐藤敏宏 |
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花田:エラボの執筆者には今画面に出ている希羅さんを含めていろいろな人がいますね。ライターの人たちはどういうふうにエラボに集まって来ているのですか? エラボの側がライターをリクルートしてくるのですか、自分からエラボで書きたいと志願してくるのですか、どういうふうにしてライターたちはエラボにコンタクトを取ってくるんですか? 中村:元々は関西学院大学の学生がほとんどでして、柳澤先生が「先生の話すごく面白かったです」という学生たちに声をかけて、じつは政治的な話も興味が有る学生はちゃんといて。コロナ禍の時代に学生生活をおくる中で、いよいよ自分たちはどうやって生きていけばいいんだ?という漠然とした不安を抱えてる学生は多いと思います。私もコロナ禍の大学というのはニュースでしか知らないんですけど。今、大学三年生であれば、まともにキャンパスに通えたのは1年間だけなんすね。せっかく大学に入ったのに、まともに大学に通えない、自分が将来どうなるのか、ということを、私の世代以上に物凄い不安に思っている学生というのが多くって。そういう学生たちを集めて海外で同時に起こっていることを勉強したり、自分たちが思っていることを発信したりするメディアを是非やりましょうというので集まった有志のメンバーです。 少しずつ活動をしていると、興味がありますとエントリーしてくれる方もいらっしゃって。フィーリングが合えば一緒に活動しますということで、メンバーに入って。 |
関西学院大学 HPへ 新型コロナウイルス感染症の世界の状況報告 厚労省HPへ |
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花田:ライターをプールしているわけですね。 中村:そうですね。 花田:今、何人ぐらいいるの。 中村:今は、こういう活動をするとメンバーには成るけど顔出さない人も結構でてくるんです。おそらく20人ぐらいやんわり活動している子が居て。メインで動いてくれる人は5,6人の学生ですかね。 花田:繰り返し書いているの、それとも一回書いて消えていくんですか? 中村:割と繰り返し書いてもらっていますね。何度も書くことによってライターとしての質も上がっていってるなーと感じてますね。 |
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花田:なるほどね。ライターのプールでミーティングとかはあるんですか? 中村:あります。私は学生の子たちの打ち合わせに参加するのはあまりないんですが。学生間で、例えば、最近であれば、美術館に行くということのハードルの高さが凄いあると感じる、アートというものに対してどのように触れていけばいいのか分からないという、トピックを持ち出した子が居て。それこそ、『10+1』でも美術の話は多く出てきたと思います。かつてはハードコアな現代美術を好む人が集うメディアはわかりやすく存在した。そういうものが減ってきた中で今の学生は情報を得るものってほとんどがWEBとかSNSです。そうすると広くいろんなものを知ることができるんですれど、じゃあ美術をどのように観たらいいのか、なかなかそういう文脈に辿り着けない子が多いと思うんです。そういう意味では現代もハードコアな思想誌から学ぶべきものはたくさんありますよね。美術を観るんであればこういう文脈を知っておかなければいけないというバイアスがないと逆に、美術館ってどういうふうに行ったらいいのか分からないなーということに陥ったりする。 花田:なにかマニュアルが欲しいんだね。 中村:知性としてマニュアルはあったほうがいいですよね。柳澤先生のような人たちが若い人はこういうことを考えているのか、と学ぶ一方で先生の専門的な領域をちゃんと教育として還元する。割と一方的に先生側が啓蒙するのではなくって、下からも学んで上からも学ぶというのが、今何とか出来ている状態かなと思っています。 |
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花田:柳澤先生の略歴を今見つけた。執筆者の略歴のところに出ている。1973年ニューヨーク生まれ。 佐藤:46歳、まだ若い先生ですね。 中村:そうですね。 花田:なるほど。『ディスポジション−配置としての世界−哲学、倫理、生態心理学からアート、建築まで、領域横断的に世界を捉える方法の創出に向けて』という本、ずいぶん長い副題の本を出されていますね。 佐藤:古い本ですか? |
