ドイツ ドキュメンタリー 録 
 ヨハネス・ハーノ記者報告。製作・ZDF。字幕翻訳・無限遠点 より
2018年 作成 佐藤敏宏
01   
福島第一原発。事故発生から三年が過ぎたが今でも緊急事態のままだ。2020年に日本はオリンピックを開催することになった。そして日本政府は、世界を安心させようと必死だ。安倍晋三「私から保証をいたします。状況は統御されています首相の発言がどこまで信用できるのかわれわれは調べることにした
 調査を進めていくと、犯罪社会の心臓部に導かれていった。ヤクザの手先が人を集めて、福島に派遣しています。私たちは、事故の被害が隠ぺいされ、黙殺されていることを突き止めた。
事故のあった原子炉から離れた場所にいる科学者たちを訪ねた。高濃度に汚染されたホットスポットや放射性物質が溜まる場所を発見しました。すべてがコントロールされているというのは本当なのか?京都大学原子炉実験所 小出裕章 残念ながら「アウト・オブ・コントロール」ですね。そしてなにもコントロールできていないので放射性物質は環境に漏れ、放射能汚染が日々広がっているのです。
 
■双葉町
ここは福島第一原発と目と鼻の先にある。特別許可を得ないと、数時間の滞在も許されない。双葉町はいわゆる警戒区域である。ここにはもう誰も住めない、おそらくもう永遠に。町の中心にかかっている標語「原子力 明るい未来のエネルギー」まったく別の時代につくられた言葉だ。
 井戸川克隆氏、双葉町の町長だった。古い武士の家系出身で先祖代々五百年以上ここで暮らしてきた。誇り、誠実、責任感といった徳が何百年にわたって家族で受け継がれてきた。井戸川家の跡継ぎということは 私は井戸川家の墓守なのです。

 双葉町元町長 井戸川克隆 「私にはご先祖様の墓を守り、世話をする義務があります。そしてこの義務を次の世代に受け継いでいかなければなりません。しかしこんな状態では、もう誰にも引き継いではもらえません。」
 井戸川美紀子 「妻として、私は死ぬまで先祖に礼をつくすつもりでした。それがもうできないというのは、胸が引き裂かれる思いです。戦争、地震、津波といった災難を井戸川家は乗り越えてきた。しかし何百年と続いた後で、この家族の歴史は今ここ双葉で終わろうとしている。」「誰も原発事故とそれが引き起こした出来事の責任を取ろうとしない。まったく恥知らずばかりだ、」と彼らは語る。「日本では東電が好き勝手にしたい放題で自分たちのことしか考えていません。政府はそれをそのままに放っておきます。政治家は原発ロビーのいいなりです。私は、それを世界中の人々に知っていただきたい。」

 
■郡山
フクシマの事故現場から55キロのところにあり20キロの立ち入り禁止地区からは大分離れている。私は毎日放射線の線量を測定しています。ここは子供たちの通学路なのです。それで原発事故のあと、測定を始めました。

根本淑栄、教師 「事故が起こる前は、測定などしたことがありませんでした。」根本淑栄さんは学校の先生で、一人息子の母親だ。彼女が立ち入り禁止地区からこれだけ離れた場所で、放射線測定を行うのには理由がある。ここには、立ち入り禁止地区よりも線量の高い場所があるのだ。
「子供が小さかったころ、みんなよくこの近所で遊んだものでした。この場所がどこも汚染されていると思うと、とても悲しくなります。できるだけ見ないようにしています。だって、とても我慢できないからです。いつも泣きそうになってしまいます。」
このことはまったくマスコミでは報道されません。「ここは、あらゆる問題を抱えて悩んでいる人ばかりですがでも、誰もここに来て、どうしているか、と聞いてくれはしません。ですから、私たちはもう忘れ去られているのだと感じています。現実に向き合おうとするのは本当につらいです。」

