衆議院 原子力問題調査 特別委員会


鈴木達治郎質疑応答抜粋 編 
作成2024年2月25日佐藤敏宏

1)日米の違い

○鈴木参考人 アメリカの原子力発電所の廃止措置、一般的には日本と同じで電力会社がやる責任を持っておりまして、ただ、費用については、電気料金から回収するもので基金をつくるという制度になっています。スリーマイル島の事故の廃止措置については、御指摘のとおり、特別の措置が行われておりまして、不足分をほかのところから調達していいと。ただし、基本は民間が責任を持つということであります。

(参照:1979年3月28日Three Mile Island 事故




2)処分の際の不可逆性、可逆性について

○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。

 直接処分をしようが、再処理した後のガラス固化処分であっても、今、可逆性ということは非常に重要なテーマになっております。

 というのは、今の知見でできる範囲のことをやるということなんですが、長い期間を考えますと、将来の知見で、あるいはやっているうちに不都合が出るかもしれないということで、ガラス固化体にしても、今の基本計画、放射性廃棄物処分の基本計画の中にも、可逆性を考慮するということになっています。だから、地層処分全体の考え方として、そのような可逆性の考え方は今重要になっているかなというのがまず第一点でございます。

 それから、将来エネルギーが必要なときどうするかという御質問については、そのときは、多分、原子力発電所がたくさん動いているという前提だと思うんですね。そうすると、使用済燃料は、新しい使用済燃料がいっぱい出てまいりますので、そちらの使用済燃料をまず使う方が当然優先されると思います。それでも十分にプルトニウムが回収できるはずですので、わざわざ地下にあるものを取り出して利用するよりは、新しい使用済燃料のプルトニウムを使った方が効率的だということで、海外で、将来の資源のことを考えている場合でも、直接処分はとにかくやる、もし必要になったら、将来のための再処理の技術や新型炉の技術開発は行う、こちらの方が合理的ではないかと私は考えております。

 とにかく、今、使用済燃料で再処理に適さないものがもう既に出ておりますので、これをどうするかと考えた場合には、当然、直接処分はもう不可避であるというふうに考えておりますので、是非これを法律で可能にできるように国会で検討していただきたいと思います。


 絵:科学映画館  黎明 福島原子力発電所建設記録 調査篇より  


)原子力関連の学科に入学希望する学生が減っている

○鈴木参考人 ありがとうございます。

 この件、以前、たしか、この国会、この委員会でも発言させていただいたと思うんですが、三つほどあります。

 まず、どのような人材が本当に今後必要なのかというニーズの把握ですね。これをまずすることですね。

 そのときに、原子力技術全般というふうに考えるのではなくて、今最も必要なのは、今動いている既存原子力発電所の安全確保等、それから廃棄、廃止措置や廃炉、これは確実に必要なものなので、これについても人材確保を考えていかなきゃいけない。一番最後に、多分、新規原発の人材確保になると思うんですね。その優先順位を間違えないこと。というのは、新規原発に必要な人材と、廃止措置や廃棄物処分、運転に関わる人材は違ってきます。

 それから第二に、人材確保といったときに、将来の世代を考えた場合には、当然ながら、研究基盤、これを維持することが大事だ。

 これは、当時の事故直後の原子力委員会の提言にも出ていますし、最近の原子力委員会の原子力白書にも書かれているんですが、今までの研究開発がどうしても、核燃サイクルとか高速炉とか、プロジェクト志向なんですけれども、そうではなくて、しっかりと将来の技術、革新技術を維持できるような人材確保ができるような研究基盤のインフラを確保する、これが二番目の問題です。

 最後に、原子力産業なんですけれども、海外を見ていますと、国内だけで維持するということではなくて、国際協力で人材を確保するという仕組みも必要ではないか。

 これは、当時も、原子力産業の方々にお話を伺ってみますと、いずれ日本の原子力市場が大きくならないかもしれないということで、人材確保を、海外からちゃんと調達する、あるいは海外での経験を有効に使うということを考えておられますので、何も国内だけで維持する必要はないのではないか。

 このような幾つかのポイントを考えながら、おっしゃるとおり、これは大変重要な問題ですので、これも推進、脱原発かかわらず検討していただきたいと思います。



絵:今後の原子力分野の人材の確保及び育成に向けた 基盤的調査 報告書PDFより



3)福島県はみんなタンクだらけになっちゃうのかね?