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花田:2008年刊行と出ていますよ。それで、記事はエラボの編集室に送られてきた後、編集されるわけですか? 編集しないという方針ですか? 中村:編集はしますね。一応ちゃんと編集者の手が入っているということがこのメディアの売りとしていきたいので。ここはちゃんと編集します。 花田:エラボとして、掲載記事のクオリティーはエラボがいわば担保しますとか、保証しますとかというスタンスを取っているのね。 中村:そうです、我々の編集プロダクションでちゃんとそこは担保していこうと。 花田:そうすると、著作権も編集責任もエラボの側が持っているわけですね。なるほど。アート作品の絵がずいぶん一杯載っているけれど、著作権のことを言われたら大丈夫なの? |
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たとえば柳澤先生の「『チェンソーマン』礼賛」というこの記事、随分アート作品が並んでいますよね。 中村:そうですね、本の書影は商業的な広告として、著作権フリーなので。それはトップページに載せたりしています。それ以外には、ウイキペディアのCCコモンンズの写真とか。そういったものを使っていて。ほかにこのメディアを立ち上げる時にビジュアルイメージを一つ作りたいという話になって、関西の大学を中退してフリーでカメラマンをやっている男の子に協力してもらって写真を撮ったりしました。WEB自体もエンジニア、デザイン兼エンジニアで入ってくれている23才の方がいるんです。その人も大学を2年生ぐらいでやめて、独学でエンジニア兼デザイナーの道に進んだ方で。そのへんはコレクティブな集団と言えるのかなと思っています。 花田:コアメンバーはabout usにある5人ですか? みんなリクルートスーツみたいなのを着て立っているよね。 中村:これはメンバーじゃなくって、メインビジュアルです。写っているのはモデルさんですね。 花田:メンバーかと思った。 中村:メンバーに見えちゃうのか。たしかに見えますね。 花田:真鍋ヨセフさん、真ん中に立っている人かなあーと思いましたけれど。 中村:これはリクルートスーツ着ている設定です。学生は就活しないといけないですよね。今だったら3年生ぐらいで、就活するんですかね。学業よりも時には、就活を優先しないといけない。ある意味、不条理と言えば不条理ですよね。本当は4年掛けて学ぶ、時間を十分に使って学ぶ環境にあるはずの彼らがこういう状態にならざるを得ないという窮状を表した写真をメインビジュアルとして載せています。風刺の写真のつもりなんだな。ある意味、風刺の写真ですね。 花田:そう見えなかった(笑) 中村:一つの風刺ですね。 |
『チェンソーマン』礼賛──天使さえ悪魔である、私たちの世界で 絵:エラボサイトより |
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アニメーション就活狂想曲 | |||
花田:風刺は必要で、言論の重要なファクターだと思うんですけどね。日本で一番欠けているのは風刺ですよ。もう、衰退じゃなくって、絶滅しているよね、日本で風刺は。 中村:私も把握するのが難しい世代かもしれないんです。 花田:風刺ってね、本当はジャーナリズムの中の重要なエレメント。どこの国でも、ジャーナリズムの中に風刺があるんだけれど。 中村:風刺画、第一次世界大戦の風刺がなんかが思いつきます。 花田:カリカチュアも風刺。日本はね、どうしたことか、テレビでも風刺番組とか、新聞なら政治漫画とか、ずいぶん衰退してしまった。漫画も本当は風刺のメディアだったのに、日本の漫画にはほとんど風刺がない。放送では「笑点」とか落語家のやっている番組はある。でも、あれは風刺になってないよ。 とにかく日本の今の文化を破壊しているのは吉本興行だね。 中村:いや、難しいです、確かに吉本興業の弊害というのは底知れないというのはもちろん分かるですけど。(笑)ただ一つ、吉本興業がつくって来た、お笑いが作って来たシニカルな笑いというのは、まだ生きているんじゃないかなーと思うんですね。 花田:シニカルな笑いはあるよ、冷笑はあるのよ。でも、それは風刺じゃない。 中村:日本において風刺は無い、そうかも知れない。 花田:試写会の案内の葉書が来たんだけれど、『テレビで会えない芸人』というドキュメンタリーが来年一月から東京だとポレポレ東中野で上映される。松本ヒロという人。社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」。この「ザ・ニュースペーパー」を一度観たいと思っていたんだけどね、やっている日取りが分からなくって、観る機会がなかった。そしたら、ドキュメンタリー映画ができた。 中村:面白そうですね。 花田:これなんか風刺として本当に珍しい事例ですよね。 |
