21世紀のメディアについて語る
2021年11月4日 20:30〜

編集者:中村睦美
社会学者:花田達朗
木こり・ライター:坂巻陽平

作成:佐藤敏宏

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その01
坂巻陽平さんと佐藤とが先に入り話合っている。中村睦美さんが入場

佐藤:中村さん今日はお世話なります。音は聞こえますか?
中村:今晩は。聞こえますよ。
佐藤:今、入場されているのは坂巻陽平さんです。私が招待しました。坂巻さんは樵(きこり)をされています。中村さんは樵を知ってますか。
中村あまり今は使わない言い方な気がしますが、林業ということですか。
坂巻:そうです。
佐藤:日本の山が荒れているのはご存知でしょうか?坂巻さんは早稲田でラグビーの選手だったです!首太いでしょう、がっしりした木こり体格です。

坂巻:もう、10年以上前の話でだいぶ痩せました。

佐藤:早稲田大学を卒業され、高知新聞に入社。10年間高知県各地を取材し記者をされていたんです。ですからプロの元記者です。突然!健康的に退社されました。高知県で山の取材をされていたようです。私の推測ですが山を本格的に観察して報告しようと、山のジャーナリストになろうと、そういうことだと思ってます。人間相手にしていると面倒だから、山から人間を照射して見ているんだと思います。

坂巻:わらう。

中村:高知新聞ですか?どうして高知新聞にいかれたんですか?
坂巻:花田先生ってご存知ですか?

佐藤:今日ZOOMに参加される花田先生です。まだ入場していません。あ!「どうしたら参加できますか?」とメッセージが入っておりました。では再度入場方法を連絡しますので、その間、話しててください。

坂巻:花田先生のゼミに入っていまして「新聞記者になりたいなー」と思いまして。就職活動も真面目にやっていなかったもんで、結局高知新聞だけ採用していただいて。せっかく採用してくれたし、そこでいろいろ勉強させてもらいました。自分は神奈川の横浜出身の人間なんです。
中村:高知と縁がないのに、就職されたんですね。

坂巻:そうです。高知新聞に入って山間地域の人口減少問題に向き合うようになりました。高知県は県土の84%が山なのです。山の資源をどうやって活かせばいいのか?そういうような関心を持つようになりまして。で、2019年に会社に自己研修制度というものが出来まして、会社を休んで「給料はあげないけど自分のやりたいことやっていいよ」と。そういう研修制度を利用して、実際に高知県の四万十市に住んで、木を伐り出す。そういう研修をしていたんです。林業は危ないんですよ。今は、実家の近く神奈川県の山に入ってます。

佐藤:花田先生、ようやく接続しております。

中村:私、二回行ったことあるんです。高知県というのは凄く民主的な印象で、たしか高速道路のような大規模な公共事業が最後まで入らなかったという話を聞きました。
坂巻:人口も少ないし、後回しにされてしまう。
佐藤:花田先生、入場されました。花田先生、こんばんは、お忙しいところありがとうございます。

坂巻:花田先生、久しぶりにおじゃまします。
佐藤:坂巻さんは私が招待しました。中村睦美さんです。
中村:中村と申します、こんにちは。

花田:こんにちは。




絵:坂巻陽平著『中山間地域を維持するための処方箋: 〜優秀な林業従事者を散りばめよう〜』キンドルで買う)
■  語り合い始めます

佐藤:では21世紀のメディアについて始めたいと思います。今日はZOOMに参加していただきありがとうございます。
今夜は花田先生と中村さんを中心に語り合っていただき、21世紀初頭の新メディアの可能性、そして課題が浮かび上がって面白いのではないかと思いまして企画しました。

理由は中村さんは最近エラボ(elabo)という、ウエブメディアの立ち上げに関わりました。中味は多様で大風呂敷気味に見えますが詳しくは理解していません。しかしZ世代を牽引する新メディアをつくろうとしております。Z世代の定義は1995年以降生まれでweb情報が身の回りにあって育った人々ということだと思います。2000年以降、携帯電話からスマフォへと代わり日常で多くの人に使われるようになった社会に生まれて来て、青春期にはスマフォやPCを持ち歩き情報を活かして生きている、そういう若い人達のようです。中村さんによると、情報過多、あるいは情報を偏って需要している若者だと話されています。

