花田達朗 | ||
■2021年10月14日 ノーベル平和賞がジャーナリストへ ノーベル委員会は、10月8日、今年の平和賞を二人のジャーナリストに授与すると発表した。二人とは、フィリピンでニュース組織「ラップラー」を率いるマリア・レッサと、ロシアで独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長を務めるドミトリー・ムラトフである。ともに権力と戦い、権力から弾圧されてきたジャーナリストである。 ここで、二つの点に注意を払いたい。 第1は、ノーベル委員会はノーベル平和賞を平和構築に貢献してきたとして、これまで多くの政治家に与えてきた。なかには受賞後に平和賞を裏切るような政治家も少なくなかった。政治家だからである。ところが、今回、その政治家を監視するジャーナリストに平和賞が授与された。すなわち、ジャーナリストが平和構築に貢献していると承認し、その活動を顕彰したわけである。遅きに失した感はあるが、今日の世界でいたる所でジャーナリストが殺され、逮捕・監禁され、脅迫され、身の危険に晒されている危機的な現実に対して、ノーベル委員会が注目し、ジャーナリズムの役割を評価するメッセージを発信したことには大きな意義がある。 第2は、授賞発表前の下馬評では昨年は「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)が、今年は「国境なき記者団」が挙がっていたが、ノーベル委員会は組織ではなく、個人の方を選んだ。それは妥当な判断だったと言える。ジャーナリズムを実践するのは常に個人である。殺害され、犠牲になるのも個人である。そのことを今回の授賞はメッセージとして発信している。 私のコメントが10月9日の朝日新聞の紙面とデジタル版とに掲載された。デジタル版にはフルバージョンが掲載され、紙面には短縮バージョンが掲載された。以下に、両方の最終原稿を収録しておきたい。なお、最終原稿ではGIJC(探査ジャーナリズム世界大会)となっていたが、掲載時には誤植でGIJC(調査ジャーナリズム世界大会)と、「探査」が「調査」に変わってしまっている。ここに収録する原稿の方が正しい。 |
Keynote speaker Maria Ressa at the Global Investigative Journalism Conference in Hamburg, Sept. 29. Photo: Nick Jaussi / nickjaussi.com |
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【朝日新聞紙面版】 考論|花田達朗早稲田大学名誉教授(ジャーナリズム論) 報道の自由への貢献が授賞理由になったことは、今日世界中でジャーナリストが迫害されている現状をノーベル委員会が直視したという点で意義がある。 一昨年9月、ドイツのハンブルクで開催された第11回GIJC(探査ジャーナリズム世界大会)で、マリア・レッサさんの基調講演の後に起こったスタンディングオベーションを思い出す。130カ国から集まった、約1700人のジャーナリストたちが連帯の思いを送った。壇上には「ジャーナリズムは犯罪ではない」という横断幕が掲げられていた。 あらゆる権力は必ず不正を行い、腐敗する。政権の維持や延命のために戦争さえも起こす。その動きを掘り起こして人々に伝え、ブレーキをかけるのがジャーナリストの役割だ。 国家や政権が隠したい事実に迫るという行為は危険なことだ。最悪の場合、命を奪われる。それでも権力と闘うジャーナリストこそが評価されるべきなのだ。そんなメッセージが読み取れる。 政治家が都合の悪いことを暴くジャーナリストをおとしめる状況が広がっている。大事なのは、権力を監視し、隠された事実を発掘し、世に伝えるというジャーナリズムの原理原則を貫いて実践することだ。(以上) |
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【朝日新聞デジタル版】 考論|花田達朗早稲田大学名誉教授(ジャーナリズム論) 報道の自由への貢献が授賞理由になったことは、今日世界中でジャーナリストが迫害されている現状をノーベル委員会が直視したという点で意義がある。受章には「ジャーナリストは平和構築の担い手である」とのメッセージが込められている。 マリア・レッサさんの受賞を聞いて、一昨年9月、ドイツのハンブルクで開催された第11回GIJC(探査ジャーナリズム世界大会)で、マリア・レッサさんの基調講演の後に起こったスタンディングオベーションのシーンを思い出す。130カ国から集まった、約1700人の闘うジャーナリストたちが彼女に熱い連帯の思いを送った。壇上には「ジャーナリズムは犯罪ではない」という横断幕が掲げられていた。 歴史が証明するように、あらゆる権力は必ず不正を行い、腐敗する。そして、政権の維持や延命のために市民的自由を抑圧し、暴力に走り、戦争さえも起こす。その動きを掘り起こして人々に伝え、ブレーキをかけるのがジャーナリストの役割だ。 ところが、国家や政権が隠しておきたい事実に迫り、暴露するという行為は危険なことだ。最悪の場合、命を奪われる。それでも正義と平和を追求し、権力と闘うジャーナリストこそが評価されるべきなのだ。そんなメッセージが授賞からは読み取れる。 21世紀に入り、政治家が「フェイクニュース」という言葉を利用し、自らに都合の悪いことを暴くジャーナリストをおとしめる状況が世界中に広がっている。ジャーナリスト側は権力側のウソを調べて発表する「ファクトチェック」で対抗してきたが、それはあくまで対症療法だ。 大事なのは、権力を監視し、隠された事実を発掘し、世に伝えるというジャーナリズムの原理原則を貫いて実践することだ。人々が投票やデモといった行動を起こす判断材料を提供することが、社会の改善や平和につながっていく。 レッサさんとムラトフさんの受賞を祝したい。(以上) |
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Global Investigative Journalism Conference in Hamburg 25. - 29.09.2019 Copyright: Nick Jaussi / nickjaussi.com HOMEへ |
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