三陸河北新報社「石巻かほく」編集局編『津波からの生還―東日本大震災・石巻地方100人の証言』   戻る 

  推薦文 花田達朗(早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長)
 Editorial Office of The Ishinomaki Kahoku, A Daily Newspaper of Sanriku Kahoku Shimpo (ed.): SURVIVING THE 2011 TSUNAMI: 100 Testimonies of Ishinomaki Area Survivors of the Great East Japan Earthquake, JUNPOSHA, 2014.
 個人の内面に刻まれた歴史的な出来事の記憶はどのようにして社会的に共有されるだろうか。それは何よりもまず当事者による記録によってである。そのような記録とは証言であるとともに、当事者によるジャーナリズムだとも言える。
 2012年に刊行された、三陸河北新報社「石巻かほく」編集局編『津波からの生還―東日本大震災・石巻地方100人の証言』は、地元の地域新聞がみずからも被災の当事者という状況の中で地域の人々から集めた証言集で、出色の作品として評価された。そこには当事者しか語れない言葉が大切に保存されていた。
 それから2年、本書は、その証言の日本語という殻を取払い、英語という国際語に翻訳することによって、この記憶と記録がシェアーされる広がりを地球規模へと拡大させた。とりわけ津波被災経験をもつ、フィリピン、インドネシア、タイ、チリ、カリフォルニアなどアジア太平洋圏に住む人々に届く言葉を獲得した意義は大きい。海とともに暮らす人々とのつながりが国境を越えて生まれたのだ。
 この英語版刊行プロジェクトを支えたのはオーストラリアや日本の翻訳ボランティアである。その翻訳のプロフェッショナルな質、英語組版の美しさ、そして地元目線でシャッターの切られた多数のカラー写真の臨場感、それらが響き合って、本書の出来上がりはすばらしい。英語版の本の価格設定としては驚くほど抑えてあり、出版社の粋を感じる。3.11の三周年を迎える私たちにとって、本書は希有の贈り物となった。一度手に取ってみることを多くの人々に薦めたい。この本が読まれるシーンはきわめて多様で、多彩だと思う。

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