一方の花田先生は、マスメディア研究者からジャーナリスト教育、さらに新しいメディアを育てるための育成と支援さらに研究をされてきました。この数年はウエブで独立可能な21世紀型のメディアである、ワセダクロニクルからタンサ(Tansaという名前に変更されウエブで発信する若い人々を、指南、支援されています。

そこで新メディアに深く関わっているお二人、エラボ(elabo)の中村さんとタンサの花田先生に語り合っていただく。21世紀初頭に現れた新メディアを多様な視点で語っていただくことにしました。寄付や会員を募りウエブを使って無料公開して活動する、そういうメディアを21世紀の新メディアとしておきます。

旧マスメディアの定義は、正力松太郎が作ったビジネスモデルで運営されてるものとします。購読料、と各種広告費をガソリンにし紙媒体を売る、購読料と広告費で世論を誘導するタイプです。すこしテーマとは離れますが、正力は政治家になり原子力政策を推進しましたし、読売巨人軍やプロゴルフ、プロレスなどのスポーツ選手を登用し掲載したり放映し、購読料や日本テレビ視聴率を増やす、読売ランドの運営など、あのスタイル。(詳細は『巨怪伝ー正力松太郎と影武者たちの一世紀 上下』)
今世紀になりますとウエブが盛んに生活に取り入れられまして、Z世代の人々は特に旧メディアの欠点を知知ってか知らずか新聞を購読しない、テレビを持たない生活になっていると推測します。3・11福島の原発事故以降はマズゴミと語られ、旧来の媒体を支える記者クラブ制や政治家が組織するSNS発信や、ヘイト的投稿が社会問題になっています。トランプ大統領の落選によって彼のそそのかしツイートによって米国議会が襲撃され民主主義にダメージを与えました。
旧メディアに対抗するように、エラボやタンサののような広告と購読料に支配されない、記者や発信者が自立できる、21世紀新メディアへの動きが日本でも始まり活発になってきたと思います。討論物もふくめた、これらは21世紀のメインのメディアの主流になっていくと私は見ております。
今日は11月4日で、衆議院選挙10月31日に終わりまして、新型コロナも納まりつつあり、タイミングもよいので、中村さからエラボというのはこういう活動だということを語っていただいて、その次にタンサにつて花田先生に語っていただきます。途中で質問しても大丈夫ですよね?

中村:むしろ質問していただいたほうが助かると思います、すみません、プレゼンを用意してなくて。

佐藤:講義をする場ではないので、プレゼンは要らないです。互いの話を聞き語り合いを中心にお願いします。9月4日、2ヶ月前に花田先生と坂巻さんに参加いただいたZOOMで得た思いですが、語り合った後、文字にし加筆修正・校正し、参加者全員でこの記録を仕上げつくる方法で、いいと考えてます。このZOOMは話芸でもって参加者を感心させるスタイルではありません。ウエブページ記録をつくり残す。そして無料で公開していくことが主なるテーマです。大学の講義やZOOM呑み会と言われるような繋がってワイワイして時間を消費する形はとっていません。

中村:私の話は後の方がいいような気もしましたが、先に話した方がいいですか。

佐藤:私も中村さんのことをほとんど知らないので、自己紹介を兼ねつつ、エラボの紹介の話へと進めてください。よろしくお願いします。その後に花田先生からタンサに関する話しをいただき融合し合いながら語る、ということで進めたいと思います。では中村さんからお願いします。



(注)長い記録なので各所に音楽動画あり

Bulgarian Choir Dragostin Folk National - Digu Digu Di 保加利並之声合唱団 / ブルガリア合唱団
中村睦美さん 自己紹介 

中村:はい。
佐藤:私と中村さんの出会いは4年前ですか? 滋賀県大・川井先生の聞き取り活動している部屋に入ってきました。その時だと思いますが違ってますか?