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ザ・ニュースペーパーin札幌 | |||
花田:この人、テレビから排除されちゃっているわけです。今のテレビは吉本興業の人たちに席巻されていて、ニュース番組の司会にまであの人たちが出ていたりする。 中村:ニュース番組も、大阪は完全にそれでやられましたね。 花田:「お笑い芸人」と言っているんだけれど、非常に狭い。というより独特なモードの笑いの仕方。独特なパターンの笑いで、そこに決定的に欠けているのは風刺なんですよ。 中村:今のお話お聞きして、風刺の定義が全然わかってない気がしました。 花田:吉本興業の笑いって、古典落語の笑い方とも違うよね。吉本興業の笑い方は独特な様式で、冷笑と言ったけれど、まさに冷笑なの。たしかにシニカルではあるわけ。じゃ、「誰を笑っているのか」っていう問題。 笑いの基本的なものの見方は、笑う時に誰を笑うのかということ。笑い方には何通りかあると思う。他人を笑う、自分を笑う、ぜんぜん違う。他人を笑うときにはさらに二通りに分かれる。ですから、笑いにはトータルすると三つある。 一つ目は、他人を笑うんだけれど、自分よりも強い他人を笑う。二つ目は自分より弱い他人を笑う笑い。三つ目は自分を笑う笑い。自分をおかしい存在だと思って笑う。笑いにはこの三通りがあるというのが私の解釈ですけれど。吉本興業の笑いは二つ目の、自分より弱い他人を笑う。 中村:なるほど確かにそうかも知れないですね。 花田:その分類からいくとね、風刺って自分より強い者を笑う。つまり権力を笑うのが風刺なんですよ。ヨーロッパの伝統において。風刺の伝統って非常に長い。15世紀とか16世紀、文学、リテラチャーの一角に登場しますから、長い歴史を持っているんですけれども、その都度スタイルにかなり波はあるにしても、今日まで生きている風刺というものの一つの根本要素は権力を笑うことなんですよ。そういう権力を笑い飛ばす笑いには、自分より弱い者たちへの優しさが隠れているんですね。 中村:日本にまったく欠けてますね。 花田:風刺は日本にほとんどない。 中村:今の話は絶望的ですよね、権力に蹂躙されて国において、権力を笑うという文化が無い、排除されるんですね。 花田:排除されているのか、自分で排除しているのか。 中村:両方かもしれないですね、それが内面化されてるので、そういう笑いを作ろうとする人はなかなか、見えにくい、と思いますし。 |
吉本興業の歴史へ |
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花田:「ザ・ニュースペーパー」は映像では観たことがあるんですよ。それは風刺でしたね。政治家や強い力を持っている者たちを笑い飛ばしている。これは日本じゃ珍しいなーと思ってね。だけど、案の定テレビには出られないわけですよ。 テレビに出ることを許されている「お笑い芸人」というのはみんな吉本興業的な組織の笑い方は弱い者を笑う、蔑んで笑う。冷笑する、その笑い方がテレビで拡散されて、それを一般の人たちを真似しているわけよね。 中村:そうですよね。自分よりも下への笑いだとしても、それはあくまでお笑いという芸能の中で成り立っているものであって、一種のプロレスと同じなのかなーと思っているですけど。そのプロレスをプロレスだと思わず平気でやっちゃう人が世の中にたくさん今、昔からいたんですかね、増えていって。 花田:吉本興業の語り口というのは、子供でも真似しているんですよ。 中村:そうですよね、おっしゃる通りです。その芸能の世界でやってもいいことしてあるものが、現実でやってもいいんだという錯覚しちゃう人はどんどん増えていって。そうなると、何が起こるかと言うと、子供が真似するので止めてくださいと言い出す親たちがすごい増えるんですけど、いやいやと思って。子供が真似したらどうするんですか、というのを芸能をしている本人に言うというのはおかしい話だなーと思っています。子供の教育はあなたたち親がやるんじゃないですか、と思うんですね。不当に芸人がどんどんコンプライアンスを気にしはじめるのが今ですよね。ちょっと話が振れてしまったですけど。別の問題ですね。 花田:別の問題ではあるけれども、一つ重要な問題ではありますよ。だけど、今私が問題にしているのは、その問題ではなくって、言葉の問題。他者に対してどういう言葉を使うのか。その時に今の日本のカルチャーの中でドミナントになりつつあるのは吉本興業的な笑いの言葉だと私は見ていますね。