浪江町
福島第一原発から14キロのところにある。畜産農家の吉沢正巳氏はここから避難するのを拒否した。「私は牛飼いですからね、私は牛抜きでは暮らせない。」
 畜産農家 吉沢正巳「350頭の牛と私は運命を共にしたいのです。牛も被爆し、人間もまた被爆します。よくどうしてそんな危険なところに、と聞かれます、私はもうすぐ60になるんですが、被爆で寿命が短くなるとは思っていません。でも、牛を見捨てるわけには絶対いきません。」
 経営者が避難してここを離れていった、後吉沢さんは牛の世話を受け継いだ。牛を放っていくことはどうしてもできなかった。
 「動物の多くにしかし、変化が見られる。牛に現れた変化を、国に検査してもらたんです。これが結果なんですが、私は、これは被爆の影響だと思ってます。黒い和牛にこうして突然。白いまだらの斑点模様がいっぱいできたんです。政府はそれを検査した。だけどわからない、と言うんですね。こういう症状が出ているということはわかっても原因はわからない、と。」

■ 福島の原発事故によって引き起こされた影響があらゆるところで出ている。しかし、破壊した原子力発電所自体では今まだどのような危険 が進行中なのだろうか? 大阪にある京都大学の原子炉実験所、私たちは小出裕章氏に取材した。小出氏は原子力物理学者で40年以来ここで研究している。原発事故発生以来ずっと、彼はその進展を見守ってきた。政府や原子力業界が発表しているのよりずっと状況はひどい、と彼は言う。 残念ながら「アウトオブコントロール」といわざるを得ませんね。

■京都大学原子炉実験所 小出裕章
 「そしてなにもコントロールなどできていないからこそ放射性物質が外に放出され、放射能汚染が毎日広がっているのです。」

 コントロールできていない?日本だけでなく世界も変えてしまうかもしれない場所、いまだに広島の原発より1万倍以上という放射能が潜む場所。小出氏は、首相の発言に鋭く異議を唱える理由を説明してくれた。

1号機から3号機までメルトダウンしてしまいましたがその溶けた炉心がどこにあるのか、わからないのです。この炉心は冷却しなければいけないので水を原子炉建屋に注入しています。しかし、溶けてしまった炉心に水をやっているので、水は放射能で汚染されます。それは変えることができません。そして建屋にはひびや割れ目がたくさんあるので、そこから地下水が入ってきています
 東電は、その水を循環回路でさらに利用するので、タンクで一時的に貯蔵するといっていますが、もちろん水を全部くみ上げることは不可能です。福島第一原発の敷地はもはや放射能の泥沼と化してしまったのです。付近の井戸からは、高濃度の放射性物質が検出されました。もちろんその一部は海に流れ出ているわけです。数階分が水浸しになっている。そしてその下のどこかに溶けた炉心がある。
 つい最近も、建屋周辺にある観測井戸で採取した地下水が、1リットル当たり500万ベクレルのストロンチウムに汚染されていることを東電が知りながら、半年も隠していたことがわかったばかりだ。今でも毎日200トン以上の高濃度の汚染水が太平洋に流れ出ている。それに加え毎日40万リットルの水がくみ上げられ、このようなタンクに貯蔵されている。今ではこうした汚染水が4億リットルもある。これまでに、すでに何度も問題や水漏れが起きている。東電が経費節約のため放射性物質の貯蔵に適していないタンクを選択したからだ。
 日本政府は、これまでに放出された放射線量は、概算しておよそ広島の原爆の168個分だけだと言っています。チェルノブイリ事故で出た放射能の5分の1だと。しかし福島からは、汚染水が常時、海に排出され続けているのです。環境に放出された放射線の総量はすでに、チェルノブイリと同じ程度だと私は考えています。そして現在でもまだ、事故は進行中です。」

 
■しかし、どうしてこれほどの事態になってしまったのだろうか?東京で私たちは馬淵澄夫氏と会った。彼は事故発生当時大臣を務め事故の対応担当者として事態収束に取り組んだ人物だ。彼は、事故発生直後に、最悪事故の規模に関し東電がどうも真実を隠しているという疑いを持ったという。