中村:もうちょっと前の、佐藤さんが「DANWASHITSU」に来られたときですね。2012年に滋賀県県立大学、琵琶湖の近くの湖東地域、彦根城の城下町の大学に入学しました。滋賀県は京都の隣ではありますが田舎でして、2000年代初頭は今ほどメディアも書籍、雑誌はぎりぎり生きていたかなーという時代だったと思いますけど、今日のようにオンラインでイベントをするとか、すぐにTwitterとかSNSを通して情報が入ってくることはなかったのです。そのとき田舎の大学で建築学科はある種の情報が凄く必要になってくる学科ですね、スターアーキテクトと呼ばれるような著名な建築家がいて、その建築家から薫陶を受けて建築を学ぶ、そのようなある種のクラスターが凄く発生し易い学問だと言えると思うんです。そういう学問を学ぶに当たって滋賀県という田舎という場所はハンディになりやすい。そういう部分もありまして、歴代の先輩方が1999年ごろに、自分たちが都会に行くのではなくって、全国から建築家の先生方を滋賀県彦根市に呼んできて、レクチャーをしてもらうという企画を平均して年に4回ぐらい、行っていました。それがDANWASHITSUという活動なんです。

佐藤DANWASHITSUの始動についてですが、私が設計した家の男の子が、滋賀県立大学に入りました。その年の夏休みに私の家に来て「滋賀県立大学は面白くない」と、相談に来たんですよ。「学問が面白くないって?見ているところが違うんじゃないか、成人してて、面白くないって、誰かに面白くしてもらおうと思ってないで、俺がやっている建築あそびを自分たちで開いて、記録を公開。このように能動的に活動して面白くしなさい」とけしかけました。その彼が大学に戻ってDANWASHITSUを始動させ、現在も続いています。
その話は2012年11月2日に滋賀県大に呼ばれて話した時、聞き取りの時だったかな、経緯を川井先生から聞かされました。で、DANWASHITSUを引き継いだ後輩の中村さん話を続けてください。

中村:私も大学の1年生からDANWASHITSUが開かれるときに聞きにいっていたんです。大学の1年生、2012年に佐藤さんを滋賀県立大学にお招きして、それで何の話をされましたっけ。原発の話? 私は2012年の入学だったので、震災の後に入学したんです。

佐藤:俺の講演内容のあらましは『雑口罵乱(ざっくばらん)F』に載っています。


中村睦美さんに会った日、2012年11月2日
県立滋賀大学での佐藤のレクチャー集合写真より 佐藤:前列左から3人目 中村睦美さん前列右端

       

佐藤:たくさん学生が居たので中村さんのことは覚えてないです。
中村:あの時にいたんです。何をやっていても大きなテーマになる時代だったので、その時に佐藤さんに原発の話を・・私あんまり覚えてないです。

佐藤:原発の話はしてないです、その後に呼ばれたとき話したけど。2012年11月2日の話は被災地での活動、古建築のレスキューや港町づくり支援と、発行した新聞の話をした。建築の話はしませんでした。宮城県の気仙沼市の唐桑半島、典型的なリアス式海岸の鮪立(しびだち)で一人になっても活動していたんです。仕舞には追い出されましたけど。
一人で活動するのは大変だったので、関西と関東地域の大学に被災地の様子を伝える活動もしてました。TwitterとYouTubeと私のHPで、頻繁に被災地の状況を伝えていました。風聞に乗ったんだろうけど、いろんな場に呼ばれまして、県滋賀大学に行ってみると会場は大勢の人でした。(註1)そういう活動をしていると多様な人々に会う。で、「被災地で一緒に協力して活動しましょう」と誘いました。滋賀県大学の学生は私が誘う前に三陸の津波被災地に入って番屋を建てていました。宮城大学の竹内泰先生にも鮪立港で会いました。竹内先生から県滋賀大の学生さんたちに伝わったんだそうです。「佐藤はお金もとらないで一人で建築も建てることはしない、へんな活動している」で何をしているのか?呼んで聞こうということになったんだと、リーダーの井上悠紀さんが語っていました。
私は貧乏だから県滋賀大に行くための旅費が無かったので「学生に電車賃を前払いしてくれるなら行く」と、返信しまししたら新幹線のチケットが送られて来ました。

中村:あ、そうだ、それでいらっしゃったんだ。

佐藤:宿賃も無いので学生の家に泊めてもらいました。

中村:たしかそうだったと思う。

佐藤:学生の家に30人ぐらいで雑魚寝で泊って、夜明かしした。あの時中村さんもいましたか?
中村:あの時、私もいました。「すごい面白いオジサンが来るからよかったら来なよ」と言われて、それで参加して。あの時はお話することもなく、それが初めての出会いだっということです。
それでさっき佐藤さんがお話した、2017年の1月27日、聞き取りの時に再会しまいた。2017年に何か大きな出来事もないんですけども、私のゼミの先生の川井操先生がいらっして、川井先生の聞き取りを佐藤さんがされたんです。場所は大学の教員宿舎でやることになっていたんですけど川井先生は、当時は学生を招いて家で呑み会をやってまして、自分たちで料理も作って、琵琶湖も近いので投網で鮎を獲ってそれを揚げたりして、みんなでワイワイ食べる、距離の近い関係性だったので、久しぶりに佐藤さんが来るから、よかたらいらっしゃいと呼ばれて、参加させていただいて。その時に5年ぶりにお会いしました。それが二回目の出会いです。

