花田達朗 全記事の目次へ
■2020年4月18日 Yasuyoshi Chibaの受賞

World Press Photo Foundation(WPPF、本部はアムステルダム)は、主催する写真コンテンストWorld Press Photo 2020の決定を16日に発表した。今回で63回目となる大賞は、ヤスヨシ・チバStraight Voiceに授賞された。
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私は今日、それをドイツの公共放送協会の17日20時の定時テレビニュース番組、ARD「Tagesschau」で知った。インターネットでそれを観るのが日課だ。受賞作品は、独立した審査委員会によって125カ国、4,282人の写真家からの73,996作品の中から選ばれたという。チバの作品は昨年夏のスーダンの革命を取材したもので、場所はハルツーム。ブラックアウトの中で携帯電話のライトに照らされて詩を朗読する少年が写っている。応募作品には抵抗と紛争を主題としたものが多い。チバの作品も流血のスーダン革命が現場ではあるが、しかし詩で非暴力的抵抗を訴える少年、その決然とした表情の瞬間を捉えている。そのことが高く評価されたようだ。絶望のアフリカではなく、希望のアフリカ。つまり、これは希望の写真なのだ。

こんなニュースは19時のNHKテレビでは決して取り上げられることはないだろう。グローバルな視点や民衆の抵抗の視点が欠落しているから仕方あるまい。ARD「Tagesschau」(ターゲスシャウ)では、コロナ関連ニュースで満載の中であっても、そして受賞者がドイツ人でなくても、受賞者の所属メディアがドイツの組織でなくとも、これをニュースとして取り上げるのである。この違いは小さなことと言えるだろうか。

チバはその名前からすると、日本人かもしれない。いや、そんなことはどうでもいいことだ。WPPF(世界報道写真財団)のサイトによれば、チバはフランスの通信社AFPのチーフ・フォトグラファーで東アフリカとインドをカバーし、現在はケニアのナイロビを拠点にしているという。さらに経歴があったので見ると、武蔵野美術大学で写真を学んだのち、朝日新聞社でカメラマンとして働いたとある。2007年にフリーランスになり、ケニヤに移住。ブラジルで2011年にAFPに参加したと記載されている。

私はチバに会ったことはないけれども、写真を見ると、いい顔をしている。ジャーナリストの顔だ。こういう顔を見ると、「ジャーナリスト魂」というものの存在を信じたくもなるので、困る。(右絵 掲載サイトへ

ここにも「ジパング・マスコミ」を捨てて、日本を脱出し、世界に出て、世界スタンダードの中で仕事をするフォト・ジャーナリストがいる。

私は、8年前になるが2012年10月にパリのAFP本社を訪問したことがある。チバがAFPに入ったあとということになる。その時、社長エマニュエル・オークのほかに、写真部長とも会ったことを思い出す。彼とは初対面でもすぐにジャーナリズムの本題に入ることができた。死体写真のことで話し合ったのを覚えている。おそらくチバはあの老獪な写真部長に彼の活動および表現の自由を保証され、かつ仕事および作品を評価されていたのであろう。

見知らぬチバではあるが、私は彼の受賞を祝福したい。


(↓絵:webより)