 2010年〜2011年の管政権内閣総理大臣補佐官 馬淵澄夫。「放射能に汚染された水が漏れているか」という質問をすると、東電は「水は漏れていない。そんなことはありえない」と、答えました。「地下水はどうなっているか」と聞くと、東電は、「心配は無用だ」と答えました。でも、それは私には疑わしく思えたので、そこで私は地下水の検査をするよう命じました

 東電が嘘をついていたことは、すぐに明らかになった。産業界と科学者による馬淵氏の専門家チームは、毎日数十万リットルの地下水が、福島第一の方に流れていることを突き詰め、その地下水がそこで汚染され、さらに太平洋へと流れ出ることを懸念した。「それで一刻も早く食い止めなければならない」と急ぎました。ゆっくり構えている暇はまったくなかったのです。それを早く食い止めなくては、と事故発生後から約3ヵ月後に当たる2011年6月14日、馬淵氏は記者会見で彼の計画を発表することにした。
 福島第一を取り囲む遮水壁を地下に建設するという計画だ。しかし東電はそれに反対した。東電が記者会見予定の前日に作った極秘書類をZDFが入手したがこのようなことが書いてあった。「わが社ではちょうど有価証券報告書の監査期間中であり遮水壁を建設するということになればその建設費用の記載も求めることになる。しかしそうなれば、市場は激しい反応を見せることになるだろう。わが社が債務超過に一歩近づくと思われてしまう。それだけはぜひ回避したい。」
その影ではかなり厳しいやり取りが行われた。計画された記者会見は行われず、今でも福島第一原発の周辺に遮水壁はない。要するに東電は、遮水壁の費用を、一切出したくなかったのです。私は彼らにとって都合の悪いことを言っていた私を退任に追い込んだのです。「馬淵さえいなければ」と彼らは思ったのでしょう。馬淵がいなければ馬淵チームもなくなる、と。私だけでなく、チームが全員いなくなりますから。

 
■ その影では、強力でつかみどころのない、産業、銀行、政治家、官僚、科学者、そしてマスコミによる日本の原子力ロビーが、ありとあらゆる方法で糸を引いていた。事故発生後、いわゆる原子力村とすぐに対立した。当時の首相も、辞任に追い込まれた。菅元首相もさんざん誹謗、中傷を受けたが後日、これらの非難はすべて当てはまらないことが判明した。事故発生から3年後、その彼が激しく非難を展開している。

菅直人 2010年〜2011年総理大臣「背景にあったのは、いわゆる原子力村が、私をできるだけ早く首相のポストからおろせということでした。これはまったくの陰謀でした。私は、そう受け止めています。

■そして原子力村は、あらたな看板役を見つけた。現在の総理大臣安倍晋三である。安倍首相は2020年のオリンピック開催権獲得に向けて世界に対してこう宣言した。日本総理大臣 安倍晋三「「フクシマについてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況は統御されています。」

 
■内部汚染調査をしている責任者
 現在の政府は再び「原子力村」の人物を諮問委員会に送り込んでいます。これらの人物は、原発の新設を推進したい人物です。巻き返しがすでに始まっているのです。私たちはあるホテルで放射能物質除染の専門家に話を聞いた。彼はある大きな研究所の責任者だ。「そのホテル、町、大学の名前、彼の研究内容も、彼の素性が推理できる手がかりとなるもの、いっさい伏せてほしい」と言われた。
 それには、理由がある。去年の10月始めまでは、かなり自由に意見を述べても平気だったのですが。それから公的機関から指示が出され、「テレビに出演してはいけない。マスコミと一切接触してはならない」と言われました。オリンピックの開催地として候補するにあたり、安倍首相は、フクシマの状況はコントロールされている、といいましたがその後指示が来て「研究結果を、もう絶対にマスコミには公表するな」というのです。

その研究結果というのはいったいどのようなものなのか、訊ねた。

 基本的には、福島第一原発の事故後の状況に関する一切のデータです。私たちは現場サンプルを採集し汚染を検査しています。実際には、なにもコントロールなどできていないのです

 その指示に従わなければ研究プロジェクトの予算がカットされ、彼の元で働く研究員たちが失業することになる。不安、恐怖を育む土壌。そして、日本のマスコミはこのテーマには怖がって触れようとしない、と彼は別れ際に語ってくれた。