註1:講演した各大学は、大阪の有志の若者たちの会、京都の有志たちの会、京都工芸繊維大学の岡田栄造研究室、東大の太田浩史研究室、東京芸大の有志、東京工芸大学鍛佳代子研究室だったかな、当時の日記を見るとわかる。
そこで学生たちに津波被災地を見にくるように誘い続けてました。福島に呼んでも放射能が沈着してたばかりだから、誰も押しかけてこないかったです。で宮城県で活動してた

石巻市の活動記録鮪立の活動記録



井上遼介さんの家に押しかけ雑魚寝する佐藤





2017年の1月27日集合写真
動画(DANWASHITSUの一日)
2012年11月3日か福島から彦根へ
編集者の道へ

中村:それで、大学院を卒業していろいろあって今は編集の道に進んだんです。編集と言ってもいわゆる出版社とか、坂巻さんのような新聞社に勤めるということではなくって、なんとなく大学院で論文を書いたし、説明しました『雑口罵乱』という出版活動もメンバーになって運営する側に入って、講演を企画したり、文字起こしして、一冊の本にまとめ出版する活動をしていたので、建築設計の道に行くよりは編集の道に行った方がいいかなーと思って、編集の道に。

佐藤DANWASHITSUの『雑口罵乱』を発行するために、編集作業していて編集者の仕事が面白くなったということですか?

中村:そうですね、なんとなく建築物というもの自体への興味より、それを取り巻く概念のほうに興味がいってしまって。あと、「デカイ物」を造ることは私には無理だなーと思った。無理というか明るさを感じなかったんです、これからの時代に皆で競い合って、建築をつくって、徹夜してなんぼみたいな競争はしたくないなあと。消極的な選択ではないですけど。こんな世界でやっていくのは、自分としてはやめた方がいいんじゃないかという事もあって。それで編集の道に進むことにしたんです。

ジャンルに囚われる言い方はあまり好きではないんですが、編集プロダクションと呼ばれる所にいます。大きなところで言うと、LIXILという衛生機器の製造メーカー、水回りの機器を製造している会社の文化事業がありまして。都内で美術館とかギャラリーも運営していて、出版社も持っていたんですね。LIXIL出版です。そこの書籍などの企画編集制作していたりした編プロです。LIXIL出版の本は「建築・都市・思想」関係の書籍が多くって。『10+1』とか。


佐藤
:花田先生は『10+1』購読者でしたよ。

花田:読んでいましたよ。

中村『10+1』、書籍は2008年に終っていたと思うですけど、その後WEBの方が続いていて、WEBも2020年春にWEBも終わりますと、いうことになって、さらにLIXSIL出版も閉業することになり。

 花田先生『10+1』をかざし、みんなに見せる

花田:これは1997年の特集「新しい地理学」、これは1998年の「メディア都市の地政学」。INAX出版だね。

中村:当時はINAX出版と言ってました。

佐藤:名称が変わっただけで、編集プロダクションは同じでしよう?

花田:これは2001年の「都市の境界 建築の境界」で、この中には建築計画者の小野田泰明さんが「領域/公共圏〜阿部仁史+小野田泰明の思索/活動から」という論考を書いている。『10+1』の特集のタイトルの付け方はなかなかセンスがよかったよね。

佐藤:中村さんの上司である飯尾次郎さんが付けているんだと思います。

中村:そうそう、飯尾さんが在籍していたメディアデザイン研究所という会社が『10+1』を作っていました。







思想オタク結集雑誌

花田:私は『10+1』には原稿書いたことはないんですけどね。頼まれたことがないからね。私の知っている人はかなり『10+1』に書いていましたね。カルチュラルスタディーズの人たちとか、ニュージオグラフィーの人たちで、あの時代に私の知っている人で『10+1』に書いていた人は案外いましたね。

