花田達朗 原稿
2019年12月31日 新刊書と山口百恵

今月16日に出版社から完成した本が届いた。その本とは、大石泰彦編著『ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論』(彩流社)である。発行年月日は2020年1月20日となっていて、年明けから配本開始で、書店に並ぶのは年始ということになるそうだ。

私は、その本に「日本『マスコミ』はジャーナリズムではない〜その虚構と擬制の構造分析〜」という一文を寄稿した。その原稿の第1稿を書いたのは今年の2月のことだった。いつものように論文設計図というか、目次構成案というか、それを2Bのシャープペンシルで書いて、それが固まったら、パソコンで本文を打ち始める。そのような作業を始めていたとき、何となくテレビをつけてみた。最近はほとんどテレビは観なくなっていたが、何となく気晴らしにボタンを押したのだった。チャンネルを切り替えていたら、歌謡番組が出てきた。過去のヒットソングをやっていた。

そこに山口百恵の歌と映像が流れ始めた。初めて聴く曲で、「さよならの向う側」という曲。釘付けになった。こういうことはたまにある。私は1975年から1986年まで日本にいなかったので、その11年間に流行ったカルチャーの記憶がスッポリと抜けていて、共有されていないのだ。だから、今になって、ああー、こういう歌があったんだと知ることがたまにある。

テレビ番組表でそのとき確認したら、その番組とは2月11日午後7時からTBSで放映の『歌のゴールデンヒット・歴代歌姫ベスト100』だった。その歌が何位にランクされたかは覚えていないが、そこで私は初めて、山口百恵さんが1980年に引退したときに最後にリリースした曲がその「さよならの向う側」だったことを知った。その当時、私は西ドイツのミュンヘンで暮らしていた。

番組では、フジテレビの『夜のヒットスタジオ』、彼女の引退特集番組の映像が使われていた。曲は作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童、編曲・萩田光雄のトリオの作だ。調べてみると、YouTubeにはその映像がアップされていた。さらに宇崎竜童自身が歌っている映像も見つけた。しかし、解釈がまるで違う。まるで別の歌のようでさえある。不世出の歌姫は作詞家・作曲家を乗り越えていき、自立した声の存在になるのだ。

私はそのYouTubeの映像をディスプレイ上に流しながら、その歌をヘッドフォンで聴きながら、パソコンに向かって原稿を打ち込んだ。繰り返し繰り返し、何度聴いたことだろうか。今回の拙稿は山口百恵さんのおかげである。
「Last song for you.  約束なしのお別れです」

私は拙稿を次の1行で閉じた。
「Thank you for your silence! さよならのかわりに」
これは無論、「さよならの向う側」の歌詞からほとんど引用したものだ。

もしも拙稿を読まれた方がわかりにくいと思われたなら、その歌を聴きながら読み直していただければと思う。きっとスーと頭に入るかもしれない。拙稿の文章は山口百恵さんの歌に重ねつつ書かれていて、同期しているはずだから、共振することだろう。