○鈴木参考人 トリチウムの毒性、確かに弱いものでありますし、多分、体内に取り込まなければそれほど危険性はないということで、希釈して海洋放出というのは、私は合理的な案だとは思います。

 問題は、黒川先生がおっしゃいましたように、トリチウム以外の放射性核種が混じっている可能性があるということですね。

 実は、1500ベクレル・パー・リッターという基準なんですが、これは国の基準の1/40というふうに報道されていますが、これは実は違うんですね。経産省の資料を読んでもそういう言葉は出てこないです。1500ベクレル・パー・リッターというのは、ほかの放射性物質も入っているという前提で、ほかの放射性物質からの被曝も考慮して、トリチウム分は1500ベクレル、これを合計したら年間1ミリシーベルトになるという、そういう設定なので、1/40 にしたのではなくて、ほかのと合わせて、1500ベクレルなので、ここを間違えないでいただきたい。

 ということは、透明性はもちろん大事でありまして、ほかの放射性物質がどれだけ入っているかというのを必ずチェックする必要がある。ここが不信感が残っていますと、多分、この海洋放出そのものが疑問を持たれるということなので、これはまず第一です。

 それから、決め方の問題なんですが、政府と東京電力が地元の方の反対があるうちは処分しない、決定しないという約束を2015年に交わしていらっしゃるんですが、これを破ってしまったふうに解釈されています。ここが一番の問題でありまして、決め方の問題が残っていると思います。この不信を解消するのは大変だと思います。

 それで、私としては、決定されたわけですけれども、この信頼回復のためには、やはり一つは、きちんとした第三者機関をつくって監視する仕組みをつくる。コミュニケーションも、政府と東京電力と地元の方の間に立ってコミュニケーションを図るような組織をつくっていただいて、これが私が今日提案した組織の一つの例なんですけれども。

 三番目は、これから実際の放出までにまだ二年あるということなので、この期間を利用して、引き続き対話の促進とそれから代替案ですね、これは30年、40年かかりますので、これから引き続き、今黒川先生がおっしゃった根本的問題の解決も含めて、海洋放出以外の代替案も是非検討していただきたいというのが私の希望です。




4)10年の廃炉の取組の進捗の率直な評価


○鈴木参考人 まず率直な感想ですけれども、十年間、大きな事故もなく確実に一歩一歩前進しているということで、私は現場の方々の御努力に深い敬意と感謝を表したいと思います、本当に大変な作業をしていらっしゃるということで。何よりも、二度と放射性物質を環境に出さないという大きなテーマ、それから、まだ実際に環境に出されたのは二%しかない、九八%の放射性物質がまだあそこにあるわけですから、大変なリスクを抱えつつ作業していらっしゃるわけなので、この点はまず第一に評価させていただきたいと思います。

 一方で、やはり東京電力さん一社でやるのは、最初から私はそう思っていますが、なかなか難しいことがいっぱいある。日本のメーカーさんも頑張ってやっていらっしゃるとは思うんですが、本当に世界の英知を集めてやっているのかということについては、まだやはり疑問があります。先ほど黒川先生から御指摘がありましたが、汚染水を発生させない仕組みについても、まだ方法があるのではないか。この点が、いろいろな委員会があって議論されているとは思うんですが、もっと透明性を持って、もっと国際的な知恵を集めて検討していただきたいということで、今日私は提案させていただいたということであります。



5)高い現場力と低い経営力のミスマッチ

○鈴木参考人 東電の改革問題が何のために必要なのかということなんですけれども、これが、廃炉のためということで、福島の廃止措置のためということになってしまいますと、やはりどうしても無理がある。東京電力が一民間電力会社としてやるべきことをやるというのは当然でありますが、この廃止措置というのは一電力会社ができる問題ではない。これは、東電が中心になろうが、誰が中心になろうが、やはり世界の英知を集める仕組みが必要だし、お金も足りない、そこが一番根本的な問題であります。東電が改革されれば廃止措置がうまくいくかというと、私は、そういう問題ではないと考えております。