佐藤:筆者の1人、吉見俊哉さんは花田先生の弟子じゃないですか、違いましたか?
花田:弟子ではないよ、同僚だ。

佐藤:弟子だとばかり思っていた、同じ研究所に在籍してた。

花田:あの頃ね、今挙げた三つの号なんかそうなんだけれど、ジオグラフィーと社会学が融合するようなところがあって、地理学者たちの一部が伝統的な地理学から抜け出してニュージオグラフィーというのを作ろうとしていた時代で、社会科学の中にスペイシャルターンと言うんだけど、空間論的転回というのが起こっていた時代ですよね。それより少し前にはカルチェラルターンと言って、カルチュラルスタディーが浮上してきて、それにほぼオーバーラップするような形でマルクス主義の地理学者たちの方から空間論が出てきて。それでカルチュラルスタディーの人たちと接触するようになったんですよ。そういう人たちが今三つ示したように『10+1』で書いていましたね。

中村:ちょうどそういったタームがあったというか。『10+1』はハードコアな内容も多い雑誌だったと思うので、何が書いてあるのか全然分からなかったけど、あれを読めるのがイケてると思ってた、という話をよく聞きます(笑)。

花田:思想の「最先端」みたいな顔をしていたわけね。その振りをしていたと言った方がいいかも知れないけれど。それである種、もて囃す人たちがもて囃していた。問題は中身なんだけど、今はほとんど衰退してますよね。ある種のブームだったね。結局、スペイシャルターンというのは、空間論的転回というのは、私の意見では、きっちりとターンし切れなかったように思いますね。

中村:そういった思想のブームというのは、2010代まではまた確実にあったと思うんです。

花田:常にあるんですよ、ブームというのは。

中村:「思弁的実在論」というのが一時的に盛んに取り上げられたりとか。

花田:そうやってね、悪く言うと、それは自動車と一緒でモデルチェンジしていかないと産業が成り立たないんですよ。学術産業が成り立たないので、もたせていくためにモデルチェンジを繰り返して、いつも何か新しいことをやっているという振りをしないと、学者の世界が持たないので、皮肉な言い方をすればね。もちろん真面目な言い方もしないといけないんだけれど。常にある種のブームの繰り返しなんですよ。

中村:おっしゃる通りだと思いますし、それをその一翼をある種『10+1』が担っていたと思います。

花田:一番担っていたんでしょうね。スペイシャルターンを一番担っていたのが『10+1』で、建築とか空間とか地理とか、そういう処にフォーカスを掛けて、思想のターンを言わば編集的に、エディトリアルに演出したんですよ。

中村その通りだと思いますね。だから本当にそういった思想オタクの方たちが集結するメディアだったんでしょうね。

花田:つまり消費者が居るわけね、思想の消費者というのかな、コンシューマーがいるんですよ。だからマーケットが成り立つわけで、雑誌も出せたんですね。消費者・コンシューマーというのが、佐藤さんの言った思想オタクみたいな人で、その人たちはある程度消費したら去っていくんですね。そうするとマーケットは潰れるから生産者側は別の商品を作らなくちゃーということになって、モデルチェンジしていくわけですよ。

中村:そうですよね、メディアを売るためにそういった思想のマーケットをドンドン作っては回している。長い目で見ると思想やメディアはどれぐらい残っているのか、とは考えてしまう。

花田:それが印刷される雑誌の時代での生産様式はもたなくなってネットへの様式でというので、かつての『10+1』とかが編集し演出していた思想マーケットというのは、今はもう成り立たないものね。

中村:うですね、コンシューマーたちが紙媒体に集まるというモデルはかつてはあったと思うんですけど、それがwebの世界で分散化されている。

花田:そう、そう。

中村:私は今仕事でwebメディアの企画編集をいくつかやっているんです。そこで感じるのは、この記事を読みましたというコンシューマーはたくさんいるんでけど、その人たちはおそらくほとんどはこのメディアのファンだからこの記事を読みましたという形ではなくて、その記事だけをたまたまSNSか何かで見つけてきて、読みましたと。そういった人はけっこう多いんです。だから一つのメディアを崇拝するようにずーっと読むのはwebの世界ではなかなか成り立ちにくいなーというのは感じています。それが悪いことでもなくて、いわば『10+1』的な格好いいイケてるタイトル、特集ですね、一つの特集の下に記事が一杯ぶら下がっているという、特集主義がもう解体されたとも言えるのかなと思います。