 私たちは京都大学の水文水資源学会の山敷庸亮氏の研究調査を取材した。山敷氏たちは、河川や海の放射線汚染がどのように広がっているか調査している東電政府はかねてから、水での汚染は原発周辺の地域に限定されていると主張してきた。
 山敷氏率いるチームは、事故のあった福島第一原発から80キロ離れたこの仙台湾で土と海水を採取した。原発からこれほど離れた場所で調査をするのは、これが初めてのことではない。そしてその結果は衝撃的だった。始め私たちは、放射能汚染はフォールアウトした場所と、原発の水漏れのあるところに限られているのだと思っていたのですが、実は阿武隈川流域一体で汚染が進んでいることが調査で判明しました。私たちの計算では阿武隈川を通じて1年に約10兆ベクレルの放射性セシウムが、太平洋に放出されていますこの量は原発事故直後に、海に流出した量とほぼ同じです

 山敷氏の調査結果は、阿武隈川が事故のあった原発から遠く離れているだけでなく、直接なんの接触もないはずだけにかなり衝撃的だ。それなのに河床は高濃度の放射性セシウムによる汚染があることをはっきり示している。理由は、雪解け水と雨によりフォールアウトした地域から放射性物質が洗い流されることによる。それが小川や支流を通じて阿武隈川に流れ込み、最終的に海へと運ばれていくのである。しかしそれはまた、これから何十年にわたり放射性セシウムが食物連鎖に入り込んでいくことを意味している。誰も気にも留めない、原発事故現場から遠く離れた、この汚染源を通じて。ここ2、3年はもう、誰もこのテーマに関心を示そうとしません。

 京都大学 山敷庸亮 「政府も地方行政も市街の除染をやることが一番の関心事で、海への流出に関しては注意を払いません。これらの事実はすっかり無視されています。」日本政府は事故のあった原発周辺一体での魚の捕獲を禁止している。しかし80キロ北上したここでは許されている

 京都大学、その1週間後のことだ。山敷博士は私たちに河口デルタ地域の泥土サンプルの分析結果を見せてくれた。海流と地形によって放射性セシウムによる海の汚染の影響は異なるが、何箇所かで値が非常に高くなっている。

それで、状況はコントロールされているのでしょうか?

 いいえ! 難しいですね。分析結果はさておき、これは基準値の問題なのです。日本政府は新しい基準値を設定しました。これによれば1キロ当たり8000ベクレル以上が危険ということになっています。これには驚いたんですが、それは、事故前の基準値は1キロ当たり100ベクレルだったからです。
 それで、私たちが分析した値をもう一度よく見てみてくださいどれも8000ベクレル以下です。それで誰もが、大丈夫と思って忘れ始めているのです。しかし私自身は、この汚染は実は非常に高いと思っています。このことに世間はもっと注目すべきです。けれども誰もこの結果に関心を寄せないので、政府もなにもしないのです。

 このような子供だましのトリックで政府は問題を解決しようとしているのだ。基準値をあげれば問題は消え、誰も心配する必要がなくなる、というわけだ。去るもの日々に疎し、ということか。

 

 私たちは浪江町で牛の飼育をする吉沢正巳さんの農場に戻った。今ではここは牛のホスピスとなってしまった。ここで育てられた牛はかつてはよく売れ、繁盛した。しかし2011年3月で原発が爆発して以来それは過去のものとなり、牛は売れなくなった。吉沢氏に、その理由を見せてもらった。

 牛たちはここにあるこういう草を食べていますからね。放射能に汚染された草を一年中食べているんです。放射能が体内に取り込まれているから白い斑点ができたんだと思います。牛たちは外部と内部被爆にさらされているわけですからこの犬だって被爆しているわけですよね。

 吉沢氏には動物たちを見捨てることはできない。自分は外からの食料で賄っているが、牛たちには支持者たちから寄せられる寄付金だけでは足りない。放射能で汚染された食物がどのような影響を与えるのか、牛を検査して調べることができるはずだ。こういう模様ね。こういう白い斑点が出ています。こういうのは前にはなかったんですか?