 したがって、廃止措置をもう一度しっかり、本当に今うまくいっているかどうかということを検証した上で、東京電力には、これは何なのかということを考えていただきたいと思います。



6)福井には大地震があって津波もありましたよね、何であんなところにあんなにたくさん造っているのかな

○鈴木参考人 貴重な資料をありがとうございました。

 一つ目の印象は、何か事故前と余り変わっていないなという。

 それから二番目は、私は、これは交付金制度ということをやはり国会として考えていただきたいかなと。これも、原発の今後を考えたときに果たして今のままでいいのか、原子力依存度を下げていくということであれば、それに沿った交付金制度に変える必要があると。今のままだと、これは、交付金は、御存じのとおり、石油危機直後に原子力を拡大するために導入した制度ですので、これの見直しが必要かなというのが二番目。

 三番目は、40年で廃炉するという基準なんですが、これはたしかこの委員会でも御質問いただいた記憶があるんですが、そもそもこれは科学技術的には余り意味がない期限ですね。海外でも、科学技術的に決めているというよりは、経済性とか社会的な要請で決めているケースが多いです。

 したがって、規制委員会の資料がついていましたが、40年というのは一つの区切りにして、きちんと評価するということが大事ではないかなと思います。




7)規制委員会がこれをタイミングという見解を出したというのは、私、これは重大じゃないかと?

○鈴木参考人 私も質問されたんですね、たしかこの国会、この委員会で。

 それで、科学技術的に考えれば、規制委員会のおっしゃっていることは多分正しい。40年というのは、技術的に限界が来るわけじゃないので、審査する必要が必ずあるわけですけれども、それを法律で40年と決めたということだと思うんですね。問題は、それがどうしても推進派と反対派の道具に使われてしまうというところだと思うんですね。そのときも私、発言したんですが、原子力規制委員会は、与えられた仕事をきちんとするという意味でやっておられるというふうに解釈しております。

 この問題を議論するときに、国会で多分議論する上で重要な点は、やはり、脱原発であろうが推進であろうが、規制委員会の独立性ということをどうやって担保するかということの視点で議論していただければと思います。

 私自身、個人からいいますと、何回も申しますが、科学技術的に40年というのは余り意味がないので、常に、実は、元々の安全規制は毎年チェックするということになっているんですね。これが、毎年新品みたいにしなきゃいけないということで、過剰規制だということで、それが緩和された経緯がありますので、海外から見ても、毎年新品じゃなきゃいけないということはないので、やはり状態を見ながらチェックするということなので、そういう意味では、規制委員会のおっしゃっていることは技術的には正しいかなと思います。


8)もう更地は無理

○鈴木参考人 最終の状態について、更地は無理というふうに思われることももっともだと思いますが、これもなかなか決められないというか、当時もそうだったんですが、基本的に地元の方々の希望は更地にしてほしいということだったので、これを目標にするということで動いてきていると。ただ、御指摘のとおり、調べれば調べるほど難しいということが分かってきていますので、私としては、十年たったんだから、一体どういう選択肢があるのかということについて議論を始めたらどうだという、この原子力学会の提言というのを是非検討していただきたいなと。

 廃棄物、この報告書にも、実際にどれぐらいの量が出るかというのは出ています。もう大変な量が出てまいりますので、ちょっと、通常の原発の十倍以上というふうに一応書かれていますが、これをどうやって減らしていくかということですね。その選択肢もいろいろ書かれていますので、これは技術的な選択肢についてきちっと議論をしていただきたい。これを、私はやはり東電だけではなくて、国会とか、私が提案している廃止措置機関を作れば、そこで透明性を持って議論していただくのがいいかなと。

 小型炉について、ちょっとよろしいでしょうか。小型炉の議論は、もう80年代からあります。なぜ実現していないのかというと、これは買う電力会社がいないんですね、現実に。これを解決しないとなかなか難しい。