花田:そうです。だから、一寸先走りして言っちゃうと、そこが先々でテーマになると思う。『10+1』のような、編集様式を支えていた紙媒体が崩れたが故に、紙媒体の編集様式、雑誌媒体という下部構造の上に載っていた編集様式、『10+1』のような、思想の生産流通様式ですけれど、それがインターネット時代には流用できなくなったので。

中村:その下部構造なるものがwebの世界に無い。

花田:そもそも違うわけだから、メディアが違うと下部構造が違うので、その上に載っていた編集様式というのは死んでいくしかないんですよね。そうすると、新しい下部構造、新しいメディア、今であればインターネット、その上で稼働する編集様式というのを新しく創らないといけないわけですよね。それが今形成過程で、まだ回答は出ていないのでね。

中村:そうですね、Webメディアというのは『10+1』もWebでやってはいたんですけど、それも大元のLIXIL出版の閉業の少し前に更新が終ってしまったんですね。もちろん現代思想や哲学が好きな人たちが集まるWebメディアというのは、いまだに有るだろうとは思うんですけれど、一つの時代は終わったとは言われていました。

花田:今でも思想オタクっていますか?
中村:いると思いますよ。
花田:あ、そう、思想オタクは死んでしまったんじゃないかと思っていました。

佐藤:思想オタク雑誌のエンジンのガソリンは建築の衛生陶器会社の資金だったというのは寒かったですよね。
花田:まだ思想オタクいるかなー。
中村:おそらくぎりぎり何か思弁的実在論というのが流行った時はたくさんTwitter場にもいらっしゃったような気がします。
花田:そうなの。
中村:そうですね。『現代思想』(青土社)は思想のタームを扱っていているという気がしていますね。それでメディアの話でいうと、最近面白い話があって。

女性のメディア動向

中村:女性のメディアがすごく変わってきたという話がありまして、佐藤さん、エラボの話に行くまで長くなっちゃうですけど。
佐藤:問題はないので続けてください。
中村:録音されてますか?
佐藤:音録りしてますよ。

中村:いわゆる「女性向けメディア」って、昔であれば取り扱うメインコンテンツは結婚ですね。いかに結婚というゴールに向かうかが命題だったと思います。または見た目の美しさを追求するもの。それはいまだに『ゼクシイ』という紙の雑誌では生きていて、『anan』という雑誌もたぶんそうなんですね。そういった結婚的なものをマーケティングにした、いわゆる旧来型の女性の幸せとは何かというものをひたすら追求しているのが、女性のメディアの命題だったと思います。もちろんそれ以外にもファッションとか旅行とかそいう内容を扱っているのは昔からあった。そうした結婚的な女性観を謳っていたメディアが最近どんどん、「生きづらさにつて考える」とか「環境問題について考える」とか、「フェミニズムについて考える」とか。そういうタームになっていっているという指摘を「こんにちは未来」というポッドキャストで話されていまして。Webメディアでも同様に、身近なところから社会を考えるというか、政治を考えるみたいな話が凄く増えているなーという気はしてるんです。今の話は思想系の話からはまたく違うものですが。

花田:関係しているんじゃないですか。

中村:そうかもしれないですね。いよいよ私が女だから意識が向いているのかもしれませんが、日本でもようやくフェミニズム、第4波以降のフェミニズムが盛り上がってきて、韓国をはじめ、外国からのフェミニズム文学の輸入もすごく増えていると思うんですけれど。現代社会においてどう生きるか?というのを身近なところから考えるということのは今のメディアのブームではあると思っています。凄く政治的にもリベラルでちょっとポップカルチャー寄りのメディアというんですか、それがけっこう増えていて。
でそういう流れで、例えば2016年以降にアメリカではトランプ政権とういうのが凄い大きな存在としてあったと思うんです。このトランプの様な、最初は出落ち系かと思ったような人物が本当に大統領になって、それでどんどん国内で分断を煽って、それで結局4年大統領をやったなかで、こんな社会が現実にあるというショックキングなことがアメリカで起きてからこそ、アメリカ国内でもすごくリベラルとカルチャーが交差するようなメディアが盛り上がったようですね。