初めてですね もう40年も牛を飼ってきましたがこういうのは初めてです。

理由は何だと思いますか?

獣医も、これは皮膚病ではないといっています。これは皮膚の病気ではなくて、ほらここ肌が真っ白になっているんです。どうしてそうなったかといえば、それは...。もう長いこと牛の世話をしてきましたけどこういうことは初めてのことでね。放射能の影響ということを考えないわけにはいきません。でないと、理由は多分みつからないでしょう。その周辺の村などでも農家で同じような原因不明の現象が動物に現れている。

 行政からは検査が命じられ そのあとで緊急な勧告が降りた。政府も何もしなかったわけではありません、2回ほど科学者が派遣されてきて、あらゆることを調べていったんですが。それから政府は私に、牛を全部殺すようにと言ってきました。これ以上生かしておいては困るから私に殺せと。
 だけど私にはそれはできません。どうして政府が牛を生かしておきたくないか、その理由は、記録を残しておきたくないんだと私は思っていますね。だから牛を殺せ、ここを片付けろ、と言うのです。しかし被爆するのは動物だけではない

 双葉町に戻った。ほぼ1万人の住民がここには住んでいた。そのほとんどが原発に従事していた。今では、ここは原発事故による立ち入り禁止地区だ。原子炉建屋が爆発したとき、たくさんの人が高線量の被爆をした。


 井戸川元町長も同じである。私たちはちょうど避難する最中でした。病院の患者と看護婦たちがちょうど車に乗ったときです。そのときバーンという大音響がしてそれが1番目の爆発でした。すぐに空からたくさん埃が降ってきました。あのときの線量は非常に高かったと思うんですが、もうすぐに死ぬと思いましたね。皆、そう思ったんです 。

 事故発生後初めて、井戸川夫妻は自分たちの家に戻った。彼らは除草剤を持参した。ここにはもう住めない、ということが彼らにはまだ納得できないのである。

 ついこの間まではこの東京近郊の学校の建物が彼らの避難場所だった。ここに約千人の被害者と共に寝起きを共にした。井戸川氏は爆発後、放射性の埃を吸い込んで以来のどの痛みを訴え、繰り返し鼻血を出し胃や目が痛み、そして疲労感に苦しんでいる。爆発直後、始めは行わないですまそうとした官庁に被爆量の測定をするよう、彼は迫った。結果は数十万ベクレルのヨウ素131とセシウム137だった。しかし測定は測定だけに終わった。それが何を意味するかについては、なにも知らされない。
 福島大学病院では、放射線で健康被害を受けた人は誰もいない、と言うんですね。しかし私たちは事故が起きたとき、すぐそばにいて放射能を直接浴びたわけですが、医学的な検査をなにも受けていないのです。今だになんの検査もされていないのですよ。私は真実を知りたいのです。そしてそれに従った手当てを受けたいのです。


これは2011年に福島で行われた説明会で撮影されたビデオだが、これを見ると日本が公に健康の危険に関する評価としてどのような立場をとっているかが明らかになる。山下教授は政府に任命された、福島の放射線健康リスク管理アドバイザーだ。放射能の影響はニコニコ笑っている人には来ません。くよくよしている人に来ます。これは明確な動物実験で解っています。
 日本政府は非人道的です。それを私は確信しました。まったく情ないことです。国民がことごとく馬鹿にされているのです。いろいろな感情がこみ上げてきますが。一番強いのは、激しい怒りです。

 

 大人と違い、子供を持つ親の要請で子供たちには医学的な検査が行われている。すでに地域の子供、若者たちの30万人以上が甲状腺のスクリーニング検査を受けた。笑っている人には放射線の被害は来ないと言った。福島県の放射線リスクアドバイザーの山下教授も出席し検査結果が規則的に間をおきながら発表される。結果は衝撃的だ。いくつかのカテゴリーに分類されているが、検査を受けた子供たちの約50%に甲状腺異常が検出されている。小さい結節やのう胞からガンまでさまざまなケースがある。親には、自分の子供がどのカテゴリーに分類されたかを知らせる手紙が届く。