 それから、橘川先生から、技術開発するけれども、リプレース、建てないというのはおかしいという御意見がありましたが、私はちょっと違いまして、技術者の立場からいいますと、技術開発というのは、うまくいくかどうかを試すためにあるんですね。最初からもう分かっていれば、電力会社が発注します。でも、研究開発するということは、本当にこれがうまくいくかどうかを試すためにやるので、研究開発するけれども駄目になる可能性も当然ある。そのときには諦めるという判断も必要です。

 小型炉については、何回もこれまでも議論されていますが、電力会社が発注しない。今回は分かりません。でも、最終的にリプレースの決定を国がするのか電力がするのかを決めないと、これはやはり誰かが最終的に購入するという、投資をするという決定をしなきゃいけないですね。研究開発は国がやって成果を出す。そのときに、うまくいくんであればやればいいし、これは民間がやればいいし、うまくいかないんであれば、国が決定するなら決定する、こういう仕組みが必要ではないかと思います。


絵:科学映画館  黎明 福島原子力発電所建設記録 調査篇より  


9 )トリチウム水だけなので、これはちょっと、非常に分かりにくいな

○鈴木参考人 まず、情報公開の件なんですが、経産省のウェブサイトとTEPCOの、東京電力のウェブサイトに全部は出ていませんね。出ているのは、報告書の中に、一回処理したときにどれぐらいほかの放射性物質が残っているかというグラフは出ていますし、東京電力のサイトには、データとして、ちょっと探すのは難しいですけれども、処理水のデータが出ています。ただし、それが出されたのは、2018年に新聞報道で出てからです。それまで出ていなかったので、そういう不信感が残っているということです。

 私は、全国でやるということは、それはほかの方々が納得してくださればやってもいいかもしれませんが、リスクという考え方からすれば、拡大します。だから、やはり私は、リスクを最小化するというのが一番大事なので、そこを考えてやっていただきたいというふうに思います。



10)トリチウムの分離技術


○鈴木参考人 「ふげん」でやったやつは研究開発なので、今すぐその「ふげん」でやった技術を実用化するという段階にはないと思います。

 ただ、トリチウムの分離は、重水炉を持っているカナダとか、現実に商用規模で行われていますし、全く不可能というわけではないです。技術的にはいろいろ提案もありますし、ロシアの提案もありますし、最近はベンチャーからも提案が出ていますので、私は、技術的には可能だと。ただし、実際に福島でやろうと思えば、それなりに実証試験が必要だなということで、今すぐというわけではありませんが、将来の可能性というのは当然考えていくべきだと思います。

 ただ、分離してもトリチウムが消えるわけではないので、どこかに貯蔵しなきゃいけないのと、結局、薄くなるだけでやはりその処理水の中にはトリチウムは少しは残りますので、どこまで薄くするのかという議論は必要だと思います。


絵:ふげんWEBサイトより 


11)菅元総理の最近の本からチャート、地図をいただいたんですが、この最悪のシナリオについて

○鈴木参考人 正直申しまして、当時、私どもも含めて、このシナリオ検討については存じ上げていなかったんです。本当にごく少数のメンバーで、近藤委員長は、委員長ではなくて個人として、自分でやられたということで、当時、私自身は存じ上げていなかったです。発表された後、やはりショックを受けました。

 ただし、当時も、こういう定量的な分析ではないですが、4号炉の使用済燃料についてはすごい心配をしておりまして、海外からも問合せがいっぱいありまして、ここまで定量的な計算はしていませんでしたが、4号炉の使用済燃料プールに水があるかないかということが、決定的な差が出るだろうということで大変懸念したことは事実であります。



12)奇跡的に最悪の事態が回避できた

○鈴木参考人 御指摘のとおり、幸運が幾つか重なったということがあると思います。

 私としては、その後、使用済燃料のプール貯蔵についての危険性を十分認識しましたので、できるだけ早く乾式貯蔵に移管するということが大事ではないかと。これは原子力発電が停止していても起こり得ることなので、やはりできる範囲でプール貯蔵から乾式貯蔵に移管することが大事だと思っています



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