他者との関係の作り方が吉本興業的な笑いの関係の作り方になっていて、それが非常に蔓延しつつある。別に吉本興業の「お笑い芸人」たちをP T A協議会的に追放しろとかなんとか言っているのではなくって、本来吉本興業の「お笑い芸人」たちに考えてもらいたい。 あなた方の笑いってどういうクオリティーの笑いなんですか、世界の芸人をご覧くださいよと。どういう笑いの構造の話芸をしていますか、とね。吉本興業を抹殺するんじゃなくって、お笑いは重要なわけです。重要なんだけれども、日本の現状のメディアで拡散している笑いって非常に偏った独特な笑い。自分より弱い者に対する優しさがない。そのことが日本の言葉に影響を及ぼしている。 SNS言語もそこから影響を受けていますよ。吉本興業的な言葉に見られる、人を罵倒するとか、蔑むとかね、そういうマナーやモードに対して、他者に対してどういう言葉を発信するかというマナーやモードについてよく考えて、もっとクリエイティブなマナーやモードを創り出さないといけないのに、現状では低次元のモードが蔓延している。 言葉の問題なんですよ。それはすなわちカルチャーの問題。それはエラボの問題だよね。 |
THE NEWSPAPER オフィシャルホームページ 絵:THE NEWSPAPER オフィシャルホームページより |
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中村:凄く重要なお話をいただいてます。それは日本においては日本においては昔からこういう状態だったと言えますかね。SNSはもちろん無かった時代。 花田:日本人は昔もっと豊かな表現能力というか、豊かな言葉を持っていたんじゃないかと思いますね。 中村:その昔というのは一体いつなのか。 花田:それはきっとマスメディアが登場する前ですよ。テレビですよ。それが日本の言葉を変えたと言えると思うんです。今も変えている。 佐藤:安倍・菅総理たちは吉本興業にお金を税金を使っていたと思います。 花田:そうですよ。だって安倍元首相は以前の選挙戦の最中に大阪に行って、サプライズを装って吉本興業に。 中村:新喜劇に出てましたね 花田:吉本的ノリを売物にしたでしょう? 吉本興業の重鎮の松本なにがし、彼は安倍氏のサポーターじゃない。本も出している。 佐藤:横山やすし西川きよしコンビの西川清さん参議院議員3期つとめてますから。吉本と政治との繋がりは長い繋がりですよね(1986〜2004年)スポーツ選手・司会者などでも自民党は名を馳せれば選挙に担ぎ出しますから。 |
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安倍総理 吉本新喜劇に登場 | |||
花田:そういうことは坂巻君がちゃんと新聞に書かないといけなかった。 佐藤:笑 坂巻:ちょっと厳しい。松本人志の話は知らなかった。 佐藤:2010年以降、SNSが使われだしてから露骨になってしまいました。家にTVは無いのでお笑い芸人の番組見ててないので分からないです。けれども、明らかにSNSの政治利用は進みました。政治家がSNSを利用するのは当たり前になりました。彼らはプロの方を雇って広報活動をするというのもたくさんあります。うぶなSNS・ユーザーは、政治家や政党プログ、SNS発言のTLを見て、野党的意見を叩いて、自己満足するのは日常的に見ることです。リベラルの人たちはその煽りを喰い投票行動したくなくなると。争点ぼかしをすると投票率は下がりますので、組織が固いと当選者数を増やすことができますので。投票率下げるためにも政党が人を雇って投稿を続けているかもしれませんね。 今回の衆議院選挙の様子をウエブで見て思いましたのは、若い20代の女性が思い思いに発言している姿が目立ったと思います。新宿で壇上に立って訴えている姿も見ましたし、今回の選挙では若い女性の活動が目立ったと思いましたね。25才の今井るるさんと言ったかな、立候補しました、供託金300万円覚悟でしょう。若い女性が発言者となる姿も現れましたし。 中村:岐阜県の立憲民主から出ましたね。 佐藤:既存政党に所属しないで新しい女性の党を立ち上げて当選してまとまらないと、新人が既成政党に入ると、掃除から修行させられちゃうので、新しい政治潮流をつくるのは難しい場に入ることになりますよね。 中村:さきほどの立憲民主の背後にある連合とかもそうなんですけど、労働組合から発した団体というのは元々は、労働者たちが集って賃上げをいうわけなんです。違うのかな、元々の目的と乖離して一つの団体が出来るとどうしてもセクト化するというか。セクト的になってしまうから。 佐藤:日本には職能それぞれが個人として組合をつくっているわけではなく、株式会社の中の組合員だから、御用組合になりますよね。