 根本氏のところにも、それが届いた。しかしそれには問題点がある。これだけでは、なにもわからないのです。8ミリから20ミリの結節と書いてあって、一番下のカテゴリーだというのですが数字しか書いてなくて、でも私はそれがどういう意味なのかわからない。それでどのような状況にあるのかを説明してほしいのです。でも、検査結果は渡してくれないのです。それでわざわざ申込書を提出しなければなりませんでした。数ヵ月後にやっと、コピー代を払ってようやく根本氏は、超音波写真を含む検査結果を受け取った。
 この結果だけを見てもなにもわからないので、彼女は病院に行き彼女の息子はそこで2度目の検査を受けることになった。しかしそれは放射線リスクアドバイザー山下教授が出した規則に反している。私は病院から、検査をこの病院でしたということは黙っていてほしいと頼まれました。ですから、検査をしてもらった病院と医者の名前は言うことができません。
 というのは、一番下のカテゴリーに分別された症状を持つ子供たちは、2年後まで次の検診が病院で受けられないことになっているからである。それが山下教授による指示だ。どうしてそのようなことをするのか私にはわかりません。政府や県のやり方に対する不信感はそれで募る一方です。自分たちが何を本当にしているのか、知られるのがいやなんだと思いますね。

しかし、2回目の検査をして根本氏は少し安心した。結節が小さくなっていたからである。しかし心配はなくなってはいない。放射能による汚染はまだ続いているからである。薪ストーブに使っていた木なんですが、燃やしたあとの灰を測ってみたら1万5千ベクレルだったのです。それで薪はもう使えなくなりました。それでそれ以来ずっとここに置いてあるんですが。これをどうしていいかわからないんです。高濃度放射能のゴミが自宅の庭に。困って、彼女は町の役所に聞いてみた。役所に電話をして聞いてみたんですが、環境省に聞いてみろ、というんです。それで環境省に聞くと今度は市役所に聞けという。もうどうしていいかわからない、そういう状況です。

 そして彼女が連れて行ってくれたのは町にある公園広場の1つだ。ここは特別な場所である。原発事故発生後日本ではあらゆることが、もう普通ではなくなったことがここにいるとはっきりする。ここは子供たちがたくさん遊びに来る場所です。2011年の事故発生後に除染が始まったとき放射能のゴミがこの公園に埋められたんです。大きな機械を運んできて穴を掘り、そこに除染工事でできた放射能のゴミを袋に詰めたものを何個も寝かせ、また上から土をかけたのです。最初は彼女も、なにをそこに埋めたのか知らなかったという。しかし、それがとうとうわかったとき根本氏は、このような場所が町のどこにどのくらいあるのか訊ねた。「風評被害があるといけない」また廃棄物の不法投棄が増えるといけないという理由で教えてくれませんでした。市がどこに埋められているか知っていれば十分で、市民は知る必要がない、と言われました。

 放射能のごみを公園に埋めそれは誰も知らない方がよい。子供たちの遊び場には、一応立ち入り禁止のロープが張られている。芝生養生中のためという理由で立ち入り禁止の立て札が立っている。ドイツの諺にあるように、草が多い茂ればすべて忘却の彼方、ということか。


仙台駅。
私たちはここで福島の除染作業員を集めていると聞き、やってきた。3晩かかってやっと接触に成功した。取材に応じてくれるよう彼らを説得するのはとても難しい。危険だからだ。もちろん危険です、彼らの商売に影響を与えるから、これは何十億という金のかかった利権である。ある地方一体を除染する作業だ。
 福島県の大部分は、高線量のフォールアウトのため住むことができない。政府はそれを変え、住民に帰還させたいと思っている。しかしそのためには数百万立方メートルという汚染された土を剥ぎ取らなければならない。福島県のいたるところで土が掘られ、パワーショベルが動いている。この危険な作業に携わる労働力がたくさん必要だ。そしてここで活躍するのがやくざである。

 商売はどのように行われるんですか?やくざ自身は、現場での作業には関わりません。彼らの手先である組織が人集めをして、作業員を福島に派遣するだけです。どうやって、どういう人を集めるんですか?借金のある人、または失業者などですね。