例えば女性誌、『ボーグ』(VOGUE)という有名なファッション雑誌がありますが、そのVOGUEが「ティーンボーグ」(teenVOGUE)というメディアを立ち上げたんです。それこそZ世代とか、ミレニアル世代に向けたメディアで。政治を気軽に取り扱ったり、その中でファッションの話もしたり、環境問題の話をしたりしています。アメリカでそういう動きがどんどん起こるようになっていった。アメリカって二大政党制というのもあって、自分は民主党を支持するとか共和党を支持するだとか、政治的な話もし易い土壌があると思うんですけども。
何の話をしようとしたかと言うとアメリカでそういうムーブが起きて、いよいよ2020年に新型コロナ禍やブラックライヴスマターの動きがあって、いろいろな激動な時代2020年以降、メディアの新陳代謝がどんどん起こった。



ゼクシィ 




VOGUE JAPAN 2021年11月号 9月28日
柳澤田実先生 『teenVOGUE』

中村:その中で、いよいよ『10+1』も終って、何か新しいこれからのメディアというのがどんな感じであるんだろうかということを考えてた矢先に、関西学院大学神学部の柳澤田実先生という方から「何か新しいメディアを一緒に作りましょうと」いうお話を頂いたんですね。

teenVOGUE サイトへ

中村:それで「ぜひ、ぜひやりましょう」となって。柳澤田実先生から『teenVOGUE』というのがあって、Z世代の社会への発信がすごく活発という話を聞いて。今私がべらべら喋ったのはけっこう柳澤先生の受け売りなんですけど(笑)。日本でもなかなか、アメリカに有るような若い人に向けたリベラル、政治的思想は保守でもリベラルでもどっちでもいいんですが、そういったいろいろな立場を越えていろんな人が議論できるという意味ではリベラルという言葉を仮に使わせてもらいますけども、リベラルでかつ先ほどから出てる思想オタク的な、言い換えればアンダーグラウンドカルチャーに閉じない、ような人に向けたメディアを日本でもぜひ作りませんかとお誘いを頂いて。やっぱりアングラとかサブカルの対極にあるメインカルチャーの影響力はすごい大きいですよね、という話をしていたですね。
私もどちらかと言うとアンダーグラウンドカルチャー的なものに魅かれる部分がとても有ったです。一方でなぜ今、この社会において、例えば、Kポップがめっちゃ流行っていて、ジャンプの漫画がこんだけ売れていて、なぜこのカルチャーに若い人たちは魅かれているのだろうか? ということを無視することは出来ないですよねーという話をしていたですね。
それで、そういったメインのポップカルチャーだとか政治の話、個々の生き方の話なんかを一つのメディアの中で語れることが出来ないか、と話していって作ったのがエラボ(elabo)というメディアです。佐藤さん画面共有できますか。

佐藤:エラボのサイトみなさん観てるから、web記録に絵は貼り付けるから今日は、絵は無しで言葉優先でお願いできますか?
 elabo サイトへ

中村
:わかりました。喋った方がいいですね。
花田:佐藤さん画面共有ができないんじゃないの。

中村:許可してもらおうかなーと思ったんですが、無しだったら。
花田:佐藤さんが画面共有を許可すればいいだけだよ。
佐藤:私のアイパットが古い型なんで画面共有表示が出ないですよ(笑)
花田画面共有できた方が楽だよ、佐藤さん画面共有するのを練習して。中村さん、教えてあげてよ。

佐藤:かなり古いアイパット使っているので、共有するアイコンが出て来ないですよ(笑)
中村:出るんですけどねどこかに。
佐藤:いろいろアイコンクリックしてみてますけれど、画面共有でてきませんね。やめよう。
中村:わかりました、チャットに貼りましたので。よかったらアクセスしていただけると嬉しいです。