個人が連帯して組合ができていない。 中村:会社の中に組合をつくっても意味が無いですよね。 佐藤:会社の経営陣と会社員の組合がなれ合いになりますよね。私は東京の恵比寿駅傍で20代はサラリーマンでしたが、その時の会社の経営側が積極的に組合を作らせて、社員の弱みに付け込んで圧力掛けつつ、声を封じてました。同業他社の組合長が、よその会社にきて賃上げや労働環境改善を要求することは無かったですよ。今もそうだと思いますね。 中村:会社というコミュニティーから出られていない組合があって。結局そういうのがどんどん大きくなったところで。 佐藤:長い物に、巻かれるのは吉本だけじゃなくて、新聞社員もそうでしょうね。一県に一社で記者クラブを無料提供してもらって、ストレートニュースを流す。情報の流れ落ちる構造は同じだと思います。ここら当たりでタンサの話に移りたいのでが・・・。自立したジャーナリストが生きられない風土が蔓延してます。花田先生は長い間ジャーナリスト教育も、独立したウエブメディアの立ち上げも支援されてきました。 |
絵: 今井るるさんサイトより |
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佐藤:ここらからタンサの話に移ります。タンサと改名したのは最近ですよね? 花田:2021年、今年の3月ですね。 佐藤:では、ここからタンサの話をお願いいたします。 花田:簡単にタンサ(Tansa)の話をしますね。短い歴史の話になっちゃいますけれども、あるニューズルームのショートヒストリー。私は2018年の3月に早稲田大学を定年で退職しました。それまで早稲田で学部や大学院で教えるほかに、ジャーナリズム研究所というのを作っていたんですよ。私が東大から早稲田に移ったのは2006年4月なんですけれど、その翌年の2007年に大学でジャーナリスト養成教育をするため、それをバックアップする研究所としてジャーナリズム教育研究所というのを作りました。その研究所をベースにして、ジャーナリスト養成教育の仕組みを早稲田の中に作り、かつ実際にその教育を実践していくプログラムを作っていきました。「全学共通副専攻ジャーナリズムコース」と言いました。英語で言うと、メジャー(主専攻)、マイナー(副専攻)のマイナーですね。全学共通ということは、全部の学部の学部学生が受講できるということです。 |
花田達朗さん最終講義の様子撮影笹島さん 「公共圏、アンタゴニズム、そしてジャーナリズム」講義録へ |
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そこで当初は毎年500人位、いろんな学部の学部学生にまず入門講義の授業を1セメスターして、その受講生の中から試験と面接をして、20名ぐらいを選抜して小人数教育を演習として行う。それもセメスターごとに初級演習、上級演習とあって、トータルで2年間かかる。それでジャーナリズムコースを修了するがことできる。副専攻として、そういう仕組みを作ったんです。目的はプロフェッショナル教育です。 その演習の受講生たちはほとんどがメディア企業に就職していきました。おそらく100人ぐらいは日本のいわゆる「マスコミ」に送り出しました。 ところが、そういうことをほぼ10年弱やっていてきて、その戦略に弱点と言うか、矛盾と問題があることを突きつけられ、ちょっと教育から身を引いていく考えが強くなりました。 中村:弱点とはなんでしょうか。 花田:弱点を突いてきましたね。それは、この学生はジャーナリストに向いているなーとせっかく教育をしても、その学生たちが日本で職業としてジャーナリストになろうとしたときに、日本ではマスコミ企業に就職するしか道がない訳ですよ。就職しかない。日本の就職というのは誰でも知っているように、就職ではなく就社ですね。会社に入ること。職業に就くことじゃなくて、会社に入ることですね。そういうシステムの中に入ること。そうすると、メディア企業も典型的な日本の会社システムなので、せっかくプロフェッショナル教育をした学生たち、しかもある意味で志を持ってメディア企業に、新聞社とか放送局とかに入っていった学生たち、その後の彼ら彼女らの状況をいろいろ観ていますとね、何て言うかな、間違った事をやってきたんじゃないかと思うようになったんですよ。 それはどうしてかと言うと、優秀なジャーナリズムの学生たちが、メディア企業に入った後に潰されたり、排除されたりしていったんですよ。時々研究室にジャーナリズムの卒業生が「こんにちは」とやって来て、「やー、久しぶり、今どうしているの?」と。実は休職中ですとかね。私はいろいろな教え子たちから就職後のことを聞くにつけ、日本のメディア企業というのは人間破壊工場かと思いましたね。 