仙台の駅周辺で彼らは、仕事の口があるよと声をかけるのです。ただ実際に金を受け取ってみると、約束した額よりかなり少ないのです。で、どれくらい受け取るものなんですか?日取りで5千円から9千円といったところですが、そこから1割から2割がやくざにピンはねされます。やくざがことに好んで雇うのはホームレスだ。

それには理由があると、今井誠二牧師は語る。今井牧師は何年も前から仙台のホームレス支援組織で働いている。原発事故発生後、ホームレスの数は著しく増加したという。何十万人という人が地震、津波、原発事故で一切合財を失ったからだ。ホームレスには職も、住所も、住民票もないので、それで普通の仕事の口はありません。しかし原子力業界では仕事がもらえるのです。

 
 例えば除染作業や原子炉の収束作業などです。どれもとても危険で誰もやりたがらないからです。それで、弱い者がこうして雇われていくのです。やくざに雇われ、彼らが行き着くのは危険な場所にある下請け会社である。住む場所も家族もなく、また福島にいたということがわかると、ほかの仕事にありつけなくなるという不安があることが、原発産業にとって皮肉にも好都合な効果を招いていると、今井牧師は語る。

 実際に病気になっても証拠がありません。彼らは「いや、福島にいたことはない」と言いますから。彼らは嘘をつかざるを得ないのです、そしてもしガンになることがあっても彼らがそこいにたという証拠はありません。まったくひどいことです。大事なのは金のことばかりで人間のことはどうでもいいのです。いつも金の話しばかりです。私たちに情報を提供してくれた人も、やくざの手先として働いていたが足を洗った。もう福島で働きたくないと思ったからだ。しかし沈黙を破るのは非常に危険だ、と彼は言う。顔や姿を見せるのはとても危険です。どんなことが起きるのでしょうか?恐ろしいことをするだろうね。殺しはしないまでも、思い知れというかなりの戒めが待っているだろう。きっと拉致されて、暴行されるだろう。危険な仕事を引き受けるホームレスはいつか死んでも、死を悼んでくれる人もいない。

 

原子力ムラに対立した総理大臣や大臣は辞任に追い込まれ、科学者たちに圧力がかかり事故の真実を隠蔽する。 − いったいどうしてなのか?私たちは答えを求めて福島県の隣にある新潟県を訪れた。
 ここには世界最大の原発がある。日本が自慢とするこの原発設備が建つのは新潟市の中心街から目と鼻の先だ。福島の原発事故以来、運転が停止されている。東電と政府はこの原発を再稼動したいと思っている。原子力発電をまた復活させるにはこの原発が中心的な役割を果たしているからだ。
 私たちは新潟県知事に取材した。この知事は、今までは政府与党である自民党に支持を受けていたがそれは取り消されることになるかもしれない。それは、この知事が再稼動を拒否しているからだ。

新潟県知事 泉田裕彦。現在の「東電再建計画」では、事故があった場合に、銀行も株主も責任を取らなくていいことになっています。そう計画書で設定されているのです。もし事故が起きれば、そのしわ寄せはまた、みんな国民に来るのです。しかし銀行や投資家がなんの損害も受けないということであれば、彼らはこれからもリスクを冒していくでしょうし、安全第一の文化が壊されていくでしょう。私はこれを、倫理的なリスク計画と呼んでいるのです。ここでも何百億、何千億という単位のお金が絡んでいる。

 東電の広瀬社長は、泉田知事に再稼動計画を認めてもらおうと、あらゆる手を尽くしている。 フクシマの事態はコントロールされている、あのような事故があっても「原子力エネルギーは制御可能だ」という。メッセージは変えようとしない。

 東電は真実を話してきませんでしたし、これまで一切責任を取らないできました。「すべてコントロールされている」などというのは私にはなんの意味もない言葉です。彼らがたくさんのことで嘘をついてきたというだけでなく、たくさんの問題に正面から立ち向かうのを避けてきたことが問題なのです。