花田:私、一応クラウドファンディングのサイトとエラボのサイトは観ました。

中村:ありがとうございます。ちょうど今クラウドファンディング中です。エラボというメディアで何を取り扱っているのかというところなんですけど、例えば今アクセスしてもらうと、10月31日に行われた衆議院選挙ですね、エラボの本丸は2021年に衆議院選挙があるから、その時に本当に若者に対して政治を身近なものにしていかなといけないという焦りというか使命感が原動力でした。どうにかして政治が身近なものであるということを伝えられないかというのも一つの大きなテーマだったので。トップページの方では、けっこう選挙にまつわる記事が出ているんです。その中で今、選挙を受けてSNSがどうだこうだという話が佐藤さんの方で最初にお話ありましたけど、今年の衆議院選挙にあたって私も街宣やデモに参加してみたんです。例えば投票に行こうというデモ。基本的にそういうデモの主催者や参加者の多くは政治的にリベラルでだいたい、野党に投票する人たちかなーというクラスターなんですね。コロナ禍以降、映画館とか、ライブハウスの営業がなかなか立ち行かなくなったとき、政府に、自分たちが運営するカルチャーの現場はこういう状態であるということをどんどん発信していくような団体の人であるとか、環境アクティビストの方とか、そういった人が主催しているようなデモだったです。主催者にはただただ凄いというか、こうして声を上げる機会を作ってくれてありがとうございます、という尊敬の念でいっぱいなんですけども。
ただ、なかなか選挙に行こう行こうと言っても、同じクラスターが集まることが多い気がしているので、ただ行こうだけじゃなくで、どこに投票するのというのが、貴方は何を考えてこの政党に一票を投ずるのかという、そういう本来するべき話が無いと、投票に行こうと言うだけではまだ足りないんですよね。 だからエラボでは、なぜ私はこう考えてこの政党に投票するのかを記事として書いたり、国防についてめちゃくちゃ関心ある学生にも書いてもらったり。一方で選挙権が無い学生が居て、18才は超えているですけれど国籍の問題で選挙権を持たない子にも、選挙をどう見つめているのか書いてもらう。リベラル界隈に居ると入って来ない情報がどうしてもあると思うんですね。例えば保守的政党に投じるな人が一体何を考えているのか、とか。あらゆる背景から選挙権を持たない人も存在するとか。そういった話をなるべく取りこぼさずに色々な視点から議論できる話題を打っていきたい。エラボのテーマでもあります。

他にはパンクロック展というのがこの間まで東京の北千住で開かれていたんです。今のZ世代と呼ばれる若い子たちは、私もですが、1970〜80年代に階級社会や人種差別が社会にどう影響して、セックスピストルズとかザ・クラッシュといったパンクシーンを体験としては知らないわけです、後追いはいくらでも出来るんですけれど。そういうパンクロックを扱う展示をZ世代が見てどう感じたか、現代社会の実感とともに記事にしてもらったり。だから「文化はこういうものである」という上からの啓蒙ではなくって、今ある文化を、自分たちがこのように感じましたというのをなるべくフラットに語れる場所として、あって欲しいなというのもエラボの目的です。

選挙の話とか文化の話とか、韓国などアジアの話は凄くメインで取りあげていきたい内容でもあって。というのも日本では今でこそ若い人たちは韓国カルチャーを好む人も多いですし、韓国に対して凄い偏見の目を持っている世代ではないと思うので、凄くフラットに韓国文化を受け取る人が増えていると思うんです。まだまだ私より上の世代とかは、嫌韓・嫌中な人も多いんですよね。韓国のカルチャーの背景を探ると興味深いことが多くて、例えば韓国は2000年代に国を挙げてIT化を進めたりしていたんですよね。2005年ぐらいの時点でCDの売上よりも、ストリーミングサービスの売り上げが上回っていたり。WEBコンテンツとかYouTubeとかそういうもので、文化を作っていくという土壌を、アジアで一番早く始めたはずです。そういう国でいろいろなアイドルたちが出て来て、彼らは厳しい競争社会の中で勝ち上がっていた存在なんですが、ルックスも良くて、歌も上手いし、ダンスも上手いだけではなくて、競争社会での生きづらさを歌にしていたり。表舞台だけを見せずに、裏の舞台で自分たちがどういうシンドイ思いをしているかということをフラットに発信したいたりするんです。そういう韓国文化のありかたに共感を得て、何でも消費する時代ではなくって、この世の中の生きづらさを発することがあっていいんだと。Z世代に勇気を与えていると。そういった話とかを韓国文化を通して触れています。たくさん記事が有るので是非お時間があれば見ていただきたいなーと思います。





絵:elaboより















絵:elaboより

佐藤:だいたいエラボの説明はいいですか?

中村:はいまた思い出したら話します。ありがとうございました。

佐藤:花田先生、坂巻さん質問があればお願いします。

その02へ続く
中村さんの選曲  Sad Cowboy
南ロンドンのZ世代ガールズバンドGoat Girlによるローテンションサイケデリックな一曲です


 その02へ続く