そうすると私は、何か学生たちに悪いことをしちゃったなーと思うようになったんですよ。申し訳なかったなと。ひどい所に送り込んじゃったなーと思うようになった。もちろん全員がそうなったわけじゃないですよ。坂巻君みたいに10年を新聞社で過ごして、健康に退社した人もいるけれど、それほどタフじゃない人もいるんですよ。 で、ジャーナリストになりたいと思って、新聞社やテレビ局に入って、やりたい仕事をやりたいと思って入って行ったのに、逆にそれが仇になって、直属の上司などと意見が合わず、自分で独自の取材をしようと思って動いていたりすると、そんなことをここでやる必要はないんだ、言われたことだけをやればいいんだと言われる。坂巻君はうん、うんと言っているでしょう。 坂巻:高知新聞ではそういう経験は無かったので僕は恵まれていた。 花田:高知新聞はまだよかったんだよ。同じ地方紙でも社風はいろいろだし、ね。 中村:四国国新聞とか大変そうですね、本当に。 花田:変ったオーナーがいる新聞社ね。 佐藤:デジタル大臣、で監視しちゃってるよ(笑) |
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花田:話を先に行くとね、私はジャーナリスト養成教育に疑問を持つようになって、もうやめようかなと。ところが、研究所に集っていた現役のジャーナリストたち、40人ぐらい居たんですけど、その一部が研究所をやめないでと、まだやりたいことがあるかもしれないから研究所を続けて欲しいと言って、そう言われたので。あとは佐藤さんが悪いんだけどね。 佐藤:笑 花田:佐藤さんが研究所の人たちと「ワイワイしようと、上野公園での花見を企画して開いて、その時に私はもうジャーナリズム教育研究所をこれでお仕舞にするよと、言っているのに、佐藤さんとか、朝日新聞の依光さん(調査報道部長)とかね、お花見しながら、やっぱり研究所はやったほうがいいですよ、と。そういう話になって、それで私は仕方なしに、よし、それでは「教育」を取ってジャーナリズム研究所に衣替えして作り直そうと。それでジャーナリズム研究所ができたわけですよ。2015年4月にね。 |
2014年4月6日上野でお花見、関係者参集し上野界隈で呑む |
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できた頃は何をやったらいいのかなーとまだはっきりしなかったんだけれども、丁度その夏ごろに、研究所の研究員、メディア企業のジャーナリストたちですけれども、その内の三人がソウルに行ってきますと。何か面白そうなのがあるんです、と言ってね。そして、三人がソウルから帰って来たのね。私に、実は韓国に「ニュースタパ」というのがあるんです、と。どういうのかと言うと、ノンプロフットのニューズルーム。独立非営利のニュース組織。ネットで発信している。そういうのがあるんです、と。それを見てきました、いや凄いです、と。 中村:何て言いましたか? |
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花田:「ニュースタパ」。「タパ」というのは漢字で「打破」と書くんですよ。だから、「ニュース打破」ですね。韓国語で読むと、ニュースタパになる。アルファベットで書くと、TAPA。こういうのが有るんですと、ビデオも撮ってきていて、私に見せてくれました。彼らは私に何と言ったかと言うと、「実は、こういうのをやりたいんです」と。 中村:非営利の、なるほど。 花田:研究所でこういうのができないかと。私は即答しました。「いいよ」と。研究所でニューズルームを作ろうと。 中村:おもしろそうですね。 花田:それで研究所の一つのプロジェクトとして、WIJP(ワセダ・インベスティゲーティヴ・ジャーナリズム・プロジェクト)というというプロジェクトを7,8人で設立したんです。それがそもそものスタート。研究所の中には、ドキュメンタリー上映会プロジェクトとか、研究員の発案で幾つもプロジェクトが走っていたんですが、そのうちの一つとしてスタートした。 「ニュースタパ」について聞いたとき、私はそういう動向が韓国にあるということを不覚にもまったく知らず、まず恥じました。それで、早速ネットで調べたんです。驚いたことに、その当時世界でインベスティゲーティヴ・ジャーナリズムのムーブメントがあるということが分かったんです。しかも国際組織まである。その年の10月に第9回のGIJC(グローバル・インベスティゲーティヴ・ジャーナリズム・カンファレンス)という、インベスティゲーティヴ・ジャーナリズムの世界大会がノルウェーのリレハンメルで開かれるということが分かって、私はリレハンメルまで行ったんです。 |