 原子力ムラが嘘、隠蔽、危険の過小評価をするのには理由がある、と泉田知事は語る。日本には安全神話というのがあります。安全神話は、日本の原発は安全でほかの国のような事故は決して起きない、というものでした。今原発の再稼動に関する議論を見ていますと彼らが新しい安全神話をつくろうとしているという印象を受けますね。

 



新しい安全神話?
 私たちは福島に戻った。島の反対側だ。日本政府と原子力ロビーが原発事故の事態が制御できると見せようとしていることは確かだ。福島第一原発の周りに凍土遮水壁を作るという計画も、それに属している。これで常時原子炉建屋に流れ込み放射能でたちまち汚染されていく。地下水を食い止めようというのである。新川達也氏は政府の原発事故収束対応室長だ。遮水壁がいつ完成するのか、彼に話を聞いた。

 事故収束対応室長 新川達也(経済産業省)。現在、可能性を探る調査を行っているところです。今年度終了までにプロジェクトの工事を終えたいと希望しています。日本の会計年度は3月に終わりますので、つまり2015年の3月を目指しています。それから土が実際に凍るまで2ヶ月ほどかかります。

 遮水壁を作るという初めの計画があがってから数年が過ぎた。この数年の間に毎日、何百トンもの地下水が放射能に汚染され、そのうち毎日200トン以上の水が太平洋に流出している。そしていまだに責任者たちは、可能性調査をしているという。そもそも、凍土による遮水壁が本当に目的を果たすか、という疑問にはまだ完全に答えが出ていないのが現状だ。そのことはこの政府代表者も認めた。

 まだいくつかの課題があります。まず、この技術は、これほどの規模で試されたことがありません、そして地下水の移動速度という問題があります。私たちは低いと考えていますが、もし速度が高ければ水は凍りません。それから地質の問題があります。原発の周りにどのようなものが埋まっているか、土がその条件で凍るか、ということです。

それでも状況がコントロール下にあるとお思いですか?

 はい!

 

 まだ技術の性能が試されたこともなく、福島の現場の条件でそれが機能するかどうか明らかでなくても、それでもコントロールできている?かつて事故収束を担当した馬淵澄夫氏が、なぜ東電と政府がこの計画を決定したのか、その簡単な理由を教えてくれた。国がお金を出すのは凍土遮水壁のように技術的に難解でまだ課題の多いものに対してだけなのです。これが日本のやり方なのです。それより、どうやったら確実に水をせき止められるのか考えなければいけない。難解なプロジェクトを始めることが目的ではあり得ないはずです。よく性能が実証されている技術を使うべきです
 しかし国は、技術的に手間のかかる初めてのプロジェクトにだけお金を支払うことになっています。それで凍土遮水壁が作られるのです。つまり、投資家や株主は責任を問われず、したがって賠償をする必要がなく、まだ実証されていない技術に頼って、日本と世界を大災害から守ろうということだ。

 そして日本の一般大衆はこれらのことをほとんど気にもとめないマスコミでは、福島第一原発から今でも発生している危険や、事故の影響についてほとんど報道しない。それで、忘れられたと感じている人たち、牛飼いの吉沢さんのような人たちに世論を喚起する役を任せるより、ないようだ。彼は月に一度ここ、東京の渋谷を訪れる。
 東京の住民の皆さん話を聞いてください。あなた方が使っている電気は毎晩こうして明るく照らしてくれる。東京の電気は40年来、福島から来ているんです。今は福島の火力発電所から来ています 。だけど、人間としてどうか考えてみてほしいのです。浪江町や富岡町、大熊町、小高町、飯館村の人たちはもう二度と故郷に帰ることができない。米づくりなど二度とできやしないよ。再稼動と今言っている人たちは、ここを見たことがないんです。ことに安倍首相は何も見ていません。本当にがっかりします。

■ 事故を起こした原発を所有する東電に状況をどう判断しているか。訊いてみようと思った。状況が本当にコントロール下にあると思っているのか、「嘘をついている」といわれてどう反論するのか。私たちが質問表を用意すると、応じてもいいといわれていたインタビューを断られた。