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2017年12月19日 花田達朗さんの伝言 犠牲者の救済を目指して、権力を撃つ ―GIJC 2017 in Johannesburgを顧みて (左絵:GIJN事務局長のデービッド・カプランさん右と花田達朗さん) |
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花田:坂巻さんも知っている依光隆明さん、あの人は外国嫌いだから、行くのは嫌だと言うけれど、1mのツナでいつも繋がっているから大丈夫だと説得して、彼を引っ張って行きました。見せないとダメだと思ってね。 依光さんは当時の朝日新聞の特別報道部長ですから、この人を動かさないと、と思ったんです。依光さんって、3・11の後に日本の「マスコミ」が大本営発表へと総崩れしてしまったときにね、その後5月か6月あたりから朝日新聞で毎日の連載を始めたんですね。それが「プロメテウスの罠」という連載で、それを指揮していたのが特別報道部長の依光隆明さんでした。彼はずーっと私の研究所の研究員をやっていました。 坂巻:もと高知新聞の記者です 花田:そう、そう、もと高知新聞社会部長。そこでいろいろスクープも出して、朝日新聞に引き抜かれて移った。朝日新聞の取材能力を挽回するために、依光さんを高知新聞から引っぱってきて、「マスコミ」で言う調査報道を再建しようとしたわけですね。その人物と一緒に、世界の運動の現場に行って、私は、まあびっくりしましたね。 世界中からジャーナリストだけが500人ぐらい集まっている。それで5日間も会議をやるんですよ。凄い数のセッションが並行して組まれていました。お互いにスキルをシェアーし、磨くことが目的です。そこでのキーワードはシェアとコラボレーションでしたね。 フリーランスが中心で、お互いのスキルアップのために学び合う。そういうカルチャーに満ち満ちていて、日本ではこんな場所は無い。日本の「マスコミ」にこんなカルチャー、こんな雰囲気はまるで無い。ソリダリティーというか、職業的連帯感に満ち溢れているわけですよ。 中村:なるほど。 |
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花田:日本にはこれは皆無です。ある元「マスコミ」の人の言葉では「社畜」だから。新聞記者というのは、みんな会社という共同体の中に閉じこもっているわけ。メディア企業の枠を越えて連帯するというのは日本には皆無なんだよね。ところが、世界は別なんですよ。全くの別世界。そこで、彼ら彼女らは何をしようとしているのか。非営利によるインベスティゲーティヴ・ジャーナリズムというもので、21世紀のジャーナリズムのイノベーションを起こそうとしていたんです。その国際的なネットワークを作っていた。その現場に行って、私は衝撃も受け、また嬉しくもなりました。日本に帰って来て、その国際会議の様子をみんなに、研究員たちに伝えました。 それで結局、その翌年2016年3月に渡辺周さんという朝日新聞の記者が、この人も特別報道部の記者で、「プロメテウスの罠」の一員でしたが、朝日新聞を退社したんです。そして、このW I J Pプロジェクトの専従になった。研究所は給料を払えないよと言うと、いいです、当面は退職金で暮らしていけますと。 中村:凄いですね。 花田:彼は会社を辞めたから、自動的に彼が編集長のポストに就いて、組織の形が出来上がって、ではどういう記事を発信していくのかということで、1年間準備をしたんです。 インベスティゲーティヴ・ジャーナリズム、探査ジャーナリズム、探査報道の記事を作り出す準備。そういう記事は簡単には作れないわけですよ。記者クラブ発表モノじゃないんだから。それで丁度一年後ですね、2017年の2月に「ワセダクロニクル」という名称でサイトを立ち上げて、デヴューしたんです。 |
(2017年12月19日 花田達朗さんの伝言犠牲者の救済を目指して、権力を撃つ ―GIJC 2017 in Johannesburgを顧みて) |
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花田達朗先生による選曲 「不協和音」 |
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花田:その時にリリースした特集記事が「買われた記事」という特集です。 